カルシウムは骨のメイン成分の一つなので、いつの頃からかカルシウム摂取は骨を丈夫にするとか、骨折しにくくするとか、骨粗鬆症を防ぐとか言われ、たっぷり摂るように推奨されました。そして、カルシウム強化をうたう食品も発売されるようになりました。
しかし、本当にカルシウムをたっぷり摂っても大丈夫なのでしょうか?直感的に高齢者にカルシウムサプリは有益に思えますが、どうなのでしょうか?
今回の研究では、軽度から中等度の大動脈弁狭窄症の患者、2,657人(平均年齢74歳、42%女性)を対象に、中央値で69か月間追跡しました。
1,292人(49%)はサプリメントを摂取せず、332人(12%)はビタミンDサプリのみを摂取し、1,033人(39%)はカルシウムサプリメント(±ビタミンDサプリ)を摂取しました。115人がカルシウムサプリだけを摂取しました。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図はカルシウムとビタミンDサプリが、全原因による死亡率、大動脈弁置換術、および死亡または大動脈弁置換術の複合結果に及ぼす影響を示しています。赤い点線はカルシウムとビタミンDサプリなし、緑がビタミンDのみ、青がカルシウム±ビタミンDサプリです。カルシウム±ビタミンDサプリ群では、両方群と比較して、すべてのリスクが高くなっていました。
未調整 | 多変量調整モデル | |
HR(95%CI) | HR(95%CI) | |
全原因による死亡率 | ||
ビタミンDのみ | 1.20(0.91〜1.58) | |
カルシウム±ビタミンD | 1.67(1.39〜2.00) | 1.31(1.07〜1.62) |
大動脈弁置換術なし | ||
ビタミンDのみ | 1.20(0.88〜1.64) | |
カルシウム±ビタミンD | 1.75(1.43~2.15) | 1.38(1.08〜1.76) |
大動脈弁置換術 | ||
ビタミンDのみ | 1.66(0.88から3.13) | |
カルシウム±ビタミンD | 1.38(0.64〜3.00) | |
心血管死亡率 | ||
ビタミンDのみ | 1.65(0.97〜2.78) | |
カルシウム±ビタミンD | 2.45(1.71~3.51) | 2.00(1.31〜3.07) |
大動脈弁置換術なし | ||
ビタミンDのみ | 1.72(0.97〜3.05) | |
カルシウム±ビタミンD | 2.58(1.74〜3.82) | 2.05(1.27〜3.29) |
大動脈弁置換術 | ||
ビタミンDのみ | 1.96(0.36〜10.9) | |
カルシウム±ビタミンD | 2.90(0.68から12.2) | |
非心血管死亡率 | ||
ビタミンDのみ | 1.30(0.78〜2.15) | |
カルシウム±ビタミンD | 1.72(1.22から2.41) | 1.43(0.96〜2.13) |
大動脈弁置換術 | ||
ビタミンDのみ | 1.22(0.98〜1.53) | 1.13(0.87〜1.48) |
カルシウム±ビタミンD | 1.51(1.30〜1.76) | 1.49(1.24~1.78) |
非サプリメント群と比較して、カルシウム±ビタミンDサプリ群では全原因による死亡のリスクが1.31倍、心血管死亡率が2.0倍、大動脈弁置換術を受けるリスクが1.48倍、大動脈弁置換術を受けた非心血管死亡率も1.49倍有意に高いことに関連していました。
数は少ないですが、カルシウムサプリだけを飲んでいた115人では、大動脈弁置換術を受けるリスクが2.7倍でした。
大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が石灰化(カルシウムの沈着)して弾力性や柔軟性を失った状態となり、心臓からの血液の出口が狭くなり起こることが多いと考えられていますが、その石灰化はこれまで動脈硬化と結び付けられていました。それは当然、動脈硬化を起こしている糖尿病や高齢者などに多く起こる病気だからです。糖質過剰摂取、糖尿病では石灰化が起きやすくなると思われますが、それだけではなく、カルシウムの絶対的および相対的過剰が大動脈弁を石灰化しやすくするのかもしれません。
マグネシウムが大動脈弁狭窄症を予防、軽減する可能性があることを示唆している研究もあります。(ここ参照)
日本人の研究では、血中のマグネシウム濃度が高い方が大動脈弁石灰化の発生率は低くなるというものがあります。(ここ参照)
マグネシウムはカルシウムと深くかかわっているにもかかわらず、世の中ではカルシウムの重要性ばかりが強調されています。カルシウムの過剰摂取でマグネシウムの吸収も悪くなる可能性があります。
カルシウムサプリでカルシウムが過剰になり、マグネシウム欠乏になることで、様々な石灰化が助長されるのかもしれません。
マグネシウムとのバランスも考えず、カルシウムサプリだけを摂取することは心臓にとって有害であると思われます。以前の研究では心臓の冠動脈の石灰化もカルシウムサプリで22%増加すると言われています。(ここ参照)
さらに、高齢者はPPI(プロトンポンプ阻害薬)など様々な薬を飲んでいることにより、マグネシウムの吸収も非常に悪くなっている場合も多いでしょう。
人類にとって自然ではない食事、つまり糖質過剰摂取では様々なメカニズムのバランスが崩れて、様々な疾患を招きます。食事を改善せずに、一般的に有益だとされている栄養素をサプリで摂ってもそれが本当に健康に有益かどうかはわかりません。
まずは糖質制限からでしょう。
「Supplemental calcium and vitamin D and long-term mortality in aortic stenosis」
「カルシウムとビタミンDサプリおよび大動脈弁狭窄症における長期死亡率」(原文はここ)
骨の一成分であるカルシウムを摂れば骨が丈夫になるなら、こんなに簡単な話はないですね。
コンドロイチンだか、ヒアルロン酸を摂れば膝関節が治ると同様のからくりと感じます。
ビタミンDのサプリは、北欧など日光が十分当たらない地方で飲まれていると、聞きますが、ビタミンD単独でも、有害な作用があるのですね。勉強になりました。
三世 敏彦さん、コメントありがとうございます。
感受性の問題もあるでしょうし、マグネシウムとのバランスも崩れてしまう場合もあると思いますので、
有害な作用を示す人もいるのでしょうね。