前回の記事「タンパク質摂取に対する根拠無き理想値 その1」で私は食事でタンパク質を2~3g/kg摂っていると書きましたが、糖質制限をしていれば単純に計算しても、ほとんどの人がそれくらいの量になります。1日の摂取エネルギーをちゃんと摂れば、摂取エネルギーの25%をタンパク質と考えると、それだけで2g/kg以上です。それ以上摂る意味もほとんどありませんが、運動量も多いですし、好きなだけ肉などを食べていれば、ときに3g/kgになることもあります。2g/kg以上をお勧めしてるわけではありません。個人差はありますが、2g/kg程度までで十分でしょう。食事でこれだけのタンパク質を摂れているのであれば、プロテインを飲む必要はありません。
食事で1日に必要なエネルギーを摂れているのであれば、2g/kg 以上摂っていて足りないとは考えられません。アスリートでさえ、この程度のタンパク質を勧められています。進化の過程ではもっともっと少ないタンパク質量であり、そのタンパク質を節約する機能も標準装備されているはずです。タンパク質代謝回転を増加させることが必ずしも良いことなのかはまだわかっていません。そして、人間にとってどれくらいのタンパク質が適正なのかもしっかりとは定まっていません。また、タンパク質摂取量が適量なのかを測定する方法もありません。ましてやBUNでタンパク質の充足度を見極めるなんて不可能です。目安にする程度でしょう。
また、前回の記事でBUNの上昇は体の水分量の不足であるということを書きましたが、過剰な水分摂取を勧めているわけではありません。それくらいBUNは様々な因子に左右される検査だという意味なので、勘違いしないでください。
もちろん、ビックリする食生活の人もいます。お菓子しか食べていない日もある、という人もいるでしょう。先日もテレビで若い女性が「夕食はタピオカジュースだけ」と言っていました。そのような食生活ではもちろんタンパク質不足です。しかし、通常の糖質制限食を食べているのであれば、タンパク質不足にはなり得ません。不足、不足と煽られていますが、本当に不足しているのかちゃんと考えないとなりません。
今回の研究では、定期的にトレーニングをしている若い健康な人(平均体重74〜75kg)を対象に、非常に高タンパク食を8週間摂ったときの変化を調べています。筋トレも行っています。高タンパク食群では1日3g/kg以上摂取するように指示されました。(表は原文より改変)
通常タンパク質 前 | 後 | 高タンパク質 前 | 後 | |
タンパク質 g / kg /日 | 1.8 | 2.3 | 2.1 | 3.4 |
上の表はタンパク質摂取量です。通常タンパク質食群の研究前では1日1.8g/kgでした。研究終了後では少し多くなり、2.3g/kgでした。高タンパク食群では研究前で2.1g/kgでしたが、研究終了時では3.4g/kgでした。かなりの高タンパク食です。タンパク質として平均して255gです。
血液検査の変化は次のようです。
通常タンパク質 | 高タンパク質 | ||||
---|---|---|---|---|---|
前 | 後 | 前 | 後 | 正常値 | |
血糖値(mg / dl) | 83.7±11.6 | 77.4±12.4 | 84.0±10.3 | 85.4±11.1 | 65〜99 |
BUN(mg / dl) | 15.7±2.9 | 17.6±4.7 | 19.6±5.5 | 20.7±4.4 | 7.0〜25.00 |
クレアチニン(mg / dl) | 1.0±0.2 | 1.0±0.2 | 1.1±0.2 | 1.1±0.1 | 0.6〜1.35 |
GFR | 101.8±12.8 | 100.1±15.5 | 90.7±13.8 | 90.2±9.1 | § |
BUN /クレアチニン | 16.6±3.9 | 18.8±7.5 | 17.7±6.3 | 18.5±4.2 | 6.0〜22.0 |
通常タンパク質群の前後、高タンパク質群の前後を見ても、BUNはほとんど変化していませんし、BUN /クレアチニンも変化なく、16~19程度です。もちろん、「その1」で書いたように、採血時の条件がちゃんと一緒であるかどうかは不明です。たった8週間ではありますが、当然腎機能に悪い影響もありません。(「高タンパク食は腎臓に悪影響がないばかりか糸球体濾過量(GFR)を増加させる」など参照)
しかし、3.4g/kgを摂って、筋トレをしても、BUNは増加しません。腎機能が正常であれば、当然排泄を増やすだけなのですから。BUNを目標にタンパク質を摂取しても無意味です。BUN20は全く根拠がなく、日本人女性では不可能な数値です。
では、長期の高タンパク質の摂取は問題が無いかどうか、というのは現地点ではやはりわかりません。ただ、糖尿病の人や、長生きしたい人にとっては少し注意が必要かもしれません。それについては次回以降で。
「A high protein diet (3.4 g/kg/d) combined with a heavy resistance training program improves body composition in healthy trained men and women–a follow-up investigation」
「ヘビーレジスタンストレーニングプログラムと組み合わせた高タンパク質食(3.4 g / kg / d)は健康な訓練を受けた男性と女性の体組成を改善します – 追跡調査」(原文はここ)