糖質制限をするとLDLコレステロールと共に遊離脂肪酸も増加します。恐らく糖質をエネルギーにしないので、常にエネルギー源である脂肪酸を循環させているのではないかと思います。
今回の研究では32人の健康な(?)肥満の人(平均年齢43歳)、平均体重は101~103kgが対象です。半分ずつ高脂質の糖質制限群と高炭水化物のカロリー制限群に分け、6週間その食事を行いました。
高脂質群では1日あたり約20g の炭水化物を摂取するように指示されました。炭水化物制限内で満腹になるまで食べるように言われました。
高炭水化物群では女性の推奨エネルギー摂取量は1200~1500kcal/日で、BMIが36を超える人にはより高い摂取量が推奨されていました。男性には1500~1800kcal/日を摂取するように指示され、BMI が 36 を超える人にはより高い摂取量が推奨されました。そしてエネルギーの約30%を脂質、15%をタンパク質、55%を炭水化物から摂取することが奨励されました。(図は原文より、表は原文より改変)
差 | 値 | |
体重減少(kg) | ||
高炭水化物 | −6.0±3.5 | 95.4±11.3 |
高脂質 | −6.2±4.8 | 97.3±12.9 |
空腹時 | ||
RLP-C (mg/dL) | ||
高炭水化物 | −1.9±3.3 | 2.5(0.8、4.6) |
高脂質 | −2.7±3.1 | 2.0(1.0、3.4) |
HDL-C(mg/dL) | ||
高炭水化物 | −5.1±7.8 | 43.0(38.5、46.5) |
高脂質 | −2.6±13.1 | 41.0(34.0、59.5) |
LDL-C(mg/dL) | ||
高炭水化物 | −6.7±7.8 | 91.5(85.6、113.2) |
高脂質 | 11.7±28.2 | 121(97.7、130.0) |
遊離脂肪酸 (μmol/L) | ||
高炭水化物 | 25.4±269 | 660±191 |
高脂質 | 159±291 | 790±259 |
血糖値 (mg/dL) | ||
高炭水化物 | −0.1±6.0 | 85.5±6.5 |
高脂質 | 0.9±10.5 | 86.4±7.6 |
インスリン (μU/mL) | ||
高炭水化物 | −2.8±5.3 | 7.9±5.7 |
高脂質 | −4.7±8.0 | 6.6±3.6 |
中性脂肪 (mg/dL) | ||
高炭水化物 | −26.9±41.3 | 90.1±48.7 |
高脂質 | −43.6±59.5 | 80.4±29.3 |
曲線下面積(24 時間) | ||
RLP-C (mg/dL) | ||
高炭水化物 | −50.2±54.8 | 70.7 (35.3、97.8) |
高脂質 | −59.7±70.8 | 63.7(32.2、103.5) |
遊離脂肪酸(μmol/L) | ||
高炭水化物 | 10.8±1269.6 | 4798±1373 |
高脂質 | 4486±2293 | 9686±1801 |
血糖値 (mg/dL) | ||
高炭水化物 | 35.7±79.5 | 1464±92.5 |
高脂質 | −133±82.9 | 1315±58.5 |
インスリン (μU/mL) | ||
高炭水化物 | −141.9±207.6 | 350±152 |
高脂質 | −338.7±398.1 | 217±56.5 |
中性脂肪 (mg/dL) | ||
高炭水化物 | −350±673 | 1979 ± 1092 |
高脂質 | −793±872 | 1720±622 |
上の表は6週間後の変化です。高脂質の糖質制限では満腹になるまで食べても、体重が6.2kg減少。高炭水化物群ではエネルギー(カロリー)制限をして、6kg減です。
LDLコレステロールは高炭水化物では6.7mg/dL減でしたが、糖質制限では11.7の増加でした。やっぱり糖質制限はLDL増加しますね。
空腹時の遊離脂肪酸は高炭水化物で変化なしでしたが、糖質制限では159μmol/L増と大きく増加しました。
糖質制限ではインスリンも中性脂肪も大きく減少です。
24時間の曲線下面積で見ると、レムナントコレステロール(RLP-C)は両群で低下でした。遊離脂肪酸は糖質制限で非常に大きく増加しています。血糖値、インスリン、中性脂肪は糖質制限でやはり減少です。
上の図はAがインスリンの推移、Bは遊離脂肪酸の推移です。ベースラインと高脂質の糖質制限(High Fat)、高炭水化物(High Carb)で見ると、ベースラインと高炭水化物では同じような推移になっています。高炭水化物とは言えエネルギー制限なので糖質量が減っているでしょうから、その分インスリン分泌は低下しています。
当然ですが、糖質制限ではインスリン分泌は非常に緩やかな推移です。
遊離脂肪酸は糖質制限ではほとんど大きな変化がありません。高炭水化物では空腹時は糖質制限とあまり変わりませんが、食事をした途端大きく低下し、2時間くらいするとまた急上昇、また食事で急降下の連続です。インスリン分泌により遊離脂肪酸が抑制されているのでしょう。
上の図は、空腹時(A)と24時間(B)の遊離脂肪酸(横軸)とLDLコレステロールの変化(縦軸)の関連です。遊離脂肪酸が増加するほどLDLコレステロールも増加しています。
これを見ると遊離脂肪酸が高いからLDLコレステロールも高くなると思ってしまうかもしれませんが、相関しても因果関係ではないと思っています。そもそも脂肪酸とコレステロールは役割が違うのではないでしょうかね?
