前回の記事で、レバーの食べ過ぎはビタミンAの過剰摂取になるので、問題であることを書きました。レバーだけでなく、健康のためにとビタミンAのサプリメントを摂っている方もいると思います。以前記事にした「ビタミンEサプリメントの不都合な真実」に続いて、今回はビタミンAの不都合な真実について書きたいと思います。ビタミンというのは人間にとって必須のものですが、多くは「諸刃の剣」であり、欠乏しても過剰でも問題が起こる可能性が高くなります。
ビタミンAは、食品中では既成ビタミンA(レチノールとレチニルエステル)とプロビタミンAカロテノイドという、2種類のビタミンAが含まれています。既成ビタミンAは、乳製品、魚、肉(特にレバー)などの動物性食品に含まれています。プロビタミンAカロテノイドで最も重要なはβ-カロチンです。サプリメントではビタミンAは、一部はβ-カロチン、残りは既成ビタミンAの形であるものが多いのですが、既成ビタミンAのみやβ-カロチンのみのサプリメントもあります。
ビタミンAは非常に重要で、特に正常な成長と発達、免疫機能、および視力にとって不可欠です。日本で通常の食事をしていればほとんど欠乏まではしません。不足気味であることはありますが。発展途上国ではビタミンAの欠乏が非常に問題になっています。
では、逆に過剰摂取はどうなのかということですが、β-カロチンの過剰摂取では通常ビタミンAの毒性は起こらないとされています。それは、必要量のみのβ-カロチンが体内でレチノールに代謝される仕組みがあるからです。ですから、問題は既成ビタミンA、レチノールの過剰摂取ということになります。
急性の過剰摂取の症状は、通常腹痛や嘔吐などですが、そんなにレバーを大量に食べることは少ないでしょう。
慢性の過剰摂取が問題です。頭蓋内圧の上昇、頭痛、めまい、食欲不振、悪心、肌荒れ、皮膚炎、関節や骨の痛み、けんたい感、睡眠障害、脱毛、もっと進めば昏睡がみられ、さらに進めば死亡することもありますが、そこまで行く心配は通常ないでしょう。前回の記事との関連で考えると、女性選手がけんたい感やめまいなどの症状を鉄不足と誤って考えてしまい、さらにレバーをたくさん食べるように勧められてしまう危険性もあります。
ビタミンAの過剰摂取の危険性はこれだけではありません。非常に有名な研究では、喫煙者などがビタミンAのサプリメントを摂ることにより、肺がんのリスクが非常に高くなるということが言われています。ひとつの研究ではβ-カロチンとレチノールの組み合わせで、肺がんによる死亡が46%増加、心血管疾患による死亡が26%増加したのです。また別の研究では、ビタミンEとβ-カロチンの組み合わせまたはそれぞれ単独でどのようになるのかを調べた結果、β-カロチンのサプリメントだけの場合、肺がんの発症率が18%増加し、肺がんと心疾患での死亡率も8%増加してしまいました。
さらに前回の記事で挙げた、骨折についてです。骨粗しょう症や股関節の骨折に関しては、推奨量のたった2倍の摂取量と関連しています。初期の人類では、ビタミンA過剰により骨の異常を来していることが示唆される証拠が見つかっています。恐らく初期の人類は動物の肝臓を頻繁に食べていたのでしょう。
ビタミンAは骨の代謝を変化させます。ビタミンAは骨吸収を促進して、骨形成を阻害することがわかっています。妊娠時のビタミンAの過剰摂取により、先天異常が発生するリスクが高くなることは有名です。しかし、妊娠時だけではなく成人してからも骨の代謝に影響があることは変わりません。特に高齢者では骨の問題はさらに重要です。いくつかの研究を示します。
「Serum Retinol Levels and the Risk of Fracture」
「血清レチノールレベルおよび骨折のリスク」(原文はここ)
要約
動物および疫学研究での研究では、高いビタミンA摂取量は骨の脆弱性の増加と関連しているが、ビタミンA状態の生物学的マーカーはこれまで人間の骨折のリスクを評価するために使用されていない。
49〜51歳の2322人の男性で、血清レチノールおよびベータカロチンを分析した。30年のフォローアップ期間中、266人の男性に骨折が記録された。血清レチノールレベルによる骨折のリスクを判定した。
その結果、骨折のリスクは血清レチノールレベルが最も高い男性で最も高かった。血清レチノールの最も高い男性の群では、いずれの骨折についても1.64倍であり、股関節骨折については2.47倍であった。
「閉経後の女性のビタミンA摂取量と股関節骨折」(原文はここ)
要約
ビタミンAの毒性量の摂取は、骨の構築に影響し、動物に有害な骨に対する作用を及ぼすことがあります。長期的な高容量のビタミンA摂取がヒトの骨折リスクに寄与する可能性が高まっています。
閉経後の女性のビタミンA摂取量とビタミンAのサプリメントの摂取量と股関節部骨折リスクとの関係を評価する。
34〜77歳の閉経後女性7233人を18年間追跡した。
18年間に、低または中程度の外傷に起因する603件の股関節骨折が確認された。ビタミンA摂取量(≧3000μg/ dのレチノール当量)の最も高い五分位の女性は、最低摂取量(1250μg/ d未満)の女性と比較して股関節骨折の相対リスク(RR)が有意に上昇し1.48倍であった。有意に高かった。この増加したリスクは、主にレチノールが原因であった。高レチノール摂取と股関節骨折との関連は、閉経後エストロゲンを使用している女性では減少していた。ベータカロチンは骨折リスクに有意に関連しなかった(RRは1.22)。現在、特定のビタミンAサプリメントを摂取している女性は、サプリメントを服用していない人と比較して、股関節骨折のリスクが40%高く、ビタミンAサプリメントを服用していない女性の中で比較すると、食事からレチノールを多く摂っている方が69%骨折リスクが高かった。
結論として、レチノールを高濃度で摂取すると、女性の骨粗鬆症性股関節骨折の発症を促進する可能性がある。強化食品やビタミンサプリメント中のレチノールの量は、再評価する必要があるかもしれない。
閉経後の女性についての研究がありますが、女性のアスリートも無月経になったりすれば、閉経後の女性と同じように考えられます。また、男性でもビタミンAによる骨折が多いとなれば、すべての人に関わる問題と考える方が普通でしょう。サプリメントやレバーの摂り過ぎには十分注意が必要です。
先ほども書きましたが骨折のリスク上昇は推奨量のたった2倍の摂取量に関連しています。それだけ安全域が狭いということです。サプリメントを日常に服用して、さらに食事でも通常の量摂取していれば、すぐに過剰になる可能性があるということです。また、いつものセリフですが、「栄養は食事から」が基本です。自分がどの程度ビタミンAを摂っているのか十分考えてください。サプリメントは必要ですか?しっかりと自分で判断しましょう。