前回の記事「HDLコレステロールは高ければ良いってもんじゃない?」で超高値のHDLコレステロール値は心血管疾患のリスクを増加させる可能性を書きました。
HDLコレステロールにも質の問題があります。HDLコレステロール値と心血管疾患の発症頻度が逆相関することから、HDLを上昇させると心血管疾患のリスクが減少するのでは、という「HDLコレステロール仮説」が長い間信じられてきました。もちろん一般論としてはHDLは多い方が良いと考えられますが、必ずしもHDLコレステロールは「善玉」であるとは言い切れません。
ご存知の方もいると思いますが、これまで様々なHDLを増加させる薬剤の研究がされてきました。例えばビタミンB群の「ナイアシン」。以前からナイアシンはHDLコレステロールを増加させることが知られていましたが、ナイアシンを用いたAIM-HIGH研究で、スタチン+プラセボとスタチン+ナイアシンとの比較では、ナイアシン群はHDLコレステロールが増加し、中性脂肪が減少するという非常に好ましい変化が認められたにもかかわらず、心血管イベントの発生率ではプラセボ群と何ら結果が変わらなかったのです。(原文はここ)
またファイザーが開発したCETP阻害薬のトルセトラピブという薬は、HDLコレステロールを大幅に増加させ、LDLコレステロールを低下させることはできましたが、臨床試験で全死亡・心血管疾患が増加したために2006年12月に開発が中止されました。つまり、HDLコレステロールは増加しても、結果としては有害だったのです。
HDLは、肝臓からほとんど脂質を含まないapoA-Iとして分泌され、これを新生HDL(pre-β apoA-I)と呼びます。そして、コレステロールを大量に含んだマクロファージからコレステロールを受け取り、原始HDL(nascent HDL)となります。さらに、マクロファージからコレステロールを受け取り、成熟HDL(mature HDL)となるのです。そして、成熟HDLはCETPによってLDLにコレステロールエステルを輸送して、LDLから中性脂肪(トリグリセリド)を受け取ってTGリッチHDLとなります。それぞれの間にも連続的な粒子の大きさの変化があるのですが、新生HDL、原始HDL、成熟HDL、TGリッチHDLすべてを合わせて、HDLコレステロールとして測定されてしまいます。
小さな粒子の新生HDL、原始HDLはコレステロールの逆輸送を担っているので、いわゆる「善玉」と言えますが、大きな粒子の成熟HDLはコレステロール逆輸送にほとんど関係しないので、成熟HDLがいくら増加しても利益は得られません。
大きなHDL粒子は、防御性が低く、機能不全でさえあり得るのですが、中小サイズのHDL粒子は、より大きな抗酸化活性、抗炎症作用、コレステロール流出能力、抗血栓作用があるといわれていて、それによってより大きな保護作用があると考えられます。つまり、HDLコレステロールは小さな粒子が増加するほど良いのです。ナイアシンやCETP阻害薬は恐らく、大きなHDL粒子を増加させているだけだと考えられます。
しかし、それだけでは超高値のHDLコレステロール値で、心血管疾患のリスクが増加する理由とはなりませんが、その理由の一つとしては「悪玉?」HDLコレステロールとして考えられているものがあります。それは今度の記事で書きます。