スタチンによる冠動脈石灰化について書きたいと思いますが、その前に今回は冠動脈石灰化のリスクについておさらいです。
冠動脈において、CTによる冠動脈石灰化プラークを評価するCACスコアというものがあります。
ある研究では平均追跡期間5.6年(範囲は1~13年)で、CACスコアがゼロの人と比較して、CAC1~10で約2倍、10を超えると約4倍の全死因死亡率になることを示しました。(下の図、表はここ参照)
CAC = 0 | CAC1~10 | CAC >10 | |
---|---|---|---|
モデル1 | 1 | 2.19 (1.57–2.99) | 8.38 (6.82–102.9) |
モデル2 | 1 | 2.02 (1.47–2.79) | 4.96 (4.02–6.11) |
モデル3 | 1 | 1.99 (1.45 ~ 2.75) | 4.08 (3.30–5.04) |
また別の研究でも、CACスコアが増加するほど死亡率が高くなっていました。(下の図は、ここ参照)
上の図のAはCACスコアが0~≥1,000 の範囲の累積生存率です。CACが高くなるほど生存率は低くなっています。BはCACが100以上の場合の血管領域の数における累積生存率です。血管の数が多いほど生存率は低くなっています。CはCACが11~100の範囲の患者の累積生存率ですがBと同様です。
日本の研究でも、同様な結果があります。(下の図は、ここ参照)
上の図はAがCACスコア、Bが狭窄率による10年間の様々なイベント発生率や死亡率です。Aの青がCACゼロです。右に行くに従いCACがアップしています。一目瞭然、CACが増加すると、心血管疾患イベントの発生は増加しています。左から2番目の心血管疾患による死亡なんてCACがゼロだと、10年間の死亡はゼロです。下のBの図とよく似ていて、CACと狭窄率は同様なリスクを示しているように見えます。
上の図は心血管疾患イベントの回避率です。AはCAC、Bは狭窄率ですが、やはりCACが増加するほど、狭窄率が増加するほど、回避率は低下していきます。
このように明白なCACと心血管イベント、死亡率の関連があります。
すでに2006年にアメリカ心臓協会(AHA)は下のような指針を出しています。(こことこの記事参照)
CTによる冠動脈石灰化プラーク評価の解釈と指針
(1)CACスコアがゼロなら、不安定プラークを含めた動脈硬化性プラークの存在は高率で否定できる。
(2)CACスコアがゼロなら、有意狭窄病変は高率で否定できる(陰性的中率95~99%)
(3)CACスコアがゼロなら、今後2~5年間の心血管イベントのリスクは低い(年間0.1%)
(4)CACスコアが1以上なら、冠動脈に動脈硬化性プラークが存在する。
(5)冠動脈石灰化の量が多いほど、性・年齢にかかわらず動脈硬化性プラークの量も多い。
(6)冠動脈石灰化の総量は動脈硬化性プラークの総量との関連が強いものの、動脈硬化性変化の全体量は過小評価している。
(7)CACスコアが高ければ(100超)、今後2~5年間の心イベントのリスクは高い(年間2%超)
(8)冠動脈石灰化の評価により、標準的な中等度リスクを持つ人のリスク予測能が改善される。CACスコアの測定は、冠動脈イベントが中等度リスク(年間1.0~2.0%)の人に対して、リスク再評価を伴う臨床上の意思決定のときに考慮すべきである。
(9)CACスコアが1以上の患者において、リスク層別化の補助を超えた追加の検査(負荷試験や冠動脈カテーテル検査など)の判断は、CACスコアだけでは行うべきでない。CACスコアは狭窄の重症度との関連はほとんどなく、病歴や広く使われている他の臨床的基準で判断すべきである。
どう見ても、CACスコアは心血管疾患のリスク因子として重要です。しかし、スタチンが絡んでくると、なぜかCACの捉え方は変わってきます。
この続きは次回以降で