マラソン後の運動誘発性アルブミン尿

運動後タンパク尿(アルブミン尿)は、激しい⾝体活動の後に起こる⼀過性の良性の現象と考えられています。フルマラソンやウルトラマラソンの後では尿のタンパクはどれくらい増加するのでしょうか?

今回の研究では、フルマラソンの前後、ウルトラマラソンで25kmごとの尿中アルブミン/クレアチニン比を測定しました。対象はフルマラソンが平均年齢49.3歳、BMI24.96、体脂肪率15.44%の男性20人、ウルトラマラソンは40.2歳、BMI24.26、体脂肪率13.56%の男性17人です。(図は原文より)

タンパク尿の程度は、上の図のACR:尿中アルブミン/クレアチニン比に示されます。マラソン参加者のACRはレース前が6.41だったものが、完走後には21.96と3.85倍に、ウルトラマラソン参加者はレース前が5.37だったものが、完走後には49.64へと9.54倍に有意に上昇していました。

その他血中のクレアチニン、尿素、尿酸も完走後にそれぞれ有意に増加しました。

上の図はウルトラマラソン群で行われた25kmごとに採尿したもののグラフです。レース中の変化を検討すると、25km地点では8.8、50kmでは11.1、75kmでは15.7と緩やかに上昇していたのですが、100km完走直後は49.6と、最後の25kmでACRが急激に上昇していました。

しかし、オレンジ色の線に示すランニングペースは、徐々に低下していました。ACRの急上昇はペースの問題ではなさそうです。

上の2つの図に示すように、CRPやインターロイキン-6(IL-6)という炎症マーカー、血糖値やインスリン、乳酸値、遊離脂肪酸、β-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)のいずれもレース後に有意に上昇しました。IL-6を除いてACRとの間に有意な相関はなく、レース後のIL-6はACRと有意な負の相関がみられました。

意外なのはインスリンの上昇ですね。運動によりインスリン分泌が低下することが一般的ですが、42.195kmという長距離ではインスリンも上昇するのでしょうか?インスリンは腎臓での塩分(ナトリウム)や水分の再吸収を促進します。インスリンは糸球体の灌流を増加させますが、運動中は腎臓の血流は減少し、さらに水分と塩分を再吸収するのに腎臓は忙しくなります。それがアルブミン尿にどのように影響するのかはよくわかりません。水分と塩分を再吸収するのが精いっぱいで、アルブミンを再吸収する優先順位が大きく低下するのかもしれません。

運動強度とタンパク尿の正の相関関係は、短時間の運動では確立された事実だそうです。しかし、マラソンは非常に高強度の運動ではなく、非常に長い時間継続する運動です。短時間の高強度の運動によるタンパク尿とマラソンのタンパク尿ではメカニズムが違うのかもしれません。

ただ、フルマラソンの完走後よりもウルトラマラソンの50km地点のアルブミン尿の方がかなり少ないことを考えると、やはり運動強度も関係している可能性は高いでしょう。いずれにしても、フルマラソンやウルトラマラソンは非常に不健康なスポーツで、全身の炎症、酸化ストレスの増加、様々な臓器や組織の低酸素状態などを起こします。それによりタンパク尿が増加しても不思議ではありません。

一般的にはタンパク尿、アルブミン尿は血管損傷、血管の内皮障害の早期マーカーであると考えられています。そうすると、運動誘発性タンパク尿はやはり、必ずしも良性の一過性の現象というわけではなく、心血管疾患のリスクが高い方が起こりやすいのではないでしょうか?

このことについてはまた、次回以降に。

「Factors influencing post-exercise proteinuria after marathon and ultramarathon races」

「マラソンおよびウルトラマラソンレース後の運動後蛋白尿に影響を与える要因」(原文はここ

2 thoughts on “マラソン後の運動誘発性アルブミン尿

  1. 「フルマラソンやウルトラマラソンは非常に不健康なスポーツで、全身の炎症、酸化ストレスの増加、様々な臓器や組織の低酸素状態などを起こします。それによりタンパク尿が増加しても不思議ではありません。」
    私達の身体は想像以上にあらゆる事象に対応する余力がありそうですね。
    勿論、限界はありますが。

  2. これだけ見ると運動しないほうが良い?となってしまいそうですが、そういうものでもないですよね…(と信じて適度な運動はするようにしています)

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