以前の記事「フェリチンの疑問がかなり解けた! フェリチンは細胞が死んだときに上昇する! 鉄はやっぱり危険!」で述べたようにフェリチンは細胞が死んだときに細胞が壊れて、血管内にフェリチンが漏れ出てきます。その漏れ出たフェリチンを測定しています。
「フェリチン、あなたは何者? フェリチンは鉄と関係なく上下する」でウルトラマラソンと、断食の前後のフェリチン値はご紹介しました。今回はその後の脂肪負荷試験前後を合わせて示します。前回の記事で様々な場面でLDLコレステロールなどを測定しましたが、同時にフェリチンも測定していました。
ある人で、フェリチンが100ある細胞が1個壊れて、それが血管内に出てきて、フェリチン値が100であったとします。違う人で、フェリチンが10ある細胞が10個壊れても、フェリチン値は100になります。しかしこの2人の細胞内のフェリチンは10倍の差があります。フェリチンが細胞内の鉄の貯蔵量を反映するとすれば、血液のフェリチン値もほぼ10倍の違いがありそうですが、血液のデータではともにフェリチン値が100を示します。もっとひどい状況でフェリチンが1しかない細胞も100個壊れればフェリチン値が100です。細胞内のフェリチン値が測定できるような状況であれば、それは鉄の貯蔵量を反映する可能性はあります。(ただし、フェリチンに含有される鉄の量の範囲も非常に広いので、ある程度の指標にしかなりませんが。)しかし、細胞が死んで漏れ出た血液内のフェリチンは鉄の貯蔵量を反映していません。
下の図の5,6は今回の人体実験のときの測定値です。1と2のデータの差はウルトラマラソンによる炎症という説明をつけることができます。3と4は断食による栄養ストレスでしょうか?数値が50以上も上昇しています。5と6は脂肪を100g程度3日間負荷しただけです。それでフェリチン値は15ぐらい低下しています。脂肪を大量に摂って上昇ではなく低下です。
(最初がウルトラマラソンの2日前、2番目がウルトラマラソンの次の日、3番目が1か月ランニングを休止した後、4番目がその3日後(60日間断食実施後)、5番目が脂肪負荷試験前、6番目が脂肪負荷試験後(5のデータの3日後))
ウルトラマラソン以外は体内の鉄が増減したとは思えません。つまり、鉄の貯蔵量が変化しないにもかかわらず、フェリチン値は多い時で3日後に50以上も変化するのです。
鉄の貯蔵量を反映していると考えると、全く意味の分からないデータになってしまいます。しかし、細胞が死んで、細胞が壊れてフェリチン値が上昇すると考えれば、なんとなく納得できます。体の細胞は常に入れ替わっています。当然死ぬ細胞も大量にあるので、フェリチンが漏れ出てくるのも仕方ありません。日によって細胞の死ぬ数の変動もあるでしょう。その変動がまさにフェリチン値の変動になるわけです。炎症を起こせばその分障害を受ける細胞も増えるので、フェリチン値も上昇します。栄養不足はオートファジーを活性化します。それがもしかしたら関係しているかもしれません。ウルトラマラソンでは13~14時間以上ほとんど栄養を摂っていませんでしたし、断食はもちろん何も食べていません。脂肪負荷試験では脂肪負荷前の状態は負荷後と比較すると栄養が少ない状態です。栄養が多い時と少ない時では多い時の方がフェリチン値は低く、栄養が少ない時ではフェリチン値が高くなっています。
栄養状態を反映しているとも言い切れませんが、肝臓は栄養不足でも細胞が壊れ、脂肪肝などでも壊れフェリチン値が上昇すると思われます。栄養不足も神経性食欲不振症患者のような状態にならないと大幅に上昇しないのかもしれません。もしかしたらALTやAST(GOT、GPT)よりも鋭敏な肝機能障害のマーカーかもしれません。
もう一つ考えられることは、フェリチン値の測定の精度が非常に低い可能性があることです。1日に何回もフェリチン値を測定してみればもしかしたらわかるかもしれません。または毎日何日間も測定するのも良いかもしれません。そうしてみたら、もしかしたら結構データがばらけてしまって、あてにならない数値だと思うようなことになる可能性もあります。フェリチンなんてたまにしか測定しないので、その精度がどうかという疑問すら持ったことはありませんが、あり得る話ですね。LDLコレステロールの実測値も同じように精度が低いとずっと言われていましたから、それよりもニーズの少ないフェリチンであれば精度が低くてもそのままかもしれません。
いずれにしてもフェリチン値が50ぐらい上がったところで、「鉄の貯蔵量が増えた!」なんて喜んでられないということだけは確かなことです。たった60時間の断食でも50以上上昇するのですから。生クリームを大量に摂るとフェリチン値が低下することもあるのですから。それって鉄の貯蔵量を反映していると思えますか?普通に考えればおかしいです。
もし、フェリチンが鉄の貯蔵量を反映していると考える方は、私のこのようなデータの解釈を是非教えてください。