過度の持久運動による心臓血管への悪影響 その1

今年もサロマ湖ウルトラマラソンの季節となりました。運動は健康のためですが、フルマラソン、そしてウルトラマラソンなどの過度の持久系の運動は不健康である可能性があります。(運動を何もしないよりは健康的だと思いますが)それはやはり心臓に負荷がかかり過ぎるからでしょう。

もちろん、定期的に運動する人は、身体活動をあまり行わない同世代の人に比べて、健康に有益で、平均寿命が 7 年長くなるそうです。ただし、安全な上限量が存在する可能性があり、それを超えると、運動による悪影響がその利点を上回る可能性があります。

フルマラソンもそうですが、ウルトラマラソンやトライアスロンなどの超持久系の運動は心臓に良くないでしょうね。

すでに冠動脈疾患の60人の男性患者に30分または60分のウォーキングをしてもらった研究では、30分の運動では酸化ストレスが減少し、動脈の弾力性が向上しましたが、60分のでは、主に高齢者(と言っても、67歳程度ですが)で酸化ストレスが悪化し、脈波速度で測定された血管の硬化が増加しました。こんな運動とは比べ物にならない激しい長時間持久系運動は心臓に過度の負担がかかるでしょう。

マラソン選手の突然心臓死は非常にまれで、参加者10万人につき1件だそうです。

持久系のトレーニングを積むと、左室および右室の容積の拡大、左室壁の肥厚および心臓質量の増加、左房の大きさの増大などの心臓適応を起こします。持久力アスリートに発生するリモデリングの一部が完全に良性ではない可能性があることが示唆されています。

心臓トロポニン、クレアチンキナーゼMB、B型ナトリウム利尿ペプチドなどの心臓障害の血清マーカーは、マラソン中およびマラソン後に参加者の最大50%で増加することが示されています。また、過度の持久系運動は、一時的な腎機能障害が観察されており、体液量減少と腎濾過の低下が起こり、血清尿素窒素、血清クレアチニン、シスタチン C が上昇します。

30~40代の40人の様々な持久系アスリート(マラソン(完走までの平均時間3時間)、ハーフトライアスロン(5.5時間)、フルトライアスロン(11時間)、アルペン自転車レース(8時間)など)を対象にした研究では、心筋障害のバイオマーカー(トロポニンとB型ナトリウム利尿ペプチド)が上昇し、右室駆出率の低下と相関していました。右室駆出率の低下と右室容積の増加は、1週間以内に完全にベースラインに戻りましたが、これはより長いレースで最も頻繁に見られました。下の図のように、この持久力アスリートのうち、5人(12.5%)に心臓のMRIの局所ガドリニウム増強によって検出された心筋瘢痕(赤い矢印)がありました。(図は原文より)

MRIを使用して長期の超長距離ランナーが心筋構造に及ぼす影響を評価する別の研究では、過去3年間に少なくとも5回のマラソンを完走した、年齢が50歳から72歳までの一見健康な男性ランナー102名と、年齢がマッチした対照群102名を比較しました。一見健康なランナーの約12%に、後期ガドリニウム増強として現れる部分的な心筋瘢痕の証拠が見られ、これは対照群よりも3倍多く見られました。さらに下の図のように、2年間の追跡調査中の冠動脈イベント率が、後期ガドリニウム増強があるランナーの方が対照群よりも有意に高くなりました。

上の図は後期ガドリニウム増強(LGE)の有無による冠動脈イベントフリー生存率を示しています。(ここ参照)緑が後期ガドリニウム増強なしランナー、青が増強ありランナーです。

また、マラソンランナーの方が動脈が硬化しているかもしれません。49人のマラソンランナー(男性42人、平均年齢38歳、11.6年間、1週間あたり14.97 時間の定期的なトレーニング)と46人のレクリエーションレベルの活動的な対照(男性40人、平均年齢37歳)を比較した研究を見てみましょう。大動脈の硬さは、頸動脈大腿動脈脈波速度(PWV)と脈波反射増幅指数 (AIx) で評価しました。(ここ参照、図はこの論文より)

マラソンランナーは、対照群と比較して、収縮期血圧および拡張期血圧(大動脈および上腕動脈の両方)、平均血圧、脈圧が有意に高くなっていました。ランナーは対照群と比較して心拍数が低くなりました。さらに、ランナーは頸動脈大腿動脈脈波速度(PWV) が有意に高くなりました。

単変量解析では、マラソンランナーの運動年数は大動脈脈圧(r = 0.304、P = 0.045)およびAIx(r = 0.388、P = 0.009)と関連していました。多変量回帰分析では、平均血圧と運動強度がPWVの独立した決定因子でした。運動の強度が動脈硬化と関連し、運動年数も関連しそうです。

運動強度やレースの時間が長いと、全身の炎症を起こします。以前の記事「ウルトラマラソンと血液検査2023」で私自身のデータを示したように、レース後は白血球が増加し、炎症所見のCRPも上昇します。

当然酸化ストレスも増加します。非常に過酷なレースである、スパルタスロン(246km)に参加したアスリートを対象にした研究(ここ参照)では、レース後はもちろん、レース後48時間経っても酸化ストレスのマーカーは、ベースラインの2.5倍の増加を示していました。しかし、一方で、48時間後でも総抗酸化能も高いままでした。酸化ストレスと抗酸化能のバランスでどうなるかわかりませんが、過酷なレース後はかなり長い間、酸化ストレスが高まると考えられます。

だからこそ、私は持久系の運動をする人には糖質制限を行った方が良いと思っています。糖質制限でできる限り、炎症および酸化ストレスを抑えるのは非常に重要です。運動には糖質が必須だと思っていると、やはり普段から解糖系が激しく回ってしまうでしょう。心臓のエネルギー源もブドウ糖がメインになってしまう可能性も高いです。

((上の図はここより、「心臓も腎臓もケトン体好き」参照)

通常でも上の図のように、心臓のエネルギー源は脂肪酸です。ブドウ糖は20~30%程度です。恐らく高血糖になると、ブドウ糖の割合が大きく増加し、脂肪酸やケトン体の割合が大きく減少するのでしょう。

持久系運動でも糖質過剰摂取、そしてレース前のカーボローディングは止めましょう。

 

「Potential adverse cardiovascular effects from excessive endurance exercise」

「過度の持久力運動による心血管への潜在的な悪影響」(原文はここ

2 thoughts on “過度の持久運動による心臓血管への悪影響 その1

  1. ウルトラマラソン程ではないにしても、
    身体には日々ストレスがかかり、
    最終的に対応出来なくなるのが「死」
    だとしたら、
    糖質制限でストレス対策を継続する事
    は、健康寿命維持のポイントですね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      多少のストレスや負荷は非常に重要です。それに適応して、人間は強くなります。
      でも過剰負荷はちょっと追いつかないのでしょうけど、食事をちゃんとすれば、問題は起きないのではないかと思っています。

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