鉄のサプリメントは成分を選ばないと危険があるかもしれない

鉄が生物には必須であり、鉄欠乏は様々な症状を引き起こす可能性があります。その一方で、鉄の過剰も危険があると言われています。

フェリチンは鉄の貯蔵量を反映していない可能性は以前の記事「フェリチンは鉄の貯蔵量を反映していない!」などで書きました。フェリチン値=鉄の貯蔵量というのはかなり古くからある仮説ですが、それを前提にした考えでこれまで様々な議論がされてきましたが、フェリチンが通常は細胞の中にあり血液中に存在しないものであることを考えれば、フェリチンが高いという状態が必ずしも良い状態ではないことは容易に想像できます。

しかし、明らかな鉄欠乏を来すような状況では鉄の補給は必要です。

その際にサプリメントを使うことも多いかもしれませんが、もしかしたらサプリメントに含まれる鉄の成分に注意が必要である可能性があります。臨床的なデータではなく、人間の細胞を使った実験であるので、そのまま通常のサプリメントで当てはまるかどうかは結論が出ているわけではありません。

しかし、何カ月もの間使い続けるサプリメントが健康のためだと信じているのであれば、その成分まで気にする必要があると思います。

鉄剤は鉄そのものではなく、硫酸第一鉄、クエン酸第二鉄、EDTA第二鉄などの形をとっています。これまで、クエン酸第二鉄およびEDTA第二鉄は、結腸癌のマウスモデルにおいて腫瘍を促進することが示されています。

今回人間の細胞を使った実験で鉄の成分による違いを見てみました。結腸癌の細胞で、硫酸第一鉄は効果がなかったのですが、クエン酸第二鉄およびEDTA第二鉄は癌のバイオマーカーであるアンフィレグリンの細胞レベルを上昇させたのです。人がサプリメントで鉄を補給した時に想定される濃度でさえこのアンフィレグリンは上昇しました。(図は原文より)

Dの黒いバーがクエン酸第二鉄、薄いグレーがEDTA第二鉄、黄緑色が硫酸第一鉄です。左端がアンフィレグリンです。クエン酸第二鉄とEDTA第二鉄でアンフィレグリンが上昇しているのがわかります。Eのグラフはその10分の1の濃度での結果ですが、やはりクエン酸第二鉄とEDTA第二鉄でアンフィレグリンが上昇しています。

現在では少なくとも20種類の鉄化合物をベースとした様々な種類の鉄サプリメントが市場に出回っているそうです。硫酸鉄が最も一般的なようですが、胃に優しいとされるクエン酸第二鉄も広く入手可能なようです。また、国によっては鉄欠乏症と戦うために、鉄分がいくつかの食品に加えられています。EDTA第二鉄は、アメリカやEUで鉄の強化剤として承認されています。中国、パキスタン、フィリピンなどの国でも使用されており、小麦粉などに添加されているそうです。さらに、イギリスやフランスなどの国では、鉄分の低い子供向けの特定の医薬品に含まれているそうです。

以前の記事「鉄はがんの原因のひとつとなる(長文)」「鉄とがんの関係 数年後に後悔しないために」で書いたように鉄はがんと関連があります。

口から摂取した鉄が一時的に腸に蓄積し、通過時間が比較的遅い場合に、酸化ストレス、DNA損傷を促進して局所的ながんが増殖する可能性があると考えられます。人間の体はサプリメントのような鉄の塊を摂取するようにはできていないと思います。それを無理やり大量の鉄を飲み込んだ場合、腸に重大な不具合を起こすことはあり得ることでしょう。しかも、鉄摂取の副作用は吐き気、嘔吐、上腹部不快感、胸やけ、下痢など消化器症状が多く認められます。消化器症状の少ない胃にやさしいサプリもあるようですが、胃にやさしいことが体にやさしいわけではないかもしれません。このような副作用は体が発する警告なのかもしれません。「もうこれ以上鉄を飲み込むと危険だよ!」と教えてくれているのかもしれません。

すべての鉄化合物が危険かどうかはわかりません。しかし、少なくともクエン酸第二鉄やEDTA第二鉄よりも硫酸第一鉄の方が結腸癌のリスクは少ない可能性があります。この違いが何によって起こっているのかはまだわかりません。

最も安全なのは食事から鉄を補給することです。サプリメントで鉄を補給する場合は最短期間で止めた方が安全かもしれません。その場で結果がわかるわけではないのでご自身の判断が重要です。

 

「Ferric citrate and ferric EDTA but not ferrous sulfate drive amphiregulin-mediated activation of the MAP kinase ERK in gut epithelial cancer cells」

「硫酸第一鉄ではなく、クエン酸第二鉄およびEDTA第二鉄は、腸上皮癌細胞におけるアンフィレグリン媒介性のMAPキナーゼERKの活性化を促進する」(原文はここ

 

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