高タンパク質摂取による有害性は? その1

良いことずくめの高タンパク質摂取と思っていますが、糖尿病の人では少し注意が必要かもしれません。

タンパク質はインスリン分泌を増加させるが、健康な人と糖尿病の人ではかなりの差がある」で書いたように、2型糖尿病の人ではタンパク質摂取でも、糖質摂取のときと同じ程度のインスリンが分泌されてしまいます。(図はこの論文より)

上の図は2型糖尿病の人で、ブドウ糖50gだけ、タンパク質50gだけ、ブドウ糖とタンパク質同時摂取の場合のインスリン分泌を示しています。このタンパク質源はハンバーグです。つまり肉です。タンパク質だけでも十分にインスリンが分泌されています。この曲線下面積はタンパク質だけの場合、ブドウ糖だけのおよそ94%にもなっているのです。ほとんどブドウ糖と変わらないインスリンが分泌されるのです。糖質制限をしていれば改善するかもしれませんし、変わらないかもしれません。答えは持っていません。

(図はこの論文より)

上の図は健康な人のプロテイン飲料による、4時間のインスリン分泌の曲線下面積です。20gのプロテインは有意なインスリン分泌増加を示し、40gなるとさらに分泌増加は跳ね上がっています。もちろん、1回に40~50gのプロテインは飲むことはないでしょう。しかし、20gであってもインスリン分泌は増加します。糖尿病であれば、その前のグラフと合わせて考えると、20gのプロテインが20gのブドウ糖と同じ程度インスリンを分泌させる可能性はあります。これは調べてみないとわかりませんし、個人差、すい臓のインスリン分泌の能力差、インスリン抵抗性の差などによって違いが起きると思います。20g程度の糖質のインズリン分泌量なら許容範囲という考えもあるかもしれません。 糖質制限をしていれば、タンパク質に対するインスリンの分泌量は変化しているかもしれません。これもそれぞれ調べないとわかりません。

タンパク質を摂取すると、アミノ酸による刺激ですい臓のα細胞からグルカゴンというホルモンが分泌されます。このグルカゴンの作用により、糖新生が起き、血糖値が上がる方向になりますが、アミノ酸はインスリン分泌も刺激します。そして、見た目には血糖値は変動していないように見えます。(少し血糖値が上がる人もいますが)

つまり、進化の過程では糖質を摂取することは非常に少ない中で、タンパク質を摂取したときに、それを糖新生でブドウ糖に変換して血糖値を維持していたと考えられるのです。

そして、タンパク質はα細胞を増加させます。糖尿病ではさらにβ細胞が疲弊して、減少し、相対的にα細胞が増加しているとも考えられますし、動物実験では糖尿病の場合β細胞がα細胞に転換されているという結果も出ています。(人間ではどうなっているかは現在わかりません。)糖尿病初期ではβ細胞からのインスリン分泌が低下するから、耐糖能障害が起きるのではなく、糖質摂取時のグルカゴンの分泌を抑制が低下することによって起きると考えられています。つまり、グルカゴンのα細胞からのグルカゴン分泌の調節不全が、β細胞からのグルコース刺激インスリン分泌障害の前に起こると考えられているのです。(この論文より)

糖尿病で、インスリン分泌が低下していれば、タンパク質摂取でも血糖値が上昇することもあるでしょう。そして、タンパク質によってインスリン分泌が促進しますから、疲弊した残りのβ細胞には負担がかかる可能性があります。そして、タンパク質によってα細胞が増加する方向になり、グルカゴンの分泌はさらに増加します。グルカゴンは量が多くなるとその分血糖値が上がると考えられています。そうするとさらにタンパク質によって血糖値が上がりやすくなる可能性があるのです。そしてさらにインスリンを出そうと頑張ってβ細胞が…

