以前の記事「PPI(プロトンポンプ阻害薬)の暗黒面 その2」「PPI(プロトンポンプ阻害薬)は心筋梗塞のリスクを増加させるかもしれない」などで書いたように、様々な病気を起こす可能性が指摘されています。
また、食道がんには主に扁平上皮がんと腺がんの二つのタイプのがんがあります。
扁平上皮がんはわが国の食道がんの約90%を占めており、扁平上皮がんは主に飲酒と喫煙が危険因子であると言われています。一方、腺がんは逆流性食道炎を背景として起こることが多く、欧米では食道がんの半数以上を占めています。ただ、近年は日本でも腺がんの割合が増加しています。腺がんの危険因子は逆流性食道炎やそれに伴って起こってくるバレット食道という変化と言われています。
PPIは逆流性食道炎の治療としてよく使われる薬ですが、PPIの使用と食道腺がんの関連はどのようになっているのでしょうか?
スウェーデンの796,492人のPPI使用者を調べた研究があります。PPIによる食道がんの標準化発生率は次のようになっています。(図は原文より)
上の図で左が腺がん、右が扁平上皮がんです。PPIを使用すると、非使用者と比較して、腺がんが約4倍、扁平上皮がんが約2.8倍です。40歳未満だけを見れば、 腺がんが約28倍、扁平上皮がんが約12倍です。
上の図で、腺がんのリスク増加の適応の場合、リスクはあまり変化しない適応、リスクを低下させる適応、リスク低下が期待される適応のサブグループについての発生率です。胃食道逆流症では約7倍です。扁平上皮がんでも3倍以上です。それ以外の適応でも腺がん、扁平上皮がん共に2倍前後となっています。
更に一般的には適応ではなく、通常消化管出血の予防として使われ、逆流症状のないNSAIDs単独での使用(180日以上)での腺がんの発生率は2.7倍、アスピリン単独での使用(180日以上)での発生率は2倍になっています。NSAIDs+逆流症では3.7倍、アスピリン+逆流症では5.4倍です。
上の図はPPIの使用期間での発生率です。1年未満ではPPIを飲む前からすでにがんが発生している可能性があるので、何とも言えないが、10倍以上になっています。1年以上5年未満では腺がんでは2倍以上になります。扁平上皮がんでは5年以上で逆に発生率が低下しています。
いずれにしても、逆流性食道炎でPPIを処方されることは多いでしょう。一方逆流性食道炎は食道がんの危険因子です。ところが逆流性食道炎でPPIを飲んでしまうと逆に食道がんのリスクが大きく高くなってしまうのです。さらに、NSAIDsやアスピリンの副作用の消化管出血予防の目的でPPIを使用しても、やはり食道がんのリスクを高めてしまいます。
ちなみに胃酸を抑えるH2ブロッカーでは食道がんの増加は認められませんでした。
上の図は食道がんの罹患率の推移です。特に男性の増加が顕著です。このような増加の一端をPPIが担っている可能性があります。
適応もないのに長期間PPIを飲んでいる人は多いでしょう。適応があってもダラダラと飲んでいる人も非常に多いでしょう。恐らく、PPIは強烈に胃酸を抑え込んでしまうので、胃や食道の腸内細菌が変化し、それが発がん性に結びついているのではないかと思います。
PPIは飲むとしても短期間にしましょう。
「Maintenance proton pump inhibition therapy and risk of oesophageal cancer」
「維持プロトンポンプ阻害療法と食道がんのリスク」(原文はここ)