糖質制限は当然ながら1日とか1週間とか、1か月とか、さらに1年とか短い期間で行うものではなく、ずっと続けるものです。研究は短い期間のものがどうしても多くなります。短い期間の研究で糖質制限の是非を判断することはできませんが、短い期間の変化もまた興味深いものがあります。
今回の研究はたった1日、24時間の糖質制限による変化を見ています。対象は男性10名、女性15名、平均年齢26歳、BMI22.7でした。通常の食事を摂った後に、それぞれが別の日に3つの食事を摂りました。MODSUGは中等度の砂糖を含み、全体の炭水化物は50%の食事、LOWSUGは砂糖を5%として全体の炭水化物は50%、LOWCHOは砂糖2%で全体の炭水化物も8%に制限したものです。タンパク質は一定の15%です。(図は原文より)
下の表は朝食です。
MODSUG | LOWSUG | LOWCHO | |
---|---|---|---|
説明 | ピーナッツバター、チョコレートスプレッドを添えた全粒粉トーストとグレープジュース | バタースプレッドを添えた白トーストと全粒粉のトーストと水 | アボカド、チアシード、スクランブルエッグ、水 |
エネルギー密度 (kcal g -1 ) | 1.65 | 1.65 | 1.59 |
炭水化物エネルギー (%) | 52 | 52 | 8 |
脂質エネルギー (%) | 33 | 33 | 76 |
タンパク質エネルギー (%) | 15 | 15 | 16 |
糖エネルギー (%) | 22 | 4 | 1 |
食物繊維(g/100g) | 2.9 | 3.1 | 2.9 |
飽和脂肪(g/100g) | 1.2 | 1.4 | 2.8 |
一価不飽和脂肪 (g/100 g) | 3.0 | 1.6 | 6.5 |
多価不飽和脂肪 (g/100 g) | 1.6 | 2.9 | 2.1 |
比率 (飽和/不飽和) | 0.26 | 0.32 | 0.32 |
昼食/夕食です。
MODSUG | LOWSUG | LOWCHO | |
---|---|---|---|
説明 | チーズと砂糖を加えたペストパスタ | チーズのペストパスタ | ペストを加えたカリフラワーとチーズ |
エネルギー密度 (kcal g -1 ) | 2.43 (0.08) | 2.12 (0.09) | 2.52 (0.04) |
炭水化物エネルギー (%) | 52 | 52 | 3 |
脂質エネルギー (%) | 33 | 33 | 81 |
タンパク質エネルギー (%) | 15 | 15 | 16 |
糖エネルギー (%) | 22 | 2 | 2 |
食物繊維(g/100g) | 1.3 (0.0) | 1.7 (0.3) | 1.3 (0.0) |
飽和脂肪(g/100g) | 3.3 (0.1) | 2.8 (0.4) | 7.9 (0.1) |
一価不飽和脂肪 (g/100 g) | 3.0 (0.1) | 2.4 (0.4) | 7.4 (0.1) |
多価不飽和脂肪 (g/100 g) | 2.6 (0.1) | 2.3 (0.3) | 7.0 (0.1) |
比率 (飽和/不飽和) | 0.59 | 0.59 | 0.55 |
実際の食事の写真は上のようなものです。なんかまずそー、食欲湧かねー!
上の図は、朝食の摂取後のエネルギー消費とエネルギー源です。すべての条件でエネルギー消費が増加しました。食後の呼吸交換比(肺呼吸における酸素摂取量に対する二酸化炭素排泄量の比率(二酸化炭素排泄量/酸素摂取量) は、MODSUGおよびLOWSUGよりもLOWCHOの方が低くなりました。これはLOWCHOで脂肪がエネルギー源になっている比率が多いことを意味します。図のCとDを見てみると、炭水化物の酸化速度は、MODSUGおよび LOWSUGよりもLOWCHOの方が低く、脂肪の酸化速度はLOWCHOの方が大きくなっていました。
上の図は朝食後4時間と24時間後の血糖値、インスリン、乳酸濃度についてです。当然、しっかりと糖質制限がされているLOWCHOでは、血糖値もインスリン値も、乳酸値も空腹時と変化がありません。一方MODSUGとLOWSUGでは血糖値、インスリン値、乳酸値も朝食後に増加し、4時間の間の曲線下面積もLOWCHOより大きくなりました。興味深いことに有意差はありませんが、砂糖の少ないLOWSUGの方が血糖値の曲線下面積が大きくなっていました。ピークは砂糖の多いMODSUGの方が高かったのですが、砂糖以外の糖質の多いLOWSUGの方がベースラインに戻るまでの時間がかかっているようです。
朝食から24時間後の絶食状態では、MODSUGとLOWSUGに対してLOWCHOの方が血糖値が低くなりました。
朝食摂取後、中性脂肪値はLOWSUGと比較してLOWCHOで上昇しましたが、それでも1.2mmol/L以下なので、日本の単位では100mg/dL程度なので問題はないでしょう。遊離脂肪酸とグリセロールはMODSUGとLOWSUGで減少しましたが、LOWCHOでは3時間後くらいから遊離脂肪酸が増加し、24時間後では大きく増加していました。これだと糖質制限24時間後にはすでに耐糖能が低下したように見えるでしょう。もちろんただの生理的変化です。
ケトン体は3時間後からLOWCHOで増加し始めています。24時間後では大きく増加しています。
CのLDL コレステロールはMODSUGとLOWSUGに対してLOWCHOで24時間後により増加していました。レプチンは24時間後、LOWSUGと比較してLOWCHO低くなっていました。朝食摂取後、血清FGF21(線維芽細胞増殖因子21)はすべての条件で減少し、MODSUGに対してLOWCHOでは24時間後も低いままでした。
上の図は性差です。
男性と比較して女性では、遊離脂肪酸の変化が大きく、またLOWCHOでのケトン体の上昇も早く、大きくなっていました。さらに、女性では LDL コレステロールが24時間後にLOWCHOで大きく増加していました。血清レプチンはベースラインから男性よりも女性の方が高く、24時間後にLOWCHOでの女性で減少していました。
糖質制限が女性のレプチン濃度の低下を引き起こすが、男性のレプチン濃度の低下を引き起こさないということは、男性の方が糖質制限の開始時に適応しやすいのかもしれません。女性の方が脂肪の減少に敏感なのかもしれません。また、女性は男性と比較して、食後の脂肪組織のリポタンパク質リパーゼ(LPL)活性が増加していることが関係しているかもしれません。糖質制限でLDLコレステロールが上昇することがありますが、女性ではすでに24時間後でも上昇しているのは非常に興味深いですね。
さらに、24時間だけで考えれば、砂糖であろうが砂糖以外の炭水化物であろうが大きな違いが無いと思われます。つまり、糖質は糖質であり、添加される糖でなくても穀物由来などの糖質も体に与える影響は同じようなものです。
もちろん、食事を続けて人体が食事の変化に適応した場合は異なるデータが得られるでしょう。
「Restricting sugar or carbohydrate intake does not impact physical activity level or energy intake over 24 h despite changes in substrate use: a randomised crossover study in healthy men and women」
「砂糖や炭水化物の摂取の制限は基質の使用量が変化しても、24 時間以上の身体活動レベルやエネルギー摂取量に影響はない: 健康な男性と女性を対象としたランダム化クロスオーバー研究」(原文はここ)
狩猟採集などによって食料調達から、穀物栽培をはじめとした農業に発展があり、
安定的な食糧供給という利点と引き換えに糖質過剰摂取という副作用が発したのですね(夏井先生論?)