そう考えると、糖質でβ細胞が疲弊したように、タンパク質でα細胞が疲弊してしまうことはないのでしょうか?ちょっと疑問ですね。調べてみたいと思います。グルカゴンはインスリンの反対の作用を示して、血糖値を上げることが唯一の役割ではないです。特にタンパク質代謝には大いに関わっています。グルカゴンはまだわかっていないことが非常に多いと思われます。

いずれにしても、糖尿病の場合、タンパク質の量にも気を使う必要があるかもしれません。ただ、糖尿病でどれくらいのタンパク質がが適量かは不明です。

今回の記事では糖尿病に対する高タンパク質摂取について書きましたが、糖尿病がない人は全く問題がないのでしょうか?それは次回以降に。

「The biology of glucagon and the consequences of hyperglucagonemia」

「グルカゴンの生物学と高グルカゴン血症の影響」(原文はここ

8 thoughts on “高タンパク質摂取による有害性は? その1

  1. タンパク質摂取時の糖新生と血糖値の関係については以前より疑問に思っておりました。

    同じ量のグルコースとタンパク質で同じ量のインスリンが分泌されると言う事ですが、このことはタンパク質摂取時の糖新生でも同じ量のグルコースが産生されると解釈できます(したがって一般的に血糖値は変動しない)。
    しかし、2型糖尿病の私は、タンパク質の場合は血糖値が上昇せず、グルコースの場合は上昇します。
    これは糖新生の場合は、グルコースが血中に放出されるには時間がかかるため、インスリンの追加分泌?が間に合うと理解して良いのでしょうか。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      糖新生で同じ量のグルコースが作られるかどうかは不明です。しかし、50gのタンパク質で50gのグルコースが作られるとは考えにくいので、私は次のような仮説を考えています。
      一つはタンパク質を摂取した場合、そのアミノ酸自体がインスリン抵抗性を増加させるため、インスリン分泌が多くなってしまう、というものです。
      分岐鎖アミノ酸(BCAA)はインスリン抵抗性を増加させるという研究はいくつもあるので、タンパク質摂取で急性のインスリン抵抗性増加が起きても不思議ではないかもしれません。
      もう一つは、糖尿病の人ではグルカゴンに対するグリコーゲンの分解が糖尿病でない人よりも活発に起きる、というものです。

      タンパク質で血糖値が上がらないのは、仰る通り吸収に少し時間がかかることが考えられますが、よくわかりません。
      ただ、タンパク質の量にもよるのかもしれませんし、肉の場合は脂質同時摂取なのでそれが影響するかもしれません。
      プロテイン飲料で50g摂取した場合でも血糖値が上がらないかどうかを確かめてみると面白いかもしれません。

  2. こんにちは。タンパク質でのインスリン分泌で検索し、こちらの記事をお見かけしました。

    2枚目の図では、タンパク質摂取でインスリンが分泌、血糖値は下がっていますが
    インスリンは筋肉や肝臓に糖を取り込む作用があるため、血中の血糖が各部位に格納され、血糖値が低下しているのかと思います。

    一方で、糖質制限をしていると、糖新生が活発化されるので、体に取り込まれたアミノ酸が増加してきた際=食後3時間程度に、余剰なアミノ酸が糖新生され、血糖値が急上昇する方がいるという印象です。

    そのため、筋肉での糖取り込みの需要量によって、タンパク質で高血糖を起こす/起こさないの差が出てくるのかなと考えています。
    (運動で筋肉のグリコーゲンが減っている状態であれば、アミノ酸は糖新生で筋肉に取り込まれていく)

    質問ではなくご意見となってしまいましたが、コメント失礼いたしました。

    1. 笹さん、コメントありがとうございます。

      2枚目の血糖値は下がっているのではなく変化なしです。(やや下がっているように見えますが)
      グルカゴンとインスリンの分泌が同時に起き、結果として変化しないのです。
      糖質制限で糖新生が活性化するのはしますが、高血糖になるほどの糖新生であれば、それはすでにインスリン分泌に異常があるのかもしれません。

