糖尿病の標準治療では患者の寛解はせいぜい100人に1人

糖尿病や高血圧などの慢性疾患は本当に「慢性」でしょうか?「いったんなったら治らない」「一生付き合わなければならない」「一度薬を飲み始めると一生飲み続けなければならない」と私が医学部の学生のころに聞いたことがありますし、今でもそれはほとんど変わらないでしょう。

しかし、慢性疾患は医療が慢性化させているだけです。根本原因を取り除かず、野放しにしているので、いくら薬を飲んでも良くなるはずがありません。

今回の研究では新潟大学のグループが全国の糖尿病専門施設に通院中の4万8千人の2型糖尿病患者を対象に、臨床データを分析し、糖尿病が「寛解」する(いったん糖尿病になった人が血糖値が正常近くまで改善し、薬が不要な状態とな)割合などを調べました。日本全国の糖尿病専門施設に通院中で、登録時に寛解の状態ではなく、血糖の指標である HbA1c 値や体重を継続的に測定されている18歳以上の2型糖尿病患者48,320人を対象とし、1989年から2022年において寛解(薬物治療を中止され、HbA1c値6.5%未満が3か月以上継続した状態)したかを追跡しました。(図はプレスリリースより)

上の図はその結果です。追跡期間(中央値)5.3年の間に3,677人が寛解に至りました。1000人年(1000人を1年追跡)あたり10.5人(約 1%)となりました。つまり100人に1人です。糖尿病専門施設に通院して治療しても、寛解できるのは100人に1人しかいないのです。これが標準治療の限界です。

上の図を見ると、糖尿病罹患期間が短いほど寛解に至る割合が増加しています。当然でしょう。すい臓のダメージが年々蓄積しますので、どんどん寛解が難しくなると思われます。同様にHbA1cが低いほど寛解になりやすく、BMIは高いほどおよび体重変化が大きいほど寛解になりやすいです。これも当然で太っている人はインスリン抵抗性が高いので、痩せればその分インスリン抵抗性が低下するのでインスリンが効きやすくなり、寛解になると思われます。わざわざデータを集めて分析しなくても十分に予想できますね。

寛解に達した3,677人を追跡した結果、1年間寛解を維持した人はたった1,187人にとどまり、残りの2,490人は再び血糖値が上昇して再発しました。(再発という言葉にはちょっと違和感がありますが)つまり、1年間という短期間でも寛解を維持できるのは100人に0.34人程度なのです。そりゃあ「いったんなったら治らない」と思ってしまいますよね。

上の図のように寛解の可能性は、80歳以上になると低く、罹患期間が長くなるほど低く、観察開始時のHbA1cが高いほど低くなっていました。逆にBMIは高くなればなるほど寛解の可能性は高くなっていました。1年間の体重変化が大きいほど寛解になりやすくなっていました。薬物療法は薬が増加するほど寛解が難しくなるのは当然でしょう。

寛解を1年間維持できる可能性も同様の傾向です。

1年以内の再発の可能性はその逆の傾向です。罹患期間が長いほど、最初のBMIが低いほど、体重が増加するほど再発しやすくなっています。もともと痩せている人はインスリン分泌が少ないタイプなので、体重を減らしてインスリン抵抗性を下げることもできず、糖質過剰摂取のままでいればすぐに血糖値が上昇するのは当然でしょう。体重が増加してしまえば、その分インスリンが効きにくくなるので再発が起きやすくなるのも当然です。

日本人や他のアジア人は一般的にインスリン分泌能が低く、肥満にならなくても2型糖尿病になりやすいですが、肥満の人も増加しています。

同じ2型糖尿病患者でもやせ型と肥満では発症メカニズムが異なりますが、基本的な対処は同じです。やせ型の人はインスリン分泌能が低いのですぐに高血糖になります。そうであれば血糖値を上げない食事をすればいいのです。肥満の人はインスリン分泌能が高く高インスリン血症となり、インスリン抵抗性が高くなり、血糖値が上昇します。そうであればインスリンがあまり出ない食事をすればいいのです。つまりどちらも必要なのは糖質制限です。

今回の研究で標準治療では日本人の寛解率は1%程度でした。これは欧米人と同程度のようです。そして1年でさえ多くの人が維持が難しく、1年間寛解を維持できるのは0.34%程度です。

