低脂肪の食事が健康的だと考える人がいまだにいると思います。しかし、エネルギー量を確保するのには、脂肪を減らすとすれば、タンパク質でその分をすべて賄うことは難しいので、その分糖質量が増えることが多くなります。
低脂肪食と高脂肪食ではリポタンパク質のLDLにどのような違いが起きるのでしょうか。脂肪の割合によってLDLの変化が大きい人、小さい人、変化しない人、逆の変化を示す人と様々です。恐らく遺伝的な要素なども大きく関わっている可能性があります。遺伝は変えられないこともありますが、食事は変えられます。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は、健康な男性105人で高脂肪食(脂肪46%)から低脂肪食(脂肪24%)の食事に変えたときのLDLコレステロールの変化の分布を表しています。平均するとLDLコレステロール値は11%低下するのですが、分布は-49〜+51%の範囲とかなり広範囲になっていました。
高脂肪食で小さな密度の高い危険なLDL(sdLDL)が優位なパターンBを示す群では、パターンA(大きなふわふわの問題を起こさないLDLが優位)を示す群よりLDLコレステロールは2倍の減少を示しました。特に中型のLDLと小型のLDLが大きく減少し、また、HDLコレステロール値と比較してApoBとLDLが有意に減少していました。つまり、高脂肪食でパターンBを示していても、LDLが減少するだけでなくsdLDLも大きく減少し、アテローム性動脈硬化症のリスクは少なくなる方向に変化を示していたのです。
高脂肪食でパターンAが優位な群で低脂肪食に変えると、87人の中で36人はパターンBに変わってしまいました。大きなLDLは減り、小さな危険なLDLが増加してしまったのです。LDLコレステロール値は減少しても、ApoBは減少しておらず、LDLの粒子数がほとんど変化していないことと一致しています。つまり、LDLコレステロール値が減少したのは単にLDLが小さくなっただけであり、危険なsdLDLが増加したのです。
その後の研究では、高脂肪食(脂肪40~46%)を摂取した後でパターンAを有する180人の男性のうち、低脂肪食(脂肪20~24%)を摂取した後に62人がパターンBにシフトしましたが、118人はパターンA(安定A群)のままでした。高脂肪食でパターンBを有する58人の男性は、低脂肪食でパターンの変化はありませんでした。
安定A群の内38人が次の実験に参加しました。今度は通常食(脂肪約35%)と脂肪が10%の非常に低脂肪の食事を10日間摂りました。通常食では当然全員がパターンAでしたが、10%脂肪食では12人がパターンBに変化しました。その表が下です。
食事の糖質と脂質の割合による小さな危険なLDL(sdLDL)が優位なパターンBを示す人の割合はどのようになるのでしょうか。
上の図のように、きれいな直線を描きます。総エネルギーに対する脂肪の割合が増加すればするほど、炭水化物の割合が低下すればするほど、パターンBを示す人は少なくなります。脂肪が10%という超低脂肪食で、炭水化物を75%も摂ってしまうと、約3分の2の人はパターンBというリスクの高い状態になるのです。グラフをそのまま延長して考えると、糖質制限のような炭水化物の割合が10%程度の場合ではパターンBを示す人ほとんどゼロだということがわかります。もちろん、このグラフはタンパク質を15%で固定しているので、タンパク質の割合を増やした場合どのようになるのかは分からないことは確かです。また、このような変化は脂肪の割合によるものなのか、それに伴って変化する糖質の割合によるものなのかはわかりません。もちろん、私は糖質の割合だと思っています。
少なくとも脂肪を制限するような食事はLDLコレステロール値だけで考えるのであれば、確かにLDLコレステロール値が低下する場合の方が多いかもしれません。しかし、その中身は危険なsdLDLを増やすことによりLDLコレステロール値が低下しているだけなのです。中性脂肪値を下げて、HDLコレステロール値を上げる糖質制限であればsdLDLはほとんどなくなるでしょう。中性脂肪/HDLコレステロール比は1.3以下を目指しましょう。
遺伝的な要素はどのようにも変えられないかもしれませんが、食事は誰でも変えることができます。食事によってほとんど変わらない人は、あまり気にしなくても良いのかもしれませんが、多くの人は食事に影響を受けてしまいます。
もう、脂肪制限は止めましょう。たっぷり脂肪を摂り、糖質制限ですね。
「Atherogenic lipoprotein phenotype and diet-gene interactions」
「アテローム発生性リポタンパク質の表現型とダイエット – 遺伝子相互作用」(原文はここ)
「A very-low-fat diet is not associated with improved lipoprotein profiles in men with a predominance of large, low-density lipoproteins」
「非常に低脂肪の食餌は、大型の低密度リポタンパク質が優勢である男性において、改善されたリポタンパクプロファイルと関連していない」(原文はここ)
ご無沙汰してます。
先週末、札幌のコンベンションで、臨床スポーツ医学会があり、
学会員ではありませんが、参加してきました。
無月経女性アスリートへの栄養指導という演題で、
energy availability改善のため、
「絶対的に」不足している炭水化物を付加した結果、
12名のうち、二人に月経が再開した(抄録より)というものがありました。
口演後に演者に「エネルギー補給に脂質を増やすという選択はありませんか?」と質問しましたが、
「炭水化物が少ないと、糖新生が更新してだめんなんです!
糖質を増やさないとだめんなんです。」の一点張りでした。
次のセッションが始まりそうだったので、それ以上は話をしませんでした。
こんな栄養指導をされる、日本の女性アスリートは、
かわいそうだなあと思わずにはいられませんでした。
翻って、私の娘もアルペン競技でかなり強度の高い運動をしていましたが、
冬期間はさすがに無月経期間が長く、多少の心配もありました。
が、シーズンオフになると、また月経は戻っています。
当然、ずっと糖質制限食です。
(江部式でいうスタンダードから、スーパーの間くらい)
栄養のセッションでも、「数日間の断食」の演題がありましたが、
糖質制限下でのパフォーマンス向上という話題は
医学会ではまだまだ、でてこないですね。
ただ、所々で、
「最近は糖質制限ということが流行っているみたいで、
若者は、お肉などたんぱく質を、たくさんとってますよね。」
という、コメントはぽつぽつ、聞かれました。
超一流のアスリートが個人的に発信する食事内容だったり、
ネットなどから情報を取り入れている若いアスリートが
学会で発表する「先生」達より、一歩も二歩も、先を行っているのかあと、感じました。
どんぶり飯を、苦痛と感じているアスリートもいるのでしょう・・・
結局、糖質制限プラス運動というのは、
アスリートでも一般人でも、きっとそれが本質だと私は思ってます。
たかはし@旭川さん、コメントありがとうございます。
「絶対的に」不足している炭水化物とは、どのような根拠なのでしょうかね?そして、その結果として12人中2人だけ月経再開という、
何とも言えない結果ですね。自然経過だとも考えられます。
また、糖新生についても大きな誤解がありますね。
思い込みから抜け出せない日本のスポーツ界の犠牲者は選手の方ですね。残念です。