タンパク質は非常に重要な栄養素で、たっぷりと摂るべきだと思います。私も恐らくは1日に2~3g/kg程度は食事で摂っていると思います。プロテインを飲むことを否定しているわけではありません。食事で十分なタンパク質が摂れない方はプロテインでも良いと思います。
タンパク質の充足度を血中尿素窒素(BUN)を指標にするということがネットで書かれています。数年前に確か読んだ記憶がありましたが、私はまさかこんな情報を鵜呑みにする人はほとんどいないだろう、一時的に広まることもあるかもしれないがすぐに消えるだろう、と簡単に考えてしまいました。しかし、最近でもこのBUNを指標にしたタンパク質摂取が行われていることを知り、今回の記事になりました。今回その以前読んだBUNの情報を探すと、次のようなことが書かれていました。
「医師国家試験レベルでは、
クレアチニン高値+BUN高値=腎機能障害、
クレアチニン正常+BUN高値=消化管出血などのタンパク質異化亢進。
このことは医者なら誰でも知っている。
しかし、クレアチニン正常にて、
タンパク不足=BUN低値(15以下)、
高タンパク食=BUN高値(20以上)。
このことは医学教育では習わないため、大多数の医者はこのことを知らない。
しかし、”習っていないから知りません”なんて言うのはアフォそのもの。
BUNはアルブミンに比べ、タンパク不足の鋭敏な指標になる。
(腎障害のある高齢者を除く)」(記事の原文はここ)
「BUN=尿素窒素。
腎機能障害のある高齢者ではBUNがクレアチニンとともに増加する。
腎機能障害のない人では、体内のタンパク質充足度の指標。
BUNはアルブミン値より鋭敏なタンパク質充足度の指標。
BUN<10、深刻なタンパク不足。
BUN10~15、タンパク不足。
BUN15~20、まずまずタンパク質は満たされている。
BUN>20、タンパク質は満たされている(理想値)」(記事の原文はここ)
この中で「タンパク不足=BUN低値(15以下)、高タンパク食=BUN高値(20以上)。このことは医学教育では習わないため、大多数の医者はこのことを知らない。」というのは間違いで、実際のところは、「BUNはタンパク質の充足度の指標にはならないことを大多数の医師は知っている」のです。
BUN20以上が理想値だというのは、全く根拠がないばかりか、日本人の女性で20以上になることは通常不可能です。男性でも少数でしょう。逆に女性でBUNが20以上の人を見かけたら、私は「タンパク質をしっかり摂っているな」とは全く思いません。「何か体に問題があるか、採血の条件が問題か?」などを考えます。それはなぜでしょう。
まず、タンパク質が分解されるとアンモニアが作られ、肝臓でアンモニアは尿素になります。尿素はタンパク質が代謝された最終的な産物で、燃えカスのようなものでしょう。その血中の尿素の窒素成分を測定したものがBUNです。BUNは主に尿から排泄されます。BUNと共に腎機能の評価で測定されるものにクレアチニンというものがあります。クレアチニンは食事に影響されず、筋肉量に比例するものです。そうすると自ずと男性より女性の方が筋肉量は少ないことが通常であり、クレアチニン値も女性の方が低くなります。
上の図は日本人(20~59歳)のクレアチニン値です。(国民健康・栄養調査(平成29年)より)青が男性、赤が女性です。男性でもクレアチニン1.2を超えることは2%以下であり、20代と30代だけを見れば1.2を超える人はゼロです。女性では1を超える人はまずいません。20台と30代だけを見れば0.9を超える人はゼロです。つまり、日本の女性のクレアチニンは0.5や0.6程度です。男性でも0.7~0.9程度です。ちなみに私は0.8前後です。
BUNとクレアチニンの比というものがあります。これは通常10~20の値を示します。正常範囲が6~22というものもありますが。そうすると、腎臓の機能が正常であり、体の状態が正常であれば、BUNはどう頑張ってもクレアチニンの20倍前後の値にしかならないのです。正常な腎臓はタンパク質の代謝回転で増加した尿素を排泄するぐらいの機能的な余裕は十分にあります。つまり、日本の女性のBUNはタンパク質をいくら摂っても、10~14程度なのです。男性でも14~18程度です。
しかし、ときにBUN/クレアチニン比が20以上のこともあります。そのときは他の因子が大きく関連しています。クレアチニンは腎臓で再吸収されませんが、BUNは排泄される方が多いですが、再吸収されます。それによりBUNの値は様々な影響を受けるのです。
もちろん食事によって変化します。タンパク質を大量に摂取すれば高くなると言われていますが、恐らく検査の前日の夜大量摂取しても、検査の朝の値に影響するのは非常にわずかだと思われます。食事以外のBUNを変化させる因子としては最も大きいのは腎血流量でしょう。体の水分量が減少して、血液量が減少すると、それに伴い腎血流量も低下し、BUNは再吸収され、高くなります。
