塩分制限はあたかも健康的な食事だと考えられています。そして、心血管疾患予防には重要だと一般的には思われています。特に高血圧に対しては塩分制限を強く勧める医師もいるでしょう。
しかし、塩分過剰で血圧が上がるかどうかは人それぞれです。(「塩分の過剰摂取で血圧が上昇する人もいれば低下する人もいる」参照)逆に低下する人もいます。一律に塩分制限は必要ありませんし、もっと言えば誰にとっても塩分制限は必要ありません。
「塩分を制限することによる血圧の低下は、たった1!」で書いたように、正常の血圧の人が、塩分制限で得られる収縮期血圧の低下はたった1mmHgだけで、高血圧のアジア人でも収縮期の血圧低下は7.75mmHgで、拡張期の血圧低下は2.68mmHgです.
そもそも塩分だけでなく、様々な栄養素が血圧と関連しています。塩分だけ減らしても意味がありません。
そして、「塩分制限はインスリン抵抗性や炎症マーカーなどを増加させる」で書いたように、塩分制限はインスリン抵抗性を増加させます。
今回の研究では、血圧が140/90 mmHgを超えるか、降圧剤を服用している389人(平均年齢49.1歳、BMI28.5)が対象で、塩分の違いによりどうなるかを見ています。
高塩分食(HS食)と低塩分食(LS食)がそれぞれ 7 日間提供されました。HS食には、1日あたり200mmolのナトリウム、つまり約11.7gの食塩を含み、LS食は、1日あたり10mmolのナトリウム、つまり約0.58gの食塩しかありません。食事は全て研究用キッチンから提供されました。
食塩感受性は、低塩分食により収縮期血圧が15mmHgを超える低下として定義されました。(表は原文より改変)
変数 | HS食 | LS食 |
---|---|---|
体重(kg) | 83.5±14.8 | 81.2±14.5 |
BMI | 28.5±4.2 | 27.7±4.1 |
収縮期血圧(mmHg) | 145.7±18.6 | 129.9±16.2 |
拡張期血圧(mmHg) | 86.3±10.8 | 78.7±9.8 |
血清Na(mmol/L) | 141.6±3.9 | 140.4±4.2 |
血清K(mmol/L) | 4.1±0.3 | 4.2±0.3 |
血清コルチゾール(μg/dL) | 10.7±4.3 | 11.5±3.9 |
血清アルドステロン(ng/dL) | 5.2±3.8 | 17.3±11.8 |
PRA (ng/ml/h) | 0.5±0.5 | 2.4±2.2 |
尿中Na(mmol/日) | 235.5±64.3 | 12.9±7.5 |
尿中アルドステロン(μg/日) | 11.8±8.1 | 37.3±22.0 |
尿中コルチゾール(μg/日) | 70.7±35.4 | 46.5±23.7 |
空腹時血糖値(mg/dL) | 90.6±10.8 | 95.4±19.4 |
空腹時血漿インスリン(μIU/mL) | 9.4±5.8 | 10.8±7.3 |
HOMA | 2.1±1.4 | 2.6±1.9 |
HS食とLS食のグループ全体でHS食と比較して、LS食では血圧が低くなり、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されました。空腹時血糖値、インスリン値、HOMA は、LS食で有意に高くなりました。
収縮期血圧の変化が15mmHgを超える「食塩感受性」が193人(年齢50.3±7.5歳、女性49%)、196人が「食塩抵抗性」(年齢47.8±8.5歳、女性38%)に分類されました。両方とも下の表のように、LS食ではHS食と比較してHOMAが有意に増加しました。
食塩感受性高血圧 | 食塩抵抗性高血圧 | |||
---|---|---|---|---|
HS食 | LS食 | HS食 | LS食 | |
重量(kg) | 82.6±14.2 | 80.3±14.1 | 84.6±15.4 | 82.3±15.0 |
BMI | 28.3±4.1 | 27.5±4.1 | 28.7±4.3 | 27.9±4.2 |
収縮期血圧(mmHg) | 153.6±17.0 | 126.3±15.3 | 137.8±16.8 | 133.4±16.2 |
血圧(mmHg) | 89.3±9.9 | 77.2±9.3 | 83.2±10.7 | 80.2±10.0 |
血清Na(mmol/L) | 141.7±4.0 | 140.8±4.1 | 141.4±3.7 | 140.0±4.2 |
血清K(mmol/L) | 4.1±0.3 | 4.2±0.3 | 4.1±0.3 | 4.1±0.3 |
血清コルチゾール(μg/dL) | 10.8±4.4 | 11.1±3.8 | 10.6±4.1 | 11.9±4.0 |
血清アルドステロン(ng/dL) | 5.4±4.1 | 16.7±10.2 | 4.9±3.4 | 17.9±13.2 |
PRA (ng/ml/h) | 0.5±0.5 | 2.1±2.0 | 0.5±0.5 | 2.6±2.3 |
尿中Na(mmol/日) | 236.8±63.7 | 12.7±7.1 | 234.1±64.4 | 13.0±7.8 |
尿中アルドステロン(μg/日) | 11.7±6.5 | 36.4±21.6 | 11.9±9.6 | 38.5±22.6 |
尿中コルチゾール(μg/日) | 67.3±33.9 | 43.0±20.0 | 73.6±36.5 | 49.9±26.3 |
空腹時血糖値(mg/dL) | 90.6±11.0 | 95.6±18.1 | 90.3±10.6 | 95.0±20.8 |
空腹時インスリン(μIU/mL) | 9.6±5.9 | 11.2±7.4 | 9.2±5.8 | 10.4±7.2 |
HOMA | 2.2±1.5 | 2.7±2.0 | 2.0±1.3 | 2.5±1.8 |
食塩感受性でも抵抗性でも、塩分制限をすると耐糖能が低下し、インスリン抵抗性および血糖値やインスリン値が増加します。さらに、食塩抵抗性の人でLS食にしても血圧の低下がないにもかかわらず、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されました。
つまり、血圧の食塩感受性の影響でインスリン抵抗性が増加するのではなく、塩分制限に反応してインスリン抵抗性が増加すると考えられます。塩分制限は、塩分に敏感な人でも塩分に抵抗性のある人でもインスリン抵抗性を増加させるのです。血圧の塩分感受性とインスリン抵抗性の塩分感受性の間には関係がないのです。
塩分制限は食塩感受性高血圧の人の血圧を確かに低下させますが、インスリン抵抗性の増加という代償を伴うことになります。
塩分制限をしても高血圧の薬を止めることができる人はまずいないでしょう。
「Effect of low salt diet on insulin resistance in salt-sensitive versus salt-resistant hypertension」
「低塩食が食塩感受性高血圧と食塩抵抗性高血圧におけるインスリン抵抗性に及ぼす影響」(原文はここ)
糖質制限は変な宗教、
塩分制限は、健康の為に必須
の常識。
まあ、自分が良ければなんの問題もないのですが。
暑くなってきました。
この時期に毎年ボトルに塩水持ち歩いてガブ飲みしてる私は世間から見たらヘンなやつなんでしょうね 笑