厚生労働省は2018年8月21日、インフルエンザ治療薬タミフルについて、10代への投与を同日から再び認める通知を出しました。
タミフルは、以前に服用した中学生が自宅マンションから転落死する事故が相次ぎ、2007年から10代への投与を原則中止としていました。
しかし、厚労省は薬を使わなくても異常行動が起きるということで、タミフルと異常行動に因果関係はないとの判断をしたのです。
厚労省研究班がインフルエンザ患者と異常行動との関連を分析したところ、2009~2016年の100万処方当たりの10代の異常行動の報告数は、タミフル服用患者で6.5件でした。(?)2007年から中止していたのに…?
その他ではイナビルは3.7件、リレンザは4.8件、ラピアクタは36.5件で、この4種類を服用しない患者でも8件でした。
タミフル単独で考えれば少ないですが、インフルエンザの薬はノイラミニダーゼ阻害薬という種類の薬なので、全部を総合するとかなりの異常行動の件数です。特に点滴の薬のラピアクタはすごい数です。
インフルエンザビジネスの観点から考えると、薬との因果関係は無いということにしないと困ります。しかし、1度でも目の前で薬服用後の異常行動を見てしまうと恐ろしくてその後一切インフルエンザの薬は使えません。多くの医師はもしかしたら処方するだけであり、家に帰った患者の小児が異常行動を示す場面を一度も見たことがないのかもしれません。だから、平気でインフルエンザの薬を処方できるのかもしれません。
以下の資料は厚労省が出している2017/2018年のシーズンの異常行動に関する報告です。
上の図は異常行動を示した患者の年齢です。比較的広い範囲で分布しています。19歳でも2人いるというのにも注意が必要です。他のシーズンでは20代であっても数人異常行動を示すときもあります。このような大人でも異常行動が認められます。家族が一緒にいても、大人が突然走り出したり、飛び降りようとしたら制止が非常に難しいでしょう。また、1人暮らしの人もいるでしょうから、大変危険です。インフルエンザの薬を使うリスクを考える必要があります。
性別では明らかに男性が多くなります。なぜかはわかりません。
発熱してから異常行動を示すまでの日数ですが、1~2日が最も多いのですが、3日目でもまだ20%以上います。少ないながらも4日以降でもいるのです。その間家族はずっと目を離さずに見ていられるでしょうか?
よく言われていますが、眠りから覚めた直後に異常行動を認めることが多いです。恐らく、目が覚めたから異常行動を起こしているのではなく、眠っている間に脳に何か異常が起こり、それにより目が覚めて異常行動を起こしているのだと思います。
さて、異常行動を起こした患者の使用した薬です。何も使っていない人でも起きているのは確かですが、何かを使った人が圧倒的です。患者全体の内、薬を使っていない人の割合はよくわからないので、ここから薬と異常行動の相関関係はよくわかりません。しかし、薬の使用は十分に注意が必要です。新しいインフルエンザの薬である「ゾフルーザ」がすでに2件の報告があります。発売が3月14日、この統計が3月31日までなので、もしかしたら非常に少ない処方なのに異常行動発生が多いのかもしれません。
2014年のコクランによる報告では、タミフルは症状緩和に要する時間を少しだけ短くするものの、小児の重篤な合併症を減少させるという十分な根拠はないとしています。タミフルの有害性として嘔吐を増加させることと、抗体産生を減少させることがあります。つまり人体に重要な免疫系に影響を与えるのです。
さらにインフルエンザワクチンも接種していれば、以前の記事「前年にインフルエンザワクチンを接種していた人の方が多く新型インフルエンザを発症していた」にも書いたように、CD8 + T細胞応答が減少して免疫機能を弱くするのです。だから、インフルエンザワクチンを接種したり、インフルエンザの薬を使うと次の年にもインフルエンザになってしまうのです。せっかくの人間の優秀な免疫能が台無しです。
日本人の研究でタミフルとアセトアミノフェンについて分析したものがあります。(図は原文より)
左のグラフはアセトアミノフェン、右がタミフルです。薬を使った場合と未使用の場合のせん妄という意識障害の発生率を比較しています。どちらの薬も使用者の方がせん妄の発生率が高く見えます。せん妄は異常行動に直接結びつくと考えられます。
実際分析すると有意差は認めませんでしたが、多変量調整解析でハザード比が1.55と1.51であり、どちらも薬を使用するとせん妄の発生のリスクが高くなる傾向を認めました。
また、アセトアミノフェンもタミフルも、体温が高い、男性、11歳以下で薬の使用によるせん妄(異常行動)のリスクが高くなっています。さらに、これまでに意識障害や異常行動の既往がある場合には非常に薬使用が危険だと考えられます。以前にインフルエンザになったときに一度でも異常行動や意識障害があった場合には二度とインフルエンザに薬を使用しない方が良いでしょう。
いくら厚労省がタミフルの使用を解禁しても、いくら医師が大丈夫と言ったとしても、責任は親にあります。少しでも子供を楽にさせてあげたい、という親心は理解できますが、薬にはリスクが伴います。少ないながらも異常行動を示す可能性があり、年間数十人から100人以上が非常に重度の異常行動(飛び降り、急に走り出すなど、制止しなければ生命に影響が及ぶ可能性のある行動)を起こしています。そして、タミフルなどはその可能性を高める可能性があります。
インフルエンザの薬で重篤な合併症を防止できたという証拠は非常に限られており、十分な根拠はありません。
熱が高いから、少しでも下げてあげたいという親心が逆の結果を招いてしまう可能性があります。
それでもまだインフルエンザの薬を子供に使いたいですか?私であれば、もちろん漢方薬の麻黄湯を使用します。
ところで、タミフルをはじめとしたインフルエンザの薬についての危険性を書いているはずでしたが、最後にはアセトアミノフェンも登場してきました。アセトアミノフェンはインフルエンザのときに安全に使用できる、と考えられてきましたが、どうやら違うようです。本当に子供にアセトアミノフェンを安心して使えるのでしょうか?
それについては次回に…
「インフルエンザ罹患後の精神神経症状と治療薬剤との関連についての薬剤疫学研究」(原文はここ) (日本語の論文です)