大量のコレステロールを摂るとどうなるか? その2

前回「その1」では超短期的な脂質検査の変化を書きました。

今回は3日間卵を10個食べ続けて、脂質がどうなるかを示したいと思います。

結果は上のグラフのようになりました。どれもほとんど変化なく、中性脂肪以外は微増しただけです。中性脂肪だけは微減でした。毎日3日間2500mg以上のコレステロールを摂っても体の中ではほとんど変化が認められないのです。もちろんたった3日間ではあります。ですから、毎日卵10個を食べていれば、ほんの少しずつコレステロール値が増加するということは否定はできません。しかし、LDLコレステロールだけではなく、HDLコレステロールも増加しています。中性脂肪は減少しています。しかもわずかな違いなので、変化したとも言えません。

それにしても、この変化の少なさを見ると、本当に食事からのコレステロールは吸収されているのか非常に疑問です。それともコレステロールの体内での合成が非常に素早く調整されて、合成量が減る可能性もあります。しかし、前回お示しした超短期的にも、3日間という期間でもコレステロールの変動がほとんどないということから、私は「食事からのコレステロール吸収はほとんどない」、という考えに1票です。

日本動脈硬化学会のホームページのQ&Aにはこのように書いています。

「Q.食事中のコレステロールはすべて吸収されるのですか?

A.食事中のコレステロールはすべて吸収されるわけではなく、吸収率には20%から80%程度と大きな個人差があります(平均で50%ほど)。吸収されなかったコレステロールは便中に排泄されます。
食事中の他の成分によってもコレステロールの吸収は影響をうけ、特に食物繊維や植物性ステロールを多く含む食事では吸収されにくくなります。」

本当にこんなに吸収されるか疑問ですね。せいぜい10%前後ではないでしょうか?

今回はRLPコレステロール(レムナント様リポタンパクコレステロール)といって、いわゆるレムナントコレステロールも検査していますが、非常に低値です。レムナントコレステロールが高いと非常に動脈硬化、心血管疾患のリスクが高くなるので気をつけなければなりませんが、毎日大量のコレステロールを摂っても、まだまだ低値のままです。わずかに増加していますが、意味のある増加かどうかはこれだけではわかりません。しかし、普段からも脂質たっぷりの食事をしていますし、平均して3個の卵を食べますし、それ以外の食材からのコレステロールの量は全く気にしていない状態でもこのようにレムナントコレステロールは増加していません。さすが糖質制限食ですね。

毎日10個卵を食べてもこれほど変化がないので、恐らく2~3個なんて全く問題ないと思われます。逆に糖質制限をしていると、毎日3個の卵はHDLコレステロール値を増加させるという研究もあります。

増加したHDLの質が悪ければ、どうしようもありませんが、他の研究でコレステロール引き抜き能が増加するという研究もあります。

いずれも毎日卵3個を12週間食べた結果です。糖質制限と卵消費は相性が良いようです。

私は患者さんには毎日3個の卵を勧めています。もちろん糖質制限も勧めます。「1日1個」と洗脳されてきた方では驚く方もいらっしゃいます。しかし、患者さんの多くは卵をそれまでより多く食べるようになり、血液検査上で総蛋白やアルブミンの上昇を認めています。

「1日1個」の卵という根拠がなく、バカげた推奨が高齢者のタンパク質低下、筋肉の低下などをもたらし、寝たきり増加を助長している可能性もあります。

栄養満点の卵を今日から3個食べましょう。しかし、あくまで糖質制限をしている前提ですが。

 

「Dietary cholesterol from eggs increases plasma HDL cholesterol in overweight men consuming a carbohydrate-restricted diet」

「卵からの食物コレステロールは、炭水化物制限食を摂取する過体重の男性で血漿HDLコレステロールを増加させる」(原文はここ

要約

炭水化物制限食(CRD)は、体重を有意に減少させ、血漿中性脂肪(TG)およびHDLコレステロール(HDL-C)を独立に改善する。低脂肪食に関連した卵からの食物コレステロールの摂取量の増加は、食物コレステロールに対する高反応者および低反応者の両方のコレステロールに対するLDL-C/ HDL-Cを維持する。この研究では、CRDにおける卵からの食物コレステロールの寄与を評価するために、40-70歳の28人の過体重/肥満男性被験者(BMI=25〜37)を募集した。被験者はCRD(炭水化物からの10-15%のエネルギー)を消費するように言われ、EGG群[1日3卵(640mg/d追加の食物コレステロール)]またはSUB群[等価量の卵の代用(0食物コレステロール)]。エネルギー摂取量は、ベースラインと比較して、両方の群で10,243±4040から7968±2401kJに減少した。割り当てられた群に関係なく、すべての被験体は体重および胴囲が減少した。同様に、全被験者において血漿TG濃度は12週間後、1.34±0.66から0.83±0.30mmol/Lに減少した。血漿LDL-C濃度およびLDL-C:HDL-C比は、介入中に変化しなかった。対照的に、血漿HDL-C濃度は、EGG群で1.23±0.39から1.47±0.38mmol/Lまで増加したが、HDL-CはSUB群で変化しなかった。空腹時の血漿グルコース濃度は変化しなかった。研究の開始時にメタボリックシンドローム(MetS)を有していると18人の被験者が分類されたが、終了後に分類されたのは3人だった。これらの結果は、CRDに卵を含めると、MetSに関連する危険因子を減少させながらHDL-Cを増加させることを示唆している。

