糖尿病に対する1年間の食事による生理的ケトーシスのパワー

以前の記事「中途半端な糖質制限では中途半端な結果になる」で緩い糖質制限である「ロカボ」の糖尿病に対する3年間の結果を書きました。もちろん全く効果がないわけではなかったのですが、非常に「緩い」効果しか得られませんでした。

今回の研究は1年間ではありますが、栄養を調整した食事による生理的ケトーシスを1年間持続させた結果について書きたいと思います。前回の研究は日本人で、今回はアメリカ人ですし、期間も違うので単純な比較はできませんが、ケトン体が出ている状態を維持することがこれだけ大きな結果を生むことに注目してください。

2型糖尿病の患者さんに栄養ケトーシスを含む継続的ケア介入をした群と通常のケアをした群との比較です。介入群ではアプリが提供され、栄養アドバイスと薬の管理を提供した保健指導者と医師または看護師による遠隔医療が行われ、栄養ケトーシスを達成し、維持するための個別の栄養指導が行われました。カロリーを数えたり、制限したりすることはありませんでした。食事については研究の開始から炭水化物を制限し、適度にタンパク質を食べ、脂肪をお腹いっぱい食べるよう指示されました。食事記録に関連するよく知られている系統的な誤差のために、食事記録を収集しないことにしました。(つまり食事記録による調査は非常に過少申告されるなど誤差が大きいので意味がないということを言っています。)

ケトン体と血糖値を測定できる機器を使用して最初は毎日測定し、その後は調整されました。

そして得られたデータは次のようです。(図は原文より)

 

左が介入群で、右が通常のケア群です。

もともとの体重が平均で100kg超えですし、BMIも40前後なので、日本人との比較にはなりませんが、介入群では体重は平均で13.8kg減少し、HbA1cは1.32の低下、収縮期血圧は7mmHg低下、拡張期血圧は4低下、ApoA1は14mg/dL増加、ApoB/ ApoA1は0.06低下、中性脂肪は50mg/dL低下、LDLコレステロールは11mg/dL増加、HDLコレステロールは7mg/dL増加、中性脂肪/HDL-C比は1.9低下、総LDL粒子数57nmol/L低下、SmallLDL粒子数161nmol/L低下、LDL粒径0.23nm増加、CRP3.1mg/L低下など様々な心血管疾患のリスク因子が有益な方向に変化しました。

ただ、赤字で書いたLDLコレステロールは増加しましたが、いつも書いているように、LDLコレステロールはあまりあてにならない数字です。そして、糖質制限ではLDLコレステロールの増加は珍しくありません。LDLコレステロールは増加していても、総LDL粒子数やSmallLDL粒子数は低下し、LDL粒径は大きくなっているので、非常に好ましい変化です。

通常のケアの方はどの因子も有意な変化が認められなかったのですが、むしろHbA1cや中性脂肪値は増加傾向を示し、中性脂肪/HDL-C比も悪化しています。LDLコレステロールは低下していますが、HDLコレステロールも低下し、SmallLDL粒子数は増加しています。

HbA1cは7.5前後が6.2にまで下がっていることは、日本の「緩い」糖質制限が8から7.3にしか低下しなかったのと比較して差は歴然です。緩い糖質制限ではケトン体が出るような状態、つまりケトーシスにはなっていないと思われます。

今回の研究の介入群のほとんどすべての人が持っている計測器での測定で0.5mmol/L(500μmol/L)以上のケトン体値を少なくとも1回は報告し、介入の1年後の実験室で測定されたケトン体は0.31で、ベースラインの0.17のほぼ2倍になっていました。

もちろんこのまま継続できることが重要ですが、最も私が重要視している中性脂肪が今回のようにケトーシスになれば50も低下し、緩い糖質制限ではほとんど変化しなかったことは非常に意味があることかもしれないです。つまり、糖尿病で糖質制限はどこまですべきかを考える材料になります。何グラムの糖質が良いとか悪いとかではなく、ケトン体がしっかり出ているかどうかが確かな指標になる可能性があります。いくつ以上のケトン体値が良いのかはわかりませんが、今回の結果では0.3mmol/L(300μmol/L)が一つの目安なのかもしれません。

ただ、スーパー糖質制限食ではこのケトン体値は十分クリアできる数字だと思います。ロカボでどの程度のケトン体値かを示していただきたいですね。もちろん日本人とアメリカ人の差はあるかもしれないので、日本人のデータが知りたいと思います。

 

「Cardiovascular disease risk factor responses to a type 2 diabetes care model including nutritional ketosis induced by sustained carbohydrate restriction at 1 year: an open label, non-randomized, controlled study」

「1年間持続的な炭水化物制限によって誘発される栄養ケトーシスを含む2型糖尿病ケアモデルに対する心血管疾患リスク因子応答:オープンラベル、非ランダム化対照研究」(原文はここ

2 thoughts on “糖尿病に対する1年間の食事による生理的ケトーシスのパワー

  1. 私の糖質制限は、一に「インスリン分泌量(≒血糖値)の変動を出来るだけ少なく、かつフラットに保つこと」、二に「ケトン体を増やすこと」を目安としています。

    でもよくよく考えてみると、血中ケトン体を多くする、それを保つというのはつまるところ糖質を極力排除することであるわけで。

    なんか、感覚的には体内のケトン体を育てているような感じです(笑)
    せっかく大事に育成(産生)しているケトン体を、糖質摂取で無駄にしたくないとも言えます。

    糖質制限を我慢してやっているとしたら、ちょっと無理かなと思います。
    いわゆるプチやスタンダードレベルでは、生理的ケトーシスの獲得・維持は難しいのではないかと感じます。そもそも糖質中毒から離脱できているとも考えにくいですし。

    人それぞれだと思いますが、いずれにしても自分自身の体で実感、確認していかないと誰に文句言ったところで健康にはなれませんからね(笑)

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