遅い夕食の影響

人体には進化の過程で備わった様々なメカニズムがあります。そのメカニズムに大きくかかわるのがホルモンです。24時間という時間の中で、人体のホルモンは日内変動を起こしています。現代では、夜でも光を浴びていることが少なくありません。本来なら、日中は明るく、その時に行動し、食事をし、夜になると暗くなり、眠るというのが人間のリズムです。

(上の図はこの論文より。●がインスリン、▲がメラトニン)

人間には血糖値に関わらず、日中にインスリン分泌がピークとなり、夜間にインスリン分泌が低下するという自然の日内変動があります。そして睡眠に関わるメラトニンは全くインスリンと逆の波を描きます。夜間にピークとなり、日中のメラトニンは非常に少ないのです。インスリン分泌とメラトニン分泌は密接に関連していると考えられています。

現代では遅くに食事をすることも珍しくないでしょう。寝る前に食べることは何か問題でもあるのでしょうか?

今回の研究では健康な若いボランティアに対して、夕食を摂る時間、夜の6時と夜の10時とで、その時の様々なパラメーターの違いを比較しました。(図は原文より)

上の図は血糖値とインスリン値です。左側が時間との関連でグレーの部分が就寝している時間帯です。矢印のところで食事をしています。右側は食事からの経過時間との関連です。青が18時夕食群、赤が22時夕食群です。当然、遅く夕食を摂ると、就寝中に血糖値もインスリン値も高い状態です。さらに、22時夕食群の方が食後の血糖値のピークが18時夕食群より高くなっています。また、食事からの経過で、22時夕食群の方が長く血糖値が高く、インスリン値もわずかですが長く分泌されています。

 

上の図は中性脂肪と遊離脂肪酸の変動です。やはり22時夕食群で夜中に中性脂肪が高くなっています。遊離脂肪酸は逆に22時夕食群で夜中に低くなっています。

上の図は脂質の酸化、つまり脂肪をエネルギーにする状態を表しています。22時夕食群の方が食後の脂質の酸化が低くなっています。つまり、夜間で脂肪をエネルギーにしにくい状態なのかもしれません。

上の図はコルチゾールです。わずかに22時夕食群の方が寝ているときのコルチゾールが高くなっています。しかし、参加者が若い人だったからかもしれませんが、睡眠の質には影響しなかったようです。

遅い夕食では早い夕食よりも血糖値の上昇が高くなり、脂肪をエネルギーにする代謝が低下しました。これが塵も積もれば肥満につながる可能性があります。

メラトニンは睡眠作用や体内時計と深く関連していると考えられています。さらに最初に書いたように、メラトニンとインスリンは強く関係していると考えられています。メラトニンはすい臓のβ細胞にくっつきインスリン分泌を阻害すると考えられています。(ここ参照)そのことにより、遅い食事では早い食事よりも血糖値の上昇が大きかった可能性があります。ただ今回の研究ではインスリン値のピーク値は同様なので、インスリン抵抗性が高くなったのかもしれません。

逆に高血糖や高インスリン血症はメラトニンの分泌を低下させる可能性もあります。そうすると、このことが2型糖尿病の睡眠障害のメカニズムの一つである可能性が高くなります。また、糖質制限で睡眠の質が高くなると感じる人が多いのも、このインスリンとメラトニンの日内変動のリズムが人間本来のものに戻った可能性があります。

糖質過剰摂取では年齢とともにメラトニンの分泌の低下が認められています。糖質制限ではどうなるのか不明ですが、糖質制限でよく眠れるようになることを考えると、メラトニン分泌低下の一部には糖質過剰摂取が関連している可能性が高いと思われます。

さらにメラトニンはアルツハイマー病との関連も指摘されています。糖質過剰摂取とアルツハイマー病の関連にもメラトニンが関与しているのでしょう。

以前の記事「寝る直前に食べることはがんのリスクが高くなるかもしれない」では、寝る前の食事との時間が長いほど、乳がんや前立腺がんのリスクが低くなることを書きました。どちらのがんもホルモンが関与しています。寝る直前の遅い食事は、人間本来のメカニズムを狂わせているのかもしれません。

できる限り早い時間の夕食を心がけましょう。

 

「Metabolic Effects of Late Dinner in Healthy Volunteers – A Randomized Crossover Clinical Trial」

「健康なボランティアにおける晩食の代謝効果-無作為化クロスオーバー臨床試験」(原文はここ

2 thoughts on “遅い夕食の影響

  1. 私は糖尿病発覚前、不眠症から不安症を発症し、心療内科で半年ほどの薬物治療をした経験があり、その後、糖尿病を発症し(どちらが先かは定かではないですが)、現在に至っています。

    幸いにも不眠症、不安症は、完全ではないものの服薬が不要な程度には改善し、その後、糖尿病治療のために始めたスーパー糖質制限でさらに改善しています。

    不安症はセロトニンの減少などにより発症すると言われており、メラトニンの前駆体であるセロトニンの減少は不眠症にも関連します。
    そして糖質制限でこれらが改善する事より、不眠、不安症と糖尿病との関連を強く感じておりましたが、まさに記事の通り、不安症を発症した頃は、日付が変わるころに夕食を摂る事が日常になっており、これらの関連を確信しました。
    しかし、心療内科では、糖尿病の事などに触れられることはなく(検査もしていない)、糖尿病専門医は、不眠や不安症については受診時に既往歴を伝えていますが、全く興味がなさそうな感じです。
    これらの科が連携連動して治療をしてもらえれば、どちらの病状も、もっと早期に改善できたのではと残念に思います。

    医師にも専門外の広い知識(もしくは専門知識としての範囲の変更)が必要な時代になっているのではないでしょうか。

    1. 西村 典彦さん、コメントありがとうございます。

      現代の医療は、専門化され過ぎているだけでなく、自分の領域以外の症状は気にもしない場合が結構多いのではないかと思います。
      さらに、自分が処方した薬の副作用を軽視しているのではないかと思う場合もあります。
      多くの場合、様々な症状は、裏で原因が繋がっていると思っています。その大きな原因の一つが糖質過剰摂取だと思っています。
      まさに拙著「糖質過剰症候群」は、その認識を皆さんに持ってもらいたいと思い書きました。
      同じ糖質過剰摂取でも人により表れる症状は様々です。そうすると、受診する科も様々で、主に対症療法が行われます。
      根本的には良くなるわけがありませんし、薬ばかり増えるでしょう。
      少しずつでも糖質制限が広がっていくと良いですね。

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