腰痛患者の傍脊柱筋の脂肪浸潤は運動で改善しないかもしれない

私はペインクリニックの外来で、高齢者にもできる限り休むな、と言っています。ちょっと痛い、ちょっと疲れた、ということはよくあります。無理をして悪化するほどでないのであれば、休むことは有害だと考えています。横になってばかりいる高齢者の筋肉はどんどん減少します。高齢者の筋肉が一度低下すると、それを取り戻すことは非常に難しくなります。

慢性の腰痛の患者の腰の周りの筋肉では、筋肉が脂肪に置き換わる、脂肪浸潤が認められることが多いです。ときどき本当に霜降り状態のことがあります。脂肪浸潤が起きると筋肉の質は低下し、症状が悪化、機能障害などを起こす可能性が高くなります。

今回の研究では、腰痛の患者の腰の背骨周りの筋肉である、傍脊柱筋(脊柱起立筋と多裂筋)への脂肪浸潤が運動で改善できるのかを分析しています。腰痛患者の傍脊柱筋脂肪浸潤に対する運動の効果を報告している6件の研究のシステマティックレビューです。ただし、対象は高齢者ではなく30~40代の人がほとんどです。

上の図の運動が傍脊柱筋の脂肪浸潤に及ぼす影響の大きさをまとめたものです。パネルAは運動と対照をまとめたもの、パネルBは運動前後の変化をまとめたものです。筋密度の増加は脂肪浸潤の減少と一致しており、筋密度は脂肪浸潤の量と反比例関係にあります。パネルBの一番上でT12-L1(第12胸椎-第1腰椎)の筋密度について、運動で脂肪浸潤の減少が有意に認められていますが、それ以外のすべてで運動による脂肪浸潤の減少は認められませんでした。

つまり、腰痛患者の傍脊柱筋脂肪浸潤は運動では回復しない可能性があるのです。ただし、運動介入期間はどの研究も8~16週間と短いので、継続すれば徐々に回復する可能性はあると思います。

今回の研究の対象は若い世代です。30~40代でも一度傍脊柱筋に脂肪浸潤が起こると回復が難しい可能性があるのです。ましてや、高齢者では老化と共に筋肉は減少し、運動もしないでしょうから、さらに脂肪浸潤が起きやすくなり、腰痛が悪化しやすくなります。腰痛が起きると高齢者は安静にしてしまいますし、一日中腰のコルセットをし続ける人もいます。動かさない筋肉は減少し、脂肪に置き換わりやすくなるでしょう。そして、食事の摂取量、特に肉や卵などは健康に良くないと思い込まされているので、タンパク質摂取量も非常に少ない状態でしょう。白米はやめられず、糖質たっぷりなので、血糖値が上昇し、炎症を起こし、インスリン抵抗性も増加し、酸化ストレスも増加するでしょう。これでは筋肉が改善するわけがありません。

食事、運動は重要です。年をとってから、痛みが出てから、つらくなってからどうにかしようと思っても、すでに遅いかもしれません。そうなる前に糖質制限で肉をたっぷりと食べて、運動して筋肉を維持しましょう。すでに症状が出てしまっているのであれば、それ以上悪化させないように、現在の筋肉を維持するように食事と運動に気を付けましょう。

「Is fatty infiltration in paraspinal muscles reversible with exercise in people with low back pain? A systematic review」

「腰痛患者の傍脊柱筋の脂肪浸潤は運動で改善するか?系統的レビュー」(原文はここ

2 thoughts on “腰痛患者の傍脊柱筋の脂肪浸潤は運動で改善しないかもしれない

  1. 内臓脂肪の弊害はお馴染み
    ですが、「傍脊柱筋脂肪浸潤」
    もあるのですね。
    当たり前ですが脂肪細胞は体中に
    あるわけで、筋肉と脂肪のせめぎ合い
    は常にあるのでしょうね。

    YouTubeで階段駆け上がり選手権
    (というイベント)で13連覇の還暦の方
    を見ました。
    ジムトレーナーで日頃から60歳とは
    信じられない筋トレをしていて、
    触発されました。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      自分で行動してエサを探さなくても良い動物は人間だけです。
      普通の動物は自ら動かなければ、死んでしまいます。
      動くのを止めれば、体が衰えるのは当然です。

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