「その1」「その2」の続きです。前回は様々なこれまでの研究で、多くの疾患および全原因死亡で牛乳はリスク増加を示し、ほとんどの研究で発酵乳はリスク減少を示していることを書きました。
そのメカニズムについて、今回は書きたいと思います。
人間が牛乳を飲むようになったのは恐らく1万年前くらいで、冷蔵庫もない時代では、発酵は自然と⽜乳の保存の主要な⽅法であったと思われます。⽜乳の低温殺菌と冷蔵が導⼊される前は、必然的に発酵していたでしょう。200年ほど前に冷蔵技術が広まると、 ⾮発酵低温殺菌⽜乳の⼤規模な流通が始まりました。
食事アンケートとは言えスウェーデンの牛乳の研究は大きな意味があるかもしれません。スウェーデンの⼀⼈当たりの年間⽜乳消費量は、130.5リットルという⾮常に⾼い摂取量です。伝統的に⾮発酵乳の摂取量が多いスウェーデンの最近の3つの研究(こことこことここ)は、⾮発酵乳の摂取と全死亡率との間に有意な⽤量依存的関連があることを報告しました。
発酵していない牛乳は発酵乳と何が違うのでしょうか?(図は原文より)
上の図は牛乳によって起こる、人間の様々な代謝ですが、あまり細かいことはわかりませんし、省略します。牛乳に含まれる牛乳エクソソームはマイクロRNA(miR)を内包していますが、これは低温殺菌では壊れません。⽜乳エクソソームとそのmiRは消化管でも分解に抵抗し、全⾝循環に到達してさまざまな組織に分布しま
す。もしかしたら⽜乳エクソソームとmiRは乳児の成長、成熟には利益があるかもしれませんが、長期的に、成長してからもずっとこの⽜乳エクソソームとmiRの影響を受けることは健康に有害である可能性があります。
⽜乳の主要なmiRはmiR-148aとmiR-21、miR-29bとmiR-155だそうです。これらはすべて⼈間のものと配列が同⼀です。このエキソソームmiR-148a、miR-21、miR-29bは、mTORC1シグナル伝達を活性化します。
このmTORの活性化は、これまでも何度も書いてきたように、老化やがん化をもたらします。mTORが活性化するということはAMPKは減少します。AMPK-mTOR経路はオートファジーに非常に重要です。AMPK減少はオートファジーの減少です。miR-21はmTORC1を活性化し、成⻑と同化を促進し、持続的な細胞増殖とがんの成⻑を促進すると考えられています。miR-155はmTORの分解を抑制し、miR-29bはmTOR活性化を促進する BCAAの細胞レベルを増加させると考えられています。
mTORは環境および細胞内の栄養素と成⻑因⼦のシグナルを感知して統合し、細胞の成⻑、増殖、オートファジーとアポトーシスの抑制、個々の細胞や組織に応じた炎症などの基本的な細胞および⽣物の反応を調整します。mTORシグナル伝達の増加は寿命を短縮し、細胞⽼化や幹細胞枯渇などの⽼化関連プロセスを加速させます。持続的に増加したmTORシグナル伝達は慢性炎症を促進するのですが、⾮発酵乳の摂取により、炎症誘発性インターロイキン6(IL-6)の⾎清レベルが⽤量依存的に上昇することが報告されています。
さらに、牛乳に含まれる乳糖は分解してグルコースとガラクトースに分かれますが、⾮発酵乳の摂取による慢性的なガラクトース曝露は、ROS(活性酸素) を介したmTORの過剰活性化を促進する可能性があります。
破⾻細胞誘導性miR-148aの発現増加は、⾻密度の低下と⾻粗鬆症に関連している可能性があります。(こことここ参照)ガラクトースも酸化ストレスを増やすことを考えると、骨の健康のために牛乳を飲んでいるつもりでも、逆効果である可能性があるのです。
また、miR-148aは2型糖尿病にも関連していると考えられています。(ここ参照)
では、発酵乳はどうなのでしょうか?
上の図は発酵乳によって起こる、人間の様々な代謝です。発酵乳では様々な影響をもたらすmiRを内包した⽜乳エクソソーム、BCAAやガラクトースが低下しています。乳酸菌が色々と作用しているようです。発酵乳ではmTORの活性化は起こりません。
牛乳からのガラクトース摂取量は、発酵乳から摂取する量よりもかなり多くなります。コップ1杯の牛乳に含まれる乳糖量は約5g のガラクトースに相当します。ガラクトースへの慢性的な曝露は健康に有害だと考えられ、動物実験的には、ガラクトースの添加は老化の確立された動物モデルであることを示しています。ガラクトースは低用量でも、酸化ストレスによる損傷、慢性炎症、神経変性、免疫応答の低下、遺伝子転写の変化によって引き起こされる寿命の短縮など、動物の自然な老化に似た変化を引き起こします。人間とマウスは違うので一概には言えませんが、マウスでは、人間における牛乳1~2杯に相当する量のガラクトースにより老化が促進されます。
牛乳と発酵乳は似て非なるものです。低温殺菌⽜乳は⽼化の重要なメカニズムであるmTORの活性化を持続的に促進します。したがって、⾮発酵の⽜乳は、⾃然な⽼化を促進ししている可能性が高いと考えられます。
いまだに学校や病院で毎日のように牛乳が提供されるのは不思議です。すぐにやめるべきです。
「Pasteurized non-fermented cow’s milk but not fermented milk is a promoter of mTORC1-driven aging and increased mortality」
「低温殺菌された非発酵牛乳は、発酵乳とは異なり、mTORC1による老化と死亡率の上昇を促進する」(原文はここ)