今回の研究の寛解の定義は薬物治療なしでHbA1c値6.5%未満が3か月以上継続した状態です。

以前の記事「2型糖尿病に対する糖質制限の長期的効果 2年間でも圧倒的! その2」や「2型糖尿病に対する糖質制限の長期的効果 3.5年のエビデンス」で書いたように、糖尿病の逆転の定義を、メトホルミン以外の薬物療法を伴わない、前糖尿病性高血糖症および正常血糖(6.5%未満のHbA1c)として、また、部分寛解は投薬なしで少なくとも1年間の糖尿病以下の高血糖症、5.7〜6.5%のHbA1c(2回のHbA1c測定)、完全寛解は投薬なしで少なくとも1年間の正常血糖、5.7%未満のHbA1cとした場合、2年間で糖質制限群で糖尿病の逆転が53.5%、部分と完全を合わせた寛解は17.6%、完全寛解は6.7%に起こりました。その後の研究で、参加者の22%が3.5年で糖尿病の寛解を達成し、参加者の17.5%が2〜3.5年の治療で寛解状態を維持しました。こちらの寛解は1年間維持が基本なのに、圧倒的に寛解率が高くなっています。しかも糖尿病歴は8年前後の人です。

糖尿病は糖質過剰症候群なので、標準治療のように糖質過剰摂取のままでは、いくら薬でごまかしていても、どんどん進行していきます。

今回の研究で運良く1年間寛解が維持できていても、糖質過剰摂取のままでは近いうちに「再発」してしまうでしょう。

この研究では「これまで「糖尿病は治らない」と言われていましたが、たとえ糖尿病と診断されても、早期から生活習慣改善や薬物治療に取り組み、減量を行うことで 2 型糖尿病の寛解は可能だということを示しています。」と言っています。もちろん、早期に始めなければなりません。しかし、それは薬物治療ではなく、カロリー制限でもなく、重要なのは根本原因の糖質過剰摂取を止めることなのです。早期に糖質制限を始めれば、すぐに寛解し、糖質制限をしている限り寛解を維持できるでしょう。標準治療で時間を無駄にせず、糖質制限を始めましょう。

 

「Incidence and predictors of remission and relapse of type 2 diabetes mellitus in Japan: Analysis of a nationwide patient registry (JDDM73)」

「日本における2型糖尿病の寛解と再発の発生率と予測因子: 全国患者登録の分析」(原文はここ

3 thoughts on “糖尿病の標準治療では患者の寛解はせいぜい100人に1人

  1. 糖尿病の寛解という状態について質問ですが、私は現在、糖質制限を始めて5年間、薬物無しで早朝空腹時血糖とHbA1cは糖尿病の基準を満たしていないので寛解と言えるのでしょうか。
    しかし、元々、私の糖尿病の確定診断はOGTTでしたし、今でもOGTTを受ければ糖尿病の基準を満たすと思います。この場合も寛解と言えるのでしょうか。
    要するに糖質をとらなければ正常値だが、糖質を摂れば高血糖になる状態です。

    1. 西村典彦さん、コメントありがとうございます。

      糖尿病という病気の定義は検査の数値で線引きしただけです。どんなものを食べても空腹時血糖やHbA1c、OGTTで正常の範囲であれば、糖尿病ではありません。
      しかし、インスリン抵抗性が高いだけの場合を除いて、一度その基準を超えてしまうほどすい臓の機能が低下してしまうと、恐らくどんな薬を使っても
      どんな食べ物でも血糖値の範囲が正常に収まるようにはならないと思います。
      糖質制限をしてすい臓が回復したとしても、また糖質過剰摂取をすればすい臓は弱ってくるでしょう。
      そう考えると、完治という言葉は使いづらいので、寛解となるでしょう。

      ただ、糖尿病をOGTTで診断することは本来はおかしいと思っています。
      糖質を普段摂らない人でも、糖質を摂らないと検査ができないのですから。
      糖質過剰摂取者にはそれでいいかもしれませんが、糖質制限者には不向きな検査です。
      寛解にはOGTTは関係ありません。

      でも空腹時や食後の高血糖が起きていないのであれば、病名を付ける意味はありません。
      現在の状況は寛解と言えます。

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