 

「Egg Consumption Modulates HDL Lipid Composition and Increases the Cholesterol-Accepting Capacity of Serum in Metabolic Syndrome」

「卵消費はHDL脂質組成を調節し、メタボリックシンドロームにおける血清コレステロール受容能力を増加させる」(原文はここ

要約

我々は、卵黄を含まない卵代替物の摂取と比較して、中程度の炭水化物制限時の毎日の全卵の消費が血清HDLコレステロール(HDL-C)の増加およびメタボリックシンドローム(MetS)のHDLプロファイルの改善をもたらすことを最近示した。さらに、卵黄中に存在するリン脂質種がHDL脂質組成物を調節して対象者の血清コレステロール受容能力を増加させると仮定して、HDLの組成および機能に対するこの介入の効果を調べた。 MetSに分類された男性および女性は、12週間の適度な炭水化物制限(エネルギーの25~30%)の全期間にわたって、3つの全卵(EGG 20名)または卵代替物(SUB 17名)の食事にランダムに割り振られた。他のHDL脂質と比較して、HDL-コレステリルエステル含量はすべての被験者で増加し、SUB群の増加が高かった。さらに、HDL-中性脂肪含量は、正常なベースライン血漿HDL-Cを有するEGG群被験者において減少し、その結果、両方の群においてHDL-CE / 中性脂肪比が増加した。質量分析によるリン脂質分析は、HDLがEGG群のホスファチジルエタノールアミンに富んだことを示し、EGG群HDLは、ベースラインと比較して第12週で卵全体に存在するスフィンゴミエリン種をより良く反映することが明らかとなった。さらに、EGG群の血清へのマクロファージコレステロール流出は、ベースラインから12週までに増加したが、SUB群では変化は認められなかった。合わせて、これらの知見は、毎日の卵の消費がMetSにおける血漿HDL-Cの増加を超えるHDL脂質組成および機能における好ましい変化を促進することを示唆している。

4 thoughts on “大量のコレステロールを摂るとどうなるか? その2

  1. 「アレを避けさえすれば良い」「コレを食べさえすれば安心」なんてことは無いんでしょうね^^;

    単品の食品やある特定の成分のみで複雑極まりない人体の代謝回路がすべてオッケーなんてことになる方が不思議というか不自然というか。

    糖質制限についても単純な糖質摂取量の問題(実際、現代社会は過剰にしても度が過ぎると思います)だけではなくて、糖質+脂質、糖質+たんぱく質などの組み合わせや摂取方法によっても大きく変動しそうな気がします。

    個人的、極めて個人的な印象では、糖質単品よりも糖質+脂質の過剰摂取が一番悪影響が大きいんじゃないかと感じている今日この頃です^^;

    1. ねけさん、コメントありがとうございます。
      私も同感です。
      糖質摂ってインスリンが出れば脂質はエネルギーに使用できませんからね。
      溜まる一方です。

  2. こんにちは、お世話になります。

    糖質制限開始から現在までの変化です。糖質摂取量は45g/日程度です。
    2019年2月には、LDL-Cが198まで上昇したため卵の摂取(それまで平均3個/日)を控え、蛋白源を豚肉100gに変えたところ、数値は明らかに改善しました。
    卵(に限らず食品)のコレステロールは数値には関係ないと言われますが、個人差が大きいのではないでしょうか。
    なお、この間、スーグラ12.5mgを服用しています。

    (2017/12)(2018/03)(2018/09)(20118/12)(2019/02)(2019/04)(2019/06)
    LDL-C 152 → 166 → 190 → 186 → 198 → 155 → 137
    HDL-C 81 → 60 → 70 → 82 → 80 → 74 → 84
    TG 81 → 106 → 104 → 82 → 97 → 60 → 63

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      確かに人によっては食事でLDLコレステロールが上がりやすい人もいるかもしれません。
      しかし、何の違いなのかはまだわかりません。
      それとは別に、中性脂肪が低くHDLが高ければ、LDLコレステロールは高くても構わないと私は思っています。
      コレステロール悪玉説は全く信じていませんので。

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