軽度の高血圧に薬は必要か? 降圧薬の利益と害

以前の記事「アメリカの新しい血圧の指針 クレイジー!」「日本も高血圧の目標値を下げる?」で書いたように、アメリカに続き日本でも高血圧の定義を変更しようとしています。アメリカの新しい血圧のガイドラインでは、血圧が130/80以上は高血圧です。

高血圧は確かに世界中で大きな死因である心血管疾患の主要な危険因子です。しかし、心血管疾患のリスクが低く、軽度の高血圧(140/90~159/99mmHg)の治療には議論の余地があります。軽度の高血圧でも本当に薬による治療は必要でしょうか?

今回の研究では、軽度の高血圧と心血管疾患の低リスク患者の降圧薬治療と全死因死亡率、心血管疾患、有害事象との関連を調べました。

対象となる患者は、軽度高血圧(12ヶ月以内に140/90~159/99mmHgの血圧が連続3回記録したものとして定義される)および低心血管疾患リスク(心血管疾患、左室肥大、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、または早期心疾患の家族歴のある人を除外することによって定義される)の人、38,286人です。

平均5.8年追跡しました。治療開始前の平均の血圧は146/89mmHgでした。結果は下のようです。(図は原文より)

上の図でAは全原因死亡、Bは心血管疾患、Cは心筋梗塞、Dは脳卒中です。黄色い線が降圧薬での治療群、黒い線が治療無し群です。どの項目も治療群と治療無し群で差はありません。

上の図は副作用などの有害事象を示しており、Aは低血圧、Bは失神、Cは急性腎障害、Dは電解質異常です。どれも治療群の方が有意に有害事象が多くなっています。ただNNH(有害必要数:有害事象を1人引き起こすのに何人治療が必要かという数です。NNHが小さいほど有害事象が起きやすいということです。)を見てみると、電解質異常は5年でNNH=580、10年で111、急性腎障害は5年で467、10年で91とかなり低いです。

低血圧のNNHは5年で219、10年で41、失神は5年で135、10年で35と10年だと比較的高い値になります。

このように降圧薬治療が、軽度の高血圧を有する低リスクの患者の死亡率や心血管疾患の罹患率の低下と関連しているという証拠は認められません。確かにNNHはそれほど高いものではないので、ほとんど気にしなくてもいいのかもしれませんが、薬による利益が無いのに、有害なリスクは多少は存在するのです。

有害事象の中で最も多く認められたのは失神です。これは「高齢者は血圧を下げすぎてはいけない! その3 転倒と失神のリスク」で書いたことに一致します。

高齢になると起立性低血圧を起こしやすくなったり、動脈硬化が進んで、少し血圧を下げるだけで十分な脳の血流を保てなくなる可能性があるのです。それが認知症にも結び付いていると考えられます。(「食事を変えれば認知症を逆転できる 認知症逆転プロジェクトその1」参照)

これでもなお、軽度の高血圧の人にも一律に降圧薬が必要でしょうか?糖質制限をするだけでもかなり血圧が下がる人が多いので、まずは食事を変えることでしょう。

「Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension」

「軽度の高血圧の低リスク患者における降圧薬治療の利益と害」(原文はここ

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