ある方のBUNとクレアチニン値を示します。たった11日後の検査であり、同一人物なのに大きくBUN値は違っています。最初の検査のデータを見て、私は水分摂取不足を指摘し、次の検査までの間水分摂取を増やすようにアドバイスしました。そうすると、BUNは大きく低下しました。この方の本来のBUNに近づいたと思いました。20を超えるBUNを見た場合に、ほとんどが水分摂取が不足して、軽い脱水状態だと思います。特に朝の検査では前日の夕食後、水分も摂らないで検査を受けると、このような脱水状態になってしまうのです。
X-day | X+11日 | |
BUN | 20.4 | 14.2 |
クレアチニン | 0.66 | 0.61 |
BUN/クレアチニン比 | 30.9 | 23.3 |
脱水以外にも、Nsaids(消炎鎮痛剤)などの薬剤の使用でも腎血流量は低下します。交感神経の緊張でも血流は低下するでしょう。
それ以外にBUNを上昇させる因子は、消化管出血も有名ですが、体の組織のタンパク質の破壊が起きたとき(筋肉の挫滅や発熱、消耗、感染など)でも起きます。私がウルトラマラソンを走った前後ではBUNは8程度上昇しました。つまり、運動でも変化します。
逆に利尿薬、利尿作用のあるサプリや食材などでも腎血流は増加しBUNは低下するでしょう。さらに女性の場合は女性ホルモンによっても体の水分量は変化しますので、生理周期がBUNに影響する可能性があります。また、尿素は肝臓でできるので、肝機能が低下すれば尿素を作る力が低下し、BUNが低下する可能性があります。よく肥満の人は実は栄養不足などと言われますが、全てがそうとも言えません。脂肪肝などで肝機能が低下すればBUNもアルブミンも低下します。それだけで栄養不足と判断はできません。先日の記事「ナイアシンは安全か? その2」で書いたナイアシンの肝機能への影響でもBUNは低下するかもしれません。BUNを変化させる因子はタンパク質摂取量以外に非常に多いのです。
BUNはタンパク質が異化(分解)されてできるものです。体の中でタンパク質はいたるところにありますが、そのタンパク代謝回転が大きくなったときに、分解も増加するので、尿素もいっぱいできます。しかし、腎機能が正常であれば、再吸収を低下させ、BUNはそれほど増加しません。もちろん個人差はあると思いますが、肝機能、腎機能、水分量が問題なく、激しい運動後ではない場合にはBUN/クレアチニン比は最大でも20前後なのです。実際にBUN/クレアチニン比が20というのも実は水分不足であり、本当はもっと低い値が本当の値かもしれません。ただ、いつも同じ条件で検査できません。だから、BUNというのは腎機能が正常であれば、体の水分状態の目安程度にしかならない項目なのです。
だから、どうしてBUN20以上が理想値なのか私には理解できません。男女の体格差、人間の生理学を全く無視した数値です。根拠なき数値目標です。一部の企業では上層部や上司が十分な市場の調査や分析もせずに、「これは無理だろう!」という数値目標を掲げます。この数値目標に翻弄される部下は悲惨です。それと同じレベルの話だと思います。それとも、私はまだまだ無知なので、私の知らない体のメカニズムが存在するのでしょうか? BUN20以上の根拠を知っている方は是非教えてください。
もし、それでも女性でBUN20を目指したいのであれば、タンパク質だけを摂っていても筋肉は十分には増加しないので、トレーニングをして、クレアチニンが1以上になるほど筋肉モリモリのマッチョになるしかないでしょう。
次回は、実際に非常に高タンパク食のデータを示して、どれほどBUN20以上が日本人の女性に不可能な数値か、などについて書きたいと思います。
3回目のコメントになります。
毎日ブログを拝見し勉強させていただいてます。
私はドクターシミズ様同様、糖質制限と有酸素系運動により健康を維持しているつもりでおります。
しかし暑くなると毎年のように2つの症状が出ます。
■夕方から夜間にかけての倦怠感
私の場合、立ち眩みも伴うことから原因は「鉄欠乏性貧血」ではないかと考えています。
■就寝中のこむら返り
原因は「加齢」、「冷え」、「疲労」、「脱水」が一般的なようですが特定できていません。
いずれの症状も鉄分やミネラル(マグネシウム、亜鉛、カリウム、カルシウムなど)の摂取により改善するそうですが、
食生活から計算してみると恐らくは足りてると思われます。
生活に支障をきたすほどではありませんが、一度受診してみようかとも思っています。
梅雨も明けて盛夏となりましたので「夏バテ防止」の話題ついでにまた取り上げてもらえればと思います。
よろしくお願いします。
40代男性さん、コメントありがとうございます。
一般的に言えば、糖質制限食で肉をたっぷり食べている40代の男性で鉄欠乏性貧血の可能性は非常に低いと思いますが、
こればかりは検査値を見てみないとわかりません。
こむら返りは糖質制限で良く起こることですが、マグネシウムや塩分、水分不足のことが多いと思います。ちゃんと摂っているつもりでも、
