スタチンのNNTはガイドラインの変更により大きく変化した

あなたは、NNT(治療必要数)がいくつであれば、その薬を飲んでも良いと思いますか?(NNTについては「糖質制限にスタチンの併用は危険ではないか?」など参照)NNTはある症状や疾患を呈する患者を1人減らすために、何人の患者の治療を必要とするかを表したものです。 私であれば、一桁つまり、NNT=10未満でなければ意味がないと思っています。自分が飲むとしたら、せめてNNT=1~3程度は欲しいものです。例えばNNT=10であったとしたら効果を得るのはたった1割です。薬を飲むと副作用があるのに、1割の確率に期待はできません。

今回の研究は、アイルランドのものです。ヨーロッパのガイドライン変更に伴うスタチンのNNTの変化を示しています。治療が推奨されている最低リスクの患者のNNTを計算しました。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図は、欧州心臓病学会/欧州アテローム性動脈硬化症学会の臨床ガイドラインの変更によるスタチン療法の適応の割合の変化を示しています。1987年にはたった人口の8%であったのですが、2012年からは60%を越えてしまっています。これは我々が不健康になってしまったのでしょうか?もう少し見ていきましょう。

上の図は同様にガイドライン変更に伴うスタチンの医療費への影響です。1987年と比較すると7倍以上になっています。

上の図はガイドライン変更に伴うNNTの変化です。これが最も重要です。1人の治療効果を得るのに1994年では40人の治療が必要でした。つまり、スタチンの恩恵を受けられるのは40人に1人です。しかし2012年からはどうでしょうか?なんと、NNT=400です。400人に1人スタチンの恩恵を得られるだけです。偶然のような数値です。その他の399人は効果は無く、得るものは副作用だけかもしれないのです。

下の表は2016年のガイドラインでのNNTです。

致命的および非致命的心血管イベントの絶対5年リスク %スタチン摂取による主要な血管イベントの絶対リスク減少 %NNT
低リスク(<1)0.25400以上
中程度のリスク(1〜7.4)0.25〜1.9400~53
高リスク(7.5〜15.9)1.9〜4.053~25
非常に高いリスク(16以上)4.025以下

低リスクの人のNNTは400以上です。最もリスクの高い人であっても25以下です。NNT=20であっても、20人に1人の効果です。たった5%です。

つまり、スタチンはガイドラインを変更し、適応となる患者を激増させ、そのコストを激増させ、治療効果のない人を激増させたことになります。このことで得をしたのは誰でしょうか?当然ですね。

可能な限り、わかっている薬のNNTを患者に提供すべきでしょう。そして、それによって最終的にその薬を飲むかどうかの選択は患者がすべきだと思っています。NNTが30や40の薬を飲んで自分に効果があると思いますか?ほとんどの人は、自分に効果があると思って薬を飲んでいますが、効果のある確率が数%だと聞かされればどうするでしょう?

恐らく、NNTが400であることを聞いた患者のほとんどは薬を飲まないと判断すると思います。それを隠して数値だけで薬を処方しているのが現状です。

ちなみに、心血管疾患リスクの一次予防を評価するために、QRISK2またはQRISK3リスク計算機を使用してみてください。思ったよりもリスクが高めに出てしまって驚きますが、そのようにプログラムされているので仕方がありません。信用はしていません。なぜなら、そのベースとなるデータは全て糖質過剰摂取者によるものだからです。糖質制限でのデータはありません。しかし、通常の状況で、このようなもので脅されれば、仕方なく薬を受け入れる可能性はあります。スタチンには非常に重大な副作用が起きる可能性があります。(「スタチンはあなたの体の重要な機能を低下させる」など参照)よく考えましょう。

「Statins for primary prevention of cardiovascular disease: modelling guidelines and patient preferences based on an Irish cohort」

「心血管疾患の一次予防のためのスタチン:アイルランド人コホートに基づくモデリングガイドラインと患者の好み」(原文はここ

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