  3. タンパク源がハンバーグというのが非常に気になります。
    肉だけのハンバーグも存在しますが、糖質を
    含むハンバーグがありふれています。
    肉だけだと固くなりやすい、まとまり難い等の
    理由からです。
    びどいのになると、重量の40%以上糖質とかもあります。

    1. ふらさん、コメントありがとうございます。

      疑問点がどこにあるのかよくわかりません。タンパク質だけでもインスリンが分泌されるのは事実です。
      また、ハンバーグの中身はもちろんわかりませんが、日本で売られているような市販のハンバーグを使っているわけではありません。
      それでは実験が成り立ちませんから。ただ単にタンパク質として肉(ひき肉)を使ったということです。

  4. タンパク質摂取による血糖値の上昇について

    あるSNSのサイトで、MEC食を実践されている1型糖尿病(基礎インスリンのみ投与)で下記のような経過をたどったと投稿されている方がいらっしゃいます。

    (1)(MEC食開始時?)、卵、チーズなどの低糖質、高たんぱく食を食べただけで3時間後の血糖値が300くらいまで上がってしまった。
    (2)医師の指導の下、MEC食を続ける。医師からはもう少しすれば上がらなくなると説明を受けたそうです。
    (3)数日後、タンパク質では血糖値が1mg/dLも変動しなくなった。

    この方は、上記の経過をMEC食によるエネルギーの変遷で説明されています。
    ①糖質(MEC食以前)→②糖新生(上記(1)の状態)→③ケトン体(上記(3)の状態)

    300まで上がったのは、脂肪酸代謝に移行できず、②の状態であり、上がらなくなったのは③に移行できたからと考えられておられるようです。
    主治医からもそのように説明を受けておられるようです。

    (1)はインスリン枯渇により、タンパク質摂取で相対的にグルカゴン過剰となり血糖値が上がることは理解できます。
    しかし、ケトン体エネルギーを利用することにより、タンパク質摂取でもグルカゴン過剰とならなくなるのはなぜでしょうか。
    基礎インスリンのみでタンパク質によるによるグルカゴン分泌の作用とバランスしたと言う事でしょうか。
    または、脂肪酸代謝に移行すれば、タンパク質摂取による糖新生も抑えられる(グルカゴンの分泌が基礎インスリン投与だけでバランスするくらい減る)のでしょうか。
    それとも、タンパク質で血糖値が上がったのは糖新生ではなく、グリコーゲン分解が主な原因で、MEC食により肝グリコーゲンが枯渇したのでしょうか。

    この方の内因性インスリンがどの程度保たれているのかわかりませんが、自己流で基礎インスリンを減薬した結果、ケトアシドーシスで入院したとおっしゃっていますから、ほぼ枯渇していると思われます。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      詳しいことが良くわかりませんので何とも言えませんが、タンパク質で全く血糖値が変化しないのは、インスリン分泌が残っているか、
      タンパク質+脂質の同時摂取で、血糖値の上昇がかなり遅れて起きているのかもしれません。6時間後に上昇する方もいるようです。
      (この方は何時間後まで血糖値を測定したのかわかりませんが)
      MEC食でもスーパー糖質制限食でも、ケトン体や脂肪酸をメインのエネルギーにしていますが、だからと言ってインスリン枯渇状態でタンパク質摂取で血糖値が上がらないわけではありません。

      また、MEC食で肝グリコーゲンが枯渇することはないと思います。ケトン食のエリートランナーでも筋肉のグリコーゲン量は通常の食事を摂っている人と同じです。
      肝グリコーゲンも恐らく同様だと思います。グリコーゲンは一時的な減少、枯渇があったとしても、ずっと枯渇するというのは人間にとって非常にリスクが高いので、
      起きないのではないかと思います。

      ケトン体が出る状態ではグルカゴンが分泌されない、という根拠はどこかにあるのでしょうか?よくわかりません。

Dr.Shimizu へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です