集中的なカロリー制限と運動による無理やりな減量のその後

以前の記事「カロリー制限と基礎代謝量」で書いたように、カロリー制限は基礎代謝を低下させます。そしてそれはかなりの長期間にわたって続いてしまいます。

テレビでは定期的にダイエット番組をやっています。その中でも集中的にカロリー制限と運動をさせて、短期間に大きく減量させるような無理やりなプログラムもあります。

しかし、そのような無理やりなダイエット法がその後どのようなことをもたらすのかは、テレビでは絶対に放送してくれません。面白おかしく番組になればそれで良いのですから。

アメリカでこのような集中的な無理やりな減量を行った人の6年後の状態を調べた研究があります。(図は原文より、表は原文より改変)

 ベースライン減量30週終了後6年後
年齢(歳)34.9±10.335.4±10.341.3±10.3
体重(kg)148.9±40.590.6±24.5131.6±45.3
BMI(kg/m 249.5±10.130.2±6.743.8±13.4
% 体脂肪49.3±5.228.1±8.944.7±10
体脂肪量(kg)73.4±22.626.2±13.661.4±30
除脂肪量(kg)75.5±21.164.4±15.570.2±18.3
呼吸商0.77±0.050.75±0.030.81±0.02
安静時代謝率測定値(kcal/日)2,607±6491,996±3581,903±466
安静時代謝率予測値(kcal/日)2,577±5742,272±4352,403±507
代謝適応(kcal/日)29±206-275±207−499±207
総エネルギー消費量(kcal /日)3,804±9263,002±5733,429±581
身体活動量(kcal/kg/日)5.6±1.810.0±4.610.1±4.0

アメリカなのでベースラインの平均体重は約149kgで、BMIも49.5です。すごいですね。そしてこのプログラムで、30週後に60kg弱の減量に成功しています。40kg以上の体脂肪量を減らしています。

上の図はAがベースラインからの体重の変化です。Bは除脂肪量の変化(つまり主に骨と筋肉の量であり、骨の重さは変わらないと考え、筋肉量の変化を見ています。)です。Cは体脂肪量の変化です。Bの除脂肪量の変化はあまりありませんが、体重や体脂肪はプログラム終了時の30週と比較して6年後には大きく増加しています。ただ、多くの人はベースラインよりは減少しています。

上の図は横軸が体重の変化、縦軸が体脂肪量の変化です。●が30週後で、○が6年後です。体重の変化は体脂肪の変化が大部分を占めていると考えられます。

 ベースライン減量30週終了後6年後
グルコース(mg/dL)95.7±16.370.2±21.9104.9±48.7
インスリン(μU/mL)10.4±8.53.9±1.912.1±7.5
Cペプチド(ng/mL)3±1.41.3±0.92.7±1.1
HOMA ‐ IR2.5±2.20.7±0.43.6±4.6
中性脂肪(mg/dL)128.5±76.357.4±22.392.9±43.9
コレステロール(mg/dL)174±41.2192.4±52.8180.9±45.9
LDL(mg/dL)105±30126±46108±35
HDL(mg/dL)42.5±17.654.6±14.954.5±21.2
アディポネクチン(mg/mL)2.46±1.284.69±2.057.29±4.71
T3(ng/dL)9.42±2.785.31±1.4511.15±1.81
T4(μg/dL)7.3±1.586.95±1.436.18±1.12
TSH(μIU/mL)1.52±1.261.42±0.731.93±0.9
レプチン(ng/mL)41.14±16.912.56±2.1927.68±17.48

ホルモンなどの検査値は、30週後にはもちろん非常に改善しています。しかし、6年後を見ると、ベースラインよりも悪化しているように見えるものもいくつもあります。グルコースやインスリン、インスリン抵抗性(HOMA-IR)などはベースラインを上回っています。

上の図はAが安静時代謝率の変化、代謝適応を示しています。安静時代謝は基礎代謝よりも20%ほど高くなると考えられていますが、基礎代謝の代わりに考えても良いでしょう。また、体重減少は、しばしば体組成の測定された変化に基づいて予想されるよりも大きい安静時代謝率の低下を伴い、この現象は「代謝適応」と呼ばれ、それが減量に対抗するように作用すると考えられています。

そうすると、カロリー制限と運動で大きな減量をすると、安静時に消費する代謝が大きく減少します。この研究では約600kcalも減少を認めています。そして、さらに問題になるのが6年後の安静時代謝の減少です。体重などはベースラインまでは戻っていないまでも、大きくリバウンドしています。しかし、安静時代謝率は30週後よりもさらに低下しているのです。減量に伴う代謝適応で大きくエネルギー消費を減らし、6年後にはもっと悪化しているのです。

これが、安易なダイエットの後にリバウンドして、しかも元の体重よりもさらに増加してしまうことが多い理由なのです。6年経っても代謝適応が続き、安静時代謝が低下してしまうのです。だから、絶対にカロリー制限を行うことはやってはいけないのです。

上の図はAが6年後の体重回復のパーセンテージと30週の代謝適応の関係、Bが6年後の体重変化率と30週の代謝適応の関係を表しています。どちらも関連がありません。しかし、Cの6年後の体重回復のパーセンテージと6年後の代謝適応の関係、Dの6年後の体重変化率と6年後の代謝適応の関係を見ると、体重が十分に回復するほど代謝適応は少なくなっています。体重減少を続けている人では、代謝適応も大きいままです。そして、体重が十分にリバウンドしていても、ベースラインからは代謝適応は大きく起きているままなのです。つまり基礎代謝、安静時代謝が低下したままです。

このような代謝の変化が起きることを知っていて、カロリー制限を勧めている医師はどれほどいるのでしょうか?

では、糖質制限ではどうなのでしょうか?それは次回の記事で…

 

「Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition」

「「最大の減量者」競技から6年後の持続的な代謝適応」(原文はここ

2 thoughts on “集中的なカロリー制限と運動による無理やりな減量のその後

  1. この番組、知ってます。アメリカのNBCテレビが制作・放映している元老番組です。
    体重が100kgを超える人たちが出演し、体重を減らす目的で変わった運動やら何やらをし続け、最後まで勝ち残った、最も大きく体重を減らした人は賞金として25万ドルを貰えます。それぞれ運動訓練教官が付き、出場者たちを怒鳴ったり、罵倒したり、励ましたりしながら運動させます。

    しかし、この番組に出場して体重を減らした人たちの多くは、減ったはずの体重がまたもや元に戻るのです。中には、番組に出場する前の数値よりもさらに体重が増えてしまう人も出てきます。
    この番組の過去の放送分はYoutubeで視聴できます。運動中に心臓発作を起こして倒れてヘリを呼ばれて緊急搬送される出場者や、ゲロを吐いてる出場者もいます(こんなに太っている人たちに運動なんかさせるなよ、と言いたくなります…)。

    太っている彼らに伝えたい。「炭水化物が多いものを避けて、血糖値とインスリンの濃度が低い状態を維持して下さい。それにはまず、ケトン食療法を試してごらん」と。
    この番組に登場した出場者たちの身体と体重は、本当に悲惨なことになっています。

    清水先生。恐れながら、…
    番組の題名にある「loser」は「敗北者、負け犬」ではなく、この場合、「体重を減らした人」の意味ですので、「最大の敗者」という訳語は不自然に感じます。

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