この研究では「高脂質食が積極的な減量中に代謝に悪影響を与える可能性がある」と考えています。つまり、糖質制限反対派ですね。
血中の遊離脂肪酸の上昇は、肥満やインスリン抵抗性の高い人で起きていて、また遊離脂肪酸を注入すると末梢、筋肉のインスリン抵抗性が増加する(ここ参照)ということから、遊離脂肪酸は悪いものだと考えられています。これはLDLコレステロールが悪とみなされているのと同様です。
血中の値だけを見て、その背後の代謝を無視して、一部のデータを有害だと決めつけると、根本原因を見失う可能性が高くなります。糖質制限では中性脂肪は大きく低下し、HDLコレステロールは大きく増加しますが、代謝障害では逆で、中性脂肪は増加、HDLは大きく低下します。糖質制限では血糖値やインスリンは低下しますが、代謝障害では血糖値やインスリン値は増加します。
空腹時はどんな食事をしていても通常、絶食時間の応じて遊離脂肪酸が増加します。そうすると一時的にインスリン抵抗性でブドウ糖の取込みが低下します。それがファーストミールでの血糖値上昇になると考えられます。1日の最初の食事で糖質を摂れば誰でも通常よりも血糖値が上がりやすくなります。
ある意味糖質制限はインスリン抵抗性の状態を作ります。しかし、それは代謝障害のインスリン抵抗性とは違い、ブドウ糖の取込みに関してインスリン抵抗性であり、それは自然の生理的反応でしょう。多くの臓器、組織は脂肪酸やケトン体をエネルギー源にできるし、人類の進化の中でそれが通常の状態であったので、不思議なことではありません。脂肪酸をエネルギーにすることが当たり前であれば、血中に遊離脂肪酸があることは当然でしょう。それを利用できるかどうかの違いは大きいです。
代謝障害では利用するために遊離脂肪酸が増加しているのではなく、漏れ出ているのだと思います。(「漏れ出す脂肪」参照)
糖質制限で耐糖能が低下すると言っている人は、一部の現象を切り出して言っているのに他なりません。人間は糖質を大量に摂らないことが初期設定であるので、耐糖能という言葉さえ本来は必要ないのかもしれません。
「Lack of suppression of circulating free fatty acids and hypercholesterolemia during weight loss on a high-fat, low-carbohydrate diet」
「高脂質、低炭水化物の食事による減量中の循環遊離脂肪酸および高コレステロール血症の抑制の欠如」(原文はここ)
清水先生、こんばんは。
これまで医学では常識と思われていたことが、糖質制限により非常識だったということが多いのですね。
これまでは偏った見方をしていたことが糖質制限により正されてきていると思いました。
じょんさん、コメントありがとうございます。
これまでの医療では糖質による有害性がすべて違う栄養素のせいにされてきました。
しかし、それがあまりにも定説化してしまい、誰も疑いません。
初めまして。糖質制限10年実践中です。元々糖尿病予備軍のガリガリ人間でした。健康になりたくて今はケトン食に近いです。糖質に弱いのだから、摂らなければいいだけなのに、皆さんそうはいかないのですね。(お酒と一緒です)そういえば回盲部切除後、なぜか300台だったLDL-COが120台になりました。後は目、鼻のアレルギーはなりをひそめましたね。(糖質制限しても治らなかったんですが)手術後かなり筋力が低下し、戻りません。余り沢山食べられないので、負荷のかからない早歩きをしています。食事は大事ですが、やはり運動は必要ですね。過去のものも読ませて頂いて取り入れられるところは取り入れたいです。質問ですが、ハイカカオチョコが筋力アップに役立つというのをネットでみましたがどう思われますか。
ミンミンさん、コメントありがとうございます。
ネット情報の元ネタがわからないので、何ともコメントできませんが、
チョコレートのポリフェノールによる抗酸化作用についてであるとすると、
筋トレや運動に抗酸化物質は逆効果である可能性があります。
以前の記事「ビタミンCとビタミンEのサプリメントは運動による効果を弱めてしまう」を参照してください。
適度な酸化ストレスは必要です。
『◯ーザン』などの健康雑誌でも
ファーストミールでの血糖値上昇
を糖質制限否定の根拠にしがちですが、
今回の先生のブログで勉強して欲しい
ものです。
まぁ雑誌は広告収入が大事、
確信的なのでしょうね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
ファーストミールでの血糖値上昇は糖質過剰摂取では当たり前
しかし、糖質制限ではファーストミールでも血糖値はあまり上がりません