多発性嚢胞腎には糖質制限を その2

以前の記事「多発性嚢胞腎には糖質制限を その1」で多発性嚢胞腎に対するケトン食の効果の研究について書きます。今回も同様ですが、今回は学会発表レベルです。11月6日までアメリカオーランドで行われていた、アメリカ腎臓学会のthe Kidney Weekで発表されたものです。

ケルン大学の研究です。(ここ参照)

ケルンで実施されたKeto-ADPKD 研究には、63 人の 常染色体優性多発性嚢胞腎 (ADPKD) 患者が参加しました。この臨床試験の目的は、ADPKD患者の治療法としてのケトン食の実現可能性、有効性、および安全性を実証することでした。患者は3つのグループに分けられ、1つのグループは、炭水化物と砂糖が少なく、脂質が多いケトン食を3か月続けました。2番目のグループは、研究期間中、毎月3日間の水断食を行いました。これもケトジェニック代謝につながります。3番目の対照グループは、医師が通常 ADPKD に対して与える一般的な食事の推奨事項に従いました。塩分摂取量を減らし、1日あたり2~3リットル以上飲むことです。ケトーシスは血中のβ-ヒドロキシ酪酸、呼気中のアセトンで確認しました。

ケトーシスは、水断食の3つのフェーズすべてで、参加者の85%で示されました。ケトン食グループではケトン体の3つの時点の値で78%が開始前よりも高い値を示しました。主要な実現可能性エンドポイント(詳細はわかりません)の達成は水断食グループの80%で達成されましたが、ケトン食グループでは43%でした。これは恐らく事前に定義されたβヒドロキシ酪酸の閾値 (すべての検査で 0.8 mmol/l 以上) によるものと考えられます。

総腎臓容積 (TKV)と総肝臓容積 (TLV) も測定しています。身長で補正した総腎臓容積 (htTKV) は腎機能低下と相関しています。3か月後、腎臓の大きさや腎機能などの重要なパラメーターに関して有益なデータが認められました。腎臓はケトン食で小さくなりましたが、対照群ではサイズが大きくなりました。平均htTKV変化量は、対照群で+13.9ml/m、水断食群で+7.1、ケトン食では-12.8でした。

肝臓の容積も平均htTLVの変化量は、対照群+42.2ml/m、水断食 -10.0±98.2、ケトン食群-55.1±72.5でした。

さらにたった3ヶ月で腎機能のeGFRはケトン食および水断食で増加し、ケトン食では5.04ml/min、水断食では 0.21の増加でしたが、対照では-1.26減少しました。水断食レベルではやはり効果は少ないですね。

ただし、2人はケトン食中に腎結石がありました。

いずれにしても多発性嚢胞腎にケトン食が有効なのは間違いないでしょう。恐らく糖質制限でも十分だと思いますが、データがありません。

さらに、同じ学会で内臓脂肪と多発性嚢胞腎の腎臓の大きさの成長との関連の研究が発表されています。身長補正総腎臓容積 (htTKV)との関連を分析すると、腹部皮下脂肪、 内臓脂肪、総腹部脂肪組織は、htTKVのより大きな増加と関連していました。腹部脂肪、特に内臓脂肪は、初期段階の多発性嚢胞腎患者の htTKV の増加と強く独立して関連しています。

これについて、脂肪組織は活発な内分泌器官なので、内臓脂肪組織では、炎症誘発性サイトカインとアディポカインの放出を促進することができ、脂肪細胞によって促進される多数のシグナル伝達経路も、潜在的に前嚢胞形成環境を促進するからだと、この研究者は考えているようです。もちろん、そういうことも重要なことだと思いますが、私は脂肪組織、内臓脂肪が増加する食事こそが最大の促進因子、危険因子だと思います。糖質過剰摂取でmTORやIGF-1が強く活性化されて、嚢胞数と嚢胞サイズが増加するのだと思います。

まずは糖質制限ですね。

 

「KETO-ADPKD: A Randomized, Controlled Trial on Ketogenic Dietary Interventions in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease」

「KETO-ADPKD: 常染色体優性多発性嚢胞腎におけるケトジェニック食事介入に関する無作為対照試験」(抄録はここ

「Visceral Adiposity Is Strongly Associated With Kidney Growth in Early-Stage Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease (ADPKD)」

「内臓脂肪症は、初期段階の常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)における腎臓の成長と強く関連している」(抄録はここ

7 thoughts on “多発性嚢胞腎には糖質制限を その2

  1. 一日一食(夕)スーパー糖質制限を長年継続しています。
    週に1~2回の断食も3年くらい。
    食事以外では無糖の飲料や甘味料ラカント使用飴などを摂ります。あと岩塩も適当に舐めてます。
    毎朝1時間位運動後、仕事に行きますが、体調は良いです。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      1日3食バランスの良い食事が健康的だという「不健康」なアドバイスを信じている人も多いですからね。
      現代では食品業界が健康の問題を作り出し、製薬会社がそれを解決するための薬を売り込むという図式が出来上がっています。
      そしてそれらの企業が栄養や医療を握っているでしょう。

  2. 国民の健康よりも企業の利益、利権優先ですね、きっと。(我々もひとのことは言えませんが、、、)
    ただ、「1日3食バランス良く」推進派、不随する医薬品やサプリ、栄養食品業界の方々の実際の食生活などは気になりますが。
    様々でしょうけど。

  3. こんばんは。ADPKDの患者です。糖質制限実施してから
    腎機能低下がとまり、むしろ向上して現在に至ります。新しい研究発表の紹介ありがとうございます。
    糖質制限と1日1食ないし、2食なのでかなり低カロリーですが、体調良すぎて嬉しい限りだし、もともと肥満でもないけど、さらに痩せてスッキリしました。むかし、カロリーが足りないと、体が筋肉を分解して結果的に高タンパクになり腎機能が悪くなるとも教わりましたが、そんなこともないです。ありがとうございました!

    1. ちばさん、コメントありがとうございます。

      腎機能低下がとまり良かったですね。
      恐らくは1日に必要なカロリー設定ももっと少ないのではないかと思っています。
      そして筋肉は動いている限り、そんなに簡単に分解されるような設定にはなっていないと思います。
      使わない筋肉は減少します。

  4. 貴重な情報をありがとうございます。
    シミズ先生に質問させていただきたいことがあります。

    先月ADPKDと診断され、現在一日の糖質量80g以下のセミケトジェニックを実践しています。
    ただ、病気の進行を抑制していくためには、一日の糖質量を60g以下にする本格的なケトジェニックをすべきなんだろうかと悩んでおります。

    上記について、先生はどのようにお考えになりますでしょうか?

    ※セミケトジェニックにしている理由
    低体重のため、身体に負担がかかりにくそうな一日の糖質量80g以下から始めています

    1. sakaさん、コメントありがとうございます。

      実際には1日の糖質量というのは個人差があります。スーパー糖質制限では基本1日50~60gですが、
      これも万人に当てはまる量ではありません。体重が80kgと40kgの人では違うのですから。
      基本的にはやはり食後の血糖値を測定したり、ケトン体値を測定して決定した方が良いと思います。
      ADPKDなら、ある程度ケトン体と高くし、ケトーシスの時間帯をできる限り長くする方が良いのではないでしょうか?
      1日量も重要ですが、1回量も重要です。
      低体重で1日80g糖質だとすると、1回30gのこともあるかもしれません。そうすると、結構血糖値は急上昇しているはずです。
      エビデンスがまだそろっていないので、試行錯誤が必要だと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です