抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は現在非常に多く使われています。精神科だけでなく、内科でも処方されることもあります。さらに同じような抗うつ薬であるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)であるサインバルタはなんと、うつとは関係していない腰痛や変形性関節症でも使われています。ものすごい適応拡大です。企業の戦略は凄いですね。効果は非常に怪しいと思います。(「サインバルタ慢性腰痛症に適応拡大」「サインバルタ今度は変形性関節症に伴う痛みに適応拡大!大丈夫か?」参照)
このSSRIと鎮痛薬の併用は珍しいことではありません。昔よりも気楽に抗うつ薬を処方する医師が増加したため、ちょっとした気分の落ち込みでも飲んでいる人がいます。さらにSNRIは先ほど書いたように腰痛や変形性関節症でも処方されるので、当然鎮痛薬と併用されます。
では、SSRIと鎮痛薬の併用な安全なのでしょうか?
123,351人のSSRIを飲んでる人を対象にした研究があります。そのうち、21,666人(17.5%)がNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)を、10,232人(8.3%)がアセトアミノフェンを併用していました。(図は原文より改変)
上の図はSSRIと様々な鎮痛薬との併用における、3年間での全原因死亡率を表しています。SSRIのみと比較すると、セレコックス併用で1.86倍、アセトアミノフェンの併用で3.18倍にもなるのです。
アセトアミノフェンの併用で心血管疾患での死亡は2.51倍、消化管疾患での死亡は2.16倍にもなります。ボルタレンでは消化管疾患での死亡が5.48倍、うつ病が4.47倍に増加しました。セレコックスは自殺を5.09倍増加させました。
今回の研究ではSSRIと鎮痛薬の併用でしかありません。同じような抗うつ薬のSNRIであるサインバルタとの併用でももしかしたら死亡率の増加が起きている可能性はあります。本当に整形外科の疾患でサインバルタを処方していて良いのでしょうか?このような研究を受けて、サインバルタと鎮痛薬との併用によるリスクの研究が行われるべきだと思います。また、すでに何らかの理由でSSRIを飲んでいる方は鎮痛薬の併用に慎重になりましょう。恐らくどの医師もこの危険性を説明してはくれないでしょうから。
アセトアミノフェンは大量服用で肝障害を起こすことで有名ですが、日本では容量が少ないので、ほとんど肝障害は認められません。しかし、比較的安全と考えられているアセトアミノフェンでも、もしかしたらSSRIやSNRIとの併用で、死亡リスクを増加させる可能性があります。
以前の記事「妊娠中のアセトアミノフェンの使用はやっぱりリスクを伴うかもしれない」「子供にとって本当にアセトアミノフェンは安全なのか? アセトアミノフェンと自閉症の関連」などで書いたように妊婦さんや子供だけでなく大人でもアセトアミノフェンは慎重に使用した方が良いのかもしれません。
もちろん他の鎮痛薬の使用も最小限が望ましいでしょう。
「Inflammation and depression: combined use of selective serotonin reuptake inhibitors and NSAIDs or paracetamol and psychiatric outcomes」
「炎症とうつ病:選択的セロトニン再取り込み阻害薬とNSAIDまたはパラセタモールの併用と精神医学的転帰」(原文はここ)