以前の記事「アメリカの新しい血圧の指針 クレイジー!」で書いたようにアメリカの米国心臓協会と米国心臓病学会は昨年、高血圧の基準を引き下げました。新しい血圧のガイドラインでは、血圧が130/80以上は高血圧とすると言っています。高血圧は心臓病や脳卒中のリスクを増加させるから、血圧は下げるべきなんだということだと思います。
しかし、一律に下げることが本当に良いこととは思えません。以前の記事「その1」「その2」にも書いたように、血圧を下げたことにより、逆に死亡率などが増加することもあるのです。特に高齢になるほど血圧を下げるデメリットが大きくなると思っています。
今回は血圧による転倒や失神のリスクについてです。転倒や失神は高齢者にとって骨折などの外傷の原因の大きなものです。骨折により高齢者は活動性が低下したり、死亡率も増加します。
1つ目の研究はオーストリアの3,544人の60歳以上の女性と男性における、血圧と転倒の関係です。(表は原文より改変)
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女性 |
男性 |
|||
|---|---|---|---|---|
|
モデル1 |
モデル2 |
モデル1 |
モデル2 |
|
|
収縮期血圧 |
||||
|
10 mmHgの増加 |
0.92 |
0.91 |
0.92 |
0.91 |
|
2分類(mmHg) |
||||
|
<140 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
|
140以上 |
0.76 |
0.71 |
0.73 |
0.71 |
|
カテゴリ(mmHg) |
||||
|
<120 |
1.19 |
1.09 |
2.55 |
2.46 |
|
120- <140 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
|
140- <160 |
0.83 |
0.76 |
0.90 |
0.87 |
|
160- <180 |
0.75 |
0.68 |
0.96 |
0.93 |
|
180以上 |
0.67 |
0.60 |
||
|
拡張期血圧 |
||||
|
5 mmHgの増加 |
0.91 |
0.92 |
0.93 |
0.93 |
|
2分類(mmHg) |
||||
|
<90 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
|
≥90 |
0.63 |
0.62 |
0.90 |
0.90 |
|
カテゴリ(mmHg) |
||||
|
<80 |
0.93 |
0.90 |
1.76 |
1.77 |
|
80- <90 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
1.00 |
|
90- <100 |
0.66 |
0.65 |
1.08 |
1.09 |
|
≧100 |
0.52 |
0.50 |
||
|
平均動脈圧 |
||||
|
10 mmHgの増加 |
0.84 |
0.83 |
0.86 |
0.85 |
女性では、収縮期血圧および拡張期血圧の上昇が、転倒リスクの低下と関連していました。収縮期血圧が10mmHg上昇すると転倒リスクは9%低下し、拡張期血圧が5mmHg上昇すると転倒リスクは8%低下していました。
男性では、収縮期血圧が低いかまたは拡張期血圧が低いと転倒リスクが高くなりました。
「Blood pressure and falls in community-dwelling people aged 60 years and older in the VHM&PP cohort」
「VHM&PPコホートでの60歳以上の地域住民における血圧と転倒」(原文はここ)
もう一つの研究は南カリフォルニアの477,516人の高血圧患者を対象にしたものです。(表は原文より改変)
| 転倒 | 失神 | 転倒 /失神 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 収縮期血圧 | 65歳未満 | 65歳以上 | 65歳未満 | 65歳以上 | 65歳未満 | 65歳以上 |
| 最小収縮期血圧 | ||||||
| 110以上 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| 110未満 | 1.73 | 1.87 | 3.11 | 2.33 | 2.43 | 2.11 |
| 平均収縮期血圧 | ||||||
| 110以上 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| 110未満 | 1.04 | 1.25 | 2.05 | 1.74 | 1.63 | 1.51 |
収縮期血圧の平均値と最小値ともに1年以上の間に110mmHg未満であった場合、重度の転倒や失神の割合が高くなり、救急への受診や入院が発生しました。
血圧の治療した患者のうちで
・少なくとも1回の訪問中に27%の人の収縮期血圧が110mmHg未満であった。
・患者の約3%は、1年間の研究期間中に平均収縮期血圧が110mmHg未満であった。
・1年間の収縮期血圧が110mmHg以下の1回のエピソードを有する患者は、重度の転倒または失神を経験する可能性が2倍以上であった。
・平均収縮期血圧が110mmHg未満の患者は、平均収縮期血圧が110mmHg以上の患者よりも、重度の転倒および失神のリスクが50%以上高かった。
つまり、最小であっても平均であっても収縮期血圧が110mmHg未満であると、高齢者では転倒や失神のリスクが高くなるということです。
積極的な血圧降下のリスクと利点を個々に考慮する必要があります。特に高齢者では起立性低血圧など起こしやすい可能性が高くなると思われます。
高齢者の血圧は下げすぎるべきではありません。「転ばぬ先の杖」というより、「転ばぬ先の血圧上昇」かもしれません。収縮期血圧が120以下になっている場合には恐らく要注意でしょう。
「Low Systolic Blood Pressure From Treatment and Association With Serious Falls/Syncope」
「深刻な転倒/失神と治療による低収縮期血圧との関連」(原文はここ)