実際には少ない場合もあります。また、腰から来る場合もあります。
清水先生、こんばんは。
BUNだけでタンパク質が足りているかどうかを評価するというのはあまりに乱暴ですね。タンパク質だけを摂取して、糖質や脂質が少ないと、タンパク質がエネルギー源として使われ、その結果としてBUNが高くなるということを読んだことがあります。すなわち、タンパク質が足りなくても、同時に糖質や脂質の量が少ないとBUNは高くなるのだと思います。通常、肉や魚を食べることでタンパク質をとると、同時に脂質もとることになるので、タンパク質はエネルギー源に使われるのではなく、同化されるのだと思います。その場合にはBUNは高くならないはずです。
記憶が曖昧ですが、ビタミンCについても、大量のビタミンCサプリを飲んで下痢をしなければ、不足しているんだ、のような記事をネットで読んだことがあるように思います。
そのような記事を信じるかどうかは自己責任なのかもしれませんが、医師がこのような記事を公開するということは非常に危険だと思います。
じょんさん、コメントありがとうございます。
普通に考えればおかしなことも、二重洗脳に陥っている場合、本人はそれを認めませんし、気付きもしません。
ナイアシンなどの実際に体に変化を直接感じられるサプリも使っているので、非常に誘導しやすい状態です。
自分のことは自分が一番わかるというのは間違いではありませんが、自分だから客観的に見えないこともあります。
知識のない方は具体的な目標を示されると、非常に分かりやすく、そこの目標にたどり着こうと努力します。
知識を得ているつもりでも、間違った目標を掲げる人から学んだのでは、間違った方向に行ってしまいます。
実際にBUNという指標にもならないものを頼りにタンパク質を摂取している人がいるのです。
臨床的な経験から得たことでエビデンスはない、と言う人もいるでしょうが、良くない情報は隠し、上手く行った情報だけを出すことも簡単です。
健康食品の怪しい体験談とレベルは変わりません。意図的に科学という範囲から外れて、医学の土俵に上がらないようにしているのだろうと思います。
過剰な酸化ストレスは有害ですが、適度な酸化ストレスはそれに適応して体が強くなると考えられます。
それを大量のビタミンCやEなどの抗酸化物質を使用して、適度な酸化ストレスさえ抑えてしまうと、
マイナス面がいつか出てくるでしょう。しかし、それさえも気付きません。マイナス面はまだサプリなどが足りないと思ってしまいます。
私も自己責任と思いながらも、情報発信者が同業者なので、本当に自己責任で片づけて良いのか?と迷ってしまいます。
きっと私の国語力もないことも手伝い、文字だけでは上手く伝わらないだろうと思ってはいます。
清水先生、おはようございます。
清水先生の情報発信は詳細なデータをご提示いただいているので、怪しい体験談とはまったく異なります。
これからも発信をお願いいたします。
私は、痩せ型、女性ですが、普通食時代も、又糖質制限してタンパク質、脂質中心の食生活でも、BUNはいつも高めで18~23、クレアチニンは平均0.5、偶に0.7?とかで、BUN20超えは至って普通です。汗っかきで、水は人一倍、水を飲みます。1hのエアロビで夏場は1リットル、トイレは近い方ではなく、コーヒーを飲んだ時だけ、やけに行きたくなるくらいです。夜中排尿で目覚めることも殆どありませんが、しっかり汗をかいた入浴後は、非常に喉が渇きガブ飲みすると、明け方にいきたくなる…感じです。あと、塩分摂取が多めかもしれません。
Mitsu T.さん、コメントありがとうございます。
記事で書いた腎臓以外の採血前の条件をこれだけの情報ではわかりませんので、何とも言えませんが、
通常は採血時の水分不足と考えられます。
いずれにしても、タンパク質を多く摂るようになって、BUNが上昇したわけではないということですね。
ご返信ありがとうございます。
そうですね。ただ昔から糖質もタンパク質も割としっかり摂っていました。所謂痩せの大食い。一方で絶食にも強かったです。
足の攣りですが、昨夜飲み過ぎくらい喉が渇きガブ飲みしたからか、足は攣りませんぜしたが、代わりに腎臓に負担かけた感じがしました。この辺り個人差がありますが(私は汗をよくかくので)、調整が難しいです。
素人考えですが、血中BUN値と尿中BNU値を比較すると、色々面白そうです。
糖尿人の息子さん、コメントありがとうございます。
面白そうですね。
シミズ先生
数カ月前から先生のブログでいろいろと勉強させていただいております。appleと申します。
さて、私はBUN31.2 クレアチン0.46なのでBUN/クレアチン比がゆうに20を超えます。
水分は一日3リットル
糖質30gタンパク質150g脂質110gの糖質制限食をおこなっております。
BUN/クレアチン比がこのように高くなる原因は何なのか、自分ではわかりません。
どうぞ考えられる要因をお教えくださいませんか?
