これまで、糖質制限をしたときにLDLコレステロール値が上昇することがあり、その理由を考えてきました。(糖質制限とLDLコレステロール上昇1、2、3、4参照)
ファスティングをしている方もいると思います。私も時々やります。ファスティングを行うとLDLコレステロールなどはどのように変化するのでしょうか?
まずは、たがしゅう先生の5日間断食人体実験でのLDLコレステロールの値ですが、初日、3日目、5日目のデータは160、198、225と絶食の時間と共に順調に上昇しています。
21-38歳の健康な男女10名に7日間もの間断食させたデータがあります。下の図は7日間の絶食による変化を表しています。(図は原文より)
総コレステロールやLDLコレステロールは日に日に増加しています。最終的には総コレステロールが4.90(189.5mg/dL)から6.73mmol/L(246.3mg/dL)、LDLコレステロールが2.95(114.1mg/dL)から4.90mmol/L(189.5mg/dL)にそれぞれ増加しました。
どうしてLDLコレステロールは増加するのでしょうか?完全なメカニズムはよくわかりませんが、以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇2 仮説」で書いたように、絶食により中性脂肪の合成は少なくなりますが、組織ではエネルギー不足になり需要は高くなるため、小さなVLDL2をたくさん作る必要が出てきます。それをどんどん送り込んで、中性脂肪を届けるのですが、そうするとLDLもたくさんできてしまう、ということになるのではと考えています。
また、インスリンが少なくなるということは肝臓のLDL受容体も少なくなり、肝臓でのLDL取込みが減少することも増加の一因かもしれません。
一方でIGF-1(インスリン様成長因子I)は日に日にぐんぐん低下しました。これは単なる関連かもしれませんが、治療目的でIGF-1を投与しなければならない人のコレステロール濃度が低下することから、IGF-1の低下もLDLコレステロールの増加の原因の一つかもしれません。
IGF-1は細胞の増殖や成長を促進しますが、大人になると、それは老化を促進したり、がんの発生を促進したりします。
インスリンはIGF-1の活性を高めるので、絶食でIGF-1が低下することも当然です。
糖質制限ではLDLコレステロールが増加することがあります。これはファスティングと同じメカニズムによって起こるのではと考えています。
そうすると、LDLコレステロールが増加しない人と、増加する人の違いはもしかしたら、このIGF-1の低下の違いによるのかもしれません。糖質制限で活性化するAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ:細胞内のエネルギーのセンサーとして重要な役割を担っている)もIGF-1を阻害すると言われています。だから、AMPKの違いなのかもしれません。AMPKはがんを抑制するとも考えられています。
私のようにマラソンなど持久系の運動をする人でLDLコレステロールが非常に増加している人がいます。私のLDLコレステロール値は最近の値で191です。持久系の運動はAMPKを活性化しますので、LDLコレステロールが増加するのも理解できます。逆にパワー系の運動はIGF-1を増加させますので、それほどLDLコレステロールが増加しないかもしれません。がっつり筋トレをされている方も是非血液データを送ってください。
糖質制限(ファスティング)→インスリン低下、AMPK増加→IGF-1低下→LDLコレステロール増加、とも考えられます。仮説ですが。このように考えると、LDLコレステロールが高いと死亡率が低いことも辻褄が合うような気がしませんか?自分に都合の良いように考えすぎですか?
「Fasting increases serum total cholesterol, LDL cholesterol and apolipoprotein B in healthy, nonobese humans」
「ファスティングは、健常な非肥満の人の血清総コレステロール、LDLコレステロールおよびアポリポタンパク質Bを増加させる」(原文はここ)