キシリトールと心血管疾患リスク

以前の記事「ラカント(エリスリトール)と心血管疾患リスク」で、取り上げた研究を発表したグループが、今度はキシリトールのリスクの研究を出してきました。

歯医者さん推奨のキシリトールですが、全身への影響はどうなのでしょうか?

今回の研究では、キシリトールの血中濃度と心血管疾患の関連を分析しています。発見コホートとして、18歳以上で、急性冠症候群ではない、リスク評価のために選択的診断冠動脈造影(心臓カテーテル法または冠動脈コンピューター断層撮影)を受けた1,157人(平均年齢65歳、BMI28.4)、と検証コホートとして2,149⼈(平均年齢63歳、BMI28.4)が対象となりました。3年間の追跡で心血管疾患のイベントはどうなったでしょうか?(図は原文より)

上の図はそれぞれの集団のベースラインの特徴ですが、図のように、80%弱が心血管疾患の既往があり、40~46%が心筋梗塞の既往があります。HDLコレステロールは34mg/dL程度と低く、中性脂肪は100を超えています。

ベースラインで既に60%前後がスタチンを内服し、アスピリンも70%以上が使用しています。

上の図は、キシリトールの血中濃度(12時間以上の絶食後)と心血管イベントの関連を示しています。心血管イベントが起きた群の方がキシリトール濃度は高く、最も高い群で心血管イベントが有意に増加しました。キシリトールが最も高い群では、心血管イベントリスクがそれぞれ1.64倍、1.57倍でした。、キシリトール濃度の上昇は⾎栓性イベントの発⽣リスク1.80倍でした。意外(?)なことに、抗血小板薬を飲んでいる人でも2倍以上のリスクでした。

日本で様々な糖質オフの加⼯⾷品や飲料にはキシリトールが⼤量に含まれているのか、よくわかりませんが、アメリカでは大量に含まれているようです。そこで、それらの食品や飲料を摂取後に⾎中濃度が⼤幅に上昇する可能性があるため、摂取後に⾎中キシリトール濃度がどの程度⾼くなるかを評価しました。健康なボランティア10人を対象に、キシリトール(30 g)⼊りの⽔キシリトール⼊りアイスクリーム1個、キシリトール⼊りのパン製品、またはキシリトール⼊りキャンディー数個を摂取した場合と同等の量)を摂取した後、下の図のAのようにキシリトールの血中濃度を測定しました。

ベースライン(⼀晩絶⾷後)では、キシリトール濃度は0.30µMと低く、検証コホートで観察された最も低い群の値と同程度でした。キシリトール水摂取30分後キシリトールは急上昇し、血中濃度は1000倍(312µM)に増加しました。1000µMにも達する人もいました。6時間後にはほぼベースラインに戻りました。ベースラインでキシリトールがゼロではないのは、恐らく内因性のキシリトールによるものだと思われます。

このボランティアの最も高い人の絶食時の上限では30µMでした。つまり、一般的な食事をしている場合、30µMくらいのキシリトールが産生されている人もいるのでしょう。

そこで図のBからEのように、キシリトールと血小板凝集に及ぼす影響を調べました。詳細は難しいので省略しますが、この30µMのレベルでも⾎⼩板活性化および凝集の顕著な増強が観察されました。さらに、キシリトール水で上昇したレベル300µMだと、血小板の反応性はキシリトールがゼロと比較して約2.5倍にもなりました。

その他にもいくつかの実験や動物実験で、キシリトールの血小板凝集促進作用が認められ、キシリトール負荷後の⾎⼩板反応性が最も上昇した人は、⾷後キシリトール濃度も最も⾼くなる傾向がありました。

日本では恐らく、キシリトール入りのガムがメインであり、その他の食品や飲料にはほとんど含まれていないのではないでしょうか?そうすると1度に大量のキシリトールを摂取する可能性は低いかもしれません。

しかし、絶食時でも血中濃度が30µMにもなる人がいるようです。もちろん、糖質過剰摂取状態の人でしょう。内因性キシリトールはブドウ糖の代謝経路で、解糖系でグルコース6リン酸からのグルクロン酸経路で産生されます。

グルクロン酸経路が大量に回る状態はどんな状態なのかはよくわかりません。糖質過剰摂取だと大量に回る気がしますが、糖質制限ではどうなるかもわかりません。

キシリトールは虫歯予防には良いのかもしれませんが、むやみにキシリトールガムを食べていると、問題が起きる可能性は否定できません。キシリトールを多く含む製品を摂取すると血栓のリスクが高まる可能性があります。

エリスリトールと同様に、大量に摂取しなければ問題がないとは思います。まあ、こんなもので虫歯予防する必要もなく、糖質制限をすれば良いと思いますが。

「Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk」

「キシリトールは血栓形成を促進し、心血管リスクと関連している」(原文はここ

 

 

7 thoughts on “キシリトールと心血管疾患リスク

  1. 先生

    いつもありがとうございます。
    別件で質問がございます。

    牛乳やヨーグルトに含まれているカゼインはどのようにお考えでしょうか?

    炎症が増えるなどの情報がネットでたまに見かけますが、根拠がある話しなのかが気になります。

    どうぞよろしくお願いします。

    1. 岩吉新さん、コメントありがとうございます。

      んー、牛乳自体は私はあまり良い印象を持っていませんが、カゼインで炎症が増加するというのは、あまり納得していません。
      質の低い食事データからの研究では、「健康な成人における乳製品摂取と胃腸炎マーカーの間に関連性は認められない」としています。
      私自身はヨーグルトやチーズは気にせず摂取しています。

  2. 先生

    ありがとうございます。私も牛乳は飲みませんが、ヨーグルトで少し気になっておりました。カゼインのアレルギー出なければ気にしなくても良さそうですね。承知いたしました。

  3. 以前は気にせず摂っていた、
    人工甘味料やラカント断ちを
    して以来、体調が良くなった
    ような気がします。

    カロリー0食品でもインスリンは分泌される
    そうなので、あながち気のせい
    でもないのかも。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      摂るとしたら、当然糖質よりも人工甘味料やラカントの方が問題は少ないと思っています。
      糖質制限をすれば、そもそも甘味が欲しくなくなってきます。

  4. 水のフリをしたジュースが多いので、買うときは必ず成分表示を見ますが、キシリトールが添加されている商品ってあまり見ないかもです。
    キシリトールは飴やガムに多い印象ですね。
    私的にこの研究で気になったのが中性脂肪100のとこです。キシリトールに罪を擦り付けたいのかな?って感じました笑

    1. ミホさん、コメントありがとうございます。

      確かに、キシリトール入りドリンクや糖質OFF商品はあまり見たことがありませんね。
      仰る通り中性脂肪値の高さが気になるので、中性脂肪値でグループ分けした情報も欲しいですね。
      いずれにしても虫歯予防にはキシリトールではなく糖質制限です。

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