なお、身長168cm体重43kgです。
考察に他の血液検査データが必要ならば、
別途お知らせしますので、申し付けくださいませ。
appleさん、コメントありがとうございます。
168cm、43kgというのはBMI15ちょっとなのでかなりの痩せすぎです。
現在の体重で考えたらタンパク質は3.5g/kg、理想的な体重に対して考えても2.7g/kg程度ではないかと思います。
単純にタンパク質が多すぎではないかと思います。
シミズ先生
早々のご回答ありがとうございます
2.7×43kg=116g程度にとどめれば
BUN/クレアチン比は一般的な値に収まるようになるでしょうか?
しばらく実践してみます
先生のブログ記事を読んで、タンパク質120g程度生活を始めたばかりです。
元来痩せていて、糖質制限をするとさらに痩せたので、主人が心配し、
専門家に教えを乞うたほうがいいと言われました
そこで9月に管理栄養士さんに相談した結果、タンパク質が少なすぎるので、最低でも130gとってくださいとアドバイスをもらいました
6月(増やす前)のBUN/クレアチン比=14.6/0.46=31.7でした
4年前から、食後の高血糖のピーク値を抑えようと、朝と昼は1.5から2時間のウォーキングを続けていました
カロリー消費分を補うために、タンパク質と脂質を増やすしかなかったといったところです
私の場合糖質制限食で痩せないためには、体重に応じたタンパク質量、脂質100g 程度とすると、カロリー消費を抑えるような生活を心掛けるしかないような気がします
筋肉量を増やすことがベストなのかもしれませんがなかなか難しい限りです
ウォーキングをやめ、筋トレだけのほうが良いでしょうか?
appleさん、ちょっと私の書き方が悪かったですね。
現在のタンパク質150gというのが、現在の体重で考えたらタンパク質は3.5g/kg、理想的な体重に対して考えても2.7g/kg程度という意味です。
水分摂取量多いですが、検査の際には脱水になっていないでしょうか?
その他様々なデータなどを見ていないので、なかなか適切なことをアドバイスすることは難しいので、申し訳ありません。
シミズ先生
どうも私は頭が固いようで、申し訳ございません。
理想体重で2.7g/kg程度ということは、現在の体重では90g程度を目安にしたほうがいいということですね。
ロカボからスーパー糖質制限に切り替えてHbA1Cが徐々に高くなってきたのは、タンパク質によるものだったのかもしれません。
自己測定ではHbA1Cから導かれる平均血糖値を超える値が出ることはまずないのです。夜中就寝中に高くなっているのかもと思い、アラームをかけわざわざ起きて計測したことが何度かあるのですが、兆候は見られず
HbA1Cとの乖離が起きる他の病気になっているのかと考えみたり
近日中にグリコアルブミン値を調べてもらう予定です
appleさん、違います。
一応BMIは18.5以上25未満が「標準」とされています。168cmであれば、まあ55kgが標準と仮定すると、
現在摂取している150gのタンパク質は2.7g/kg程度ということです。
摂取する目安は1.5g~2g/kg程度で良いので、理想体重を55kgとすると82.5~110g程度で良いのではないでしょうか?
メールを送らせていただいたので、できればそちらをご覧ください。
シミズ先生
度々申し訳ございません
アドレス欄にメールアドレスを明記しました
よろしくお願いします