以前の記事「アメリカの新しい血圧の指針 クレイジー!」で書きましたが、アメリカの新しい血圧のガイドラインでは、血圧が130/80以上は高血圧としています。
また、2018年8月発表の欧州高血圧学会(ESH)/欧州心臓病学会(ESC)高血圧ガイドラインでは、一般成人(65歳未満)の基準値は140/90mmHg以上とされたものの、降圧目標は120~130/70~80mmHg未満として、目標値を厳格化する形をとりました。
それに追随するように日本のガイドラインも目標値を低下させようとしています。日本高血圧学会総会で次のような提案がされたそうです。
「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」の草案
・至適血圧 120/80mmHg未満→正常血圧 120/80mmHg未満
・正常血圧 120~129/80~84mmHg→正常高値血圧 120~129/80mmHg未満
・正常高値血圧 130~139/85~89mmHg→高値血圧 130~139/80~89mmHg
現在では、65~74歳では140/90mmHg未満、75歳以上では150/90mmHg未満(忍容性があれば140/90mmHg未満)が推奨されていますが、今回のガイドラインでは降圧目標については、75歳未満の一般成人では、130/80mmHg未満(診察室血圧)、125/75mmHg未満(家庭血圧)とそれぞれ10mmHgずつ引き下げる方向で進められているそうです。
また、糖尿病、蛋白尿陽性の慢性腎臓病、安定型の冠動脈疾患といった合併症のある患者については同じく診察室血圧で130/80mmHg未満、蛋白尿陰性の慢性腎臓病、脳卒中既往、75歳以上の高齢者の患者については140/90mmHg未満とすることが草案では示されました。
アメリカのガイドラインの元になった研究で、血圧を140mmHg未満にする標準治療と120mmHg未満にする集中的治療では死亡率が1.2%低下したのですが、逆に言えばたった1.2%です。NNTで考えれば83です。そして、治療に要する薬の数は以下のようです。(表は原文より改変)
薬の数 | 集中的治療 | 標準治療 |
平均 | 2.7 | 1.8 |
0 | 2.7% | 11.3% |
1 | 10.5% | 31.1% |
2 | 30.5% | 33.3% |
3 | 31.8% | 17.2% |
4種類以上 | 24.3% | 6.9% |
血圧を120未満にするためにはほとんどの人は2種類以上の薬を必要とし、4分の1近い人では4種類以上の薬を飲まなければなりません。製薬会社も病院もニンマリです。しかし、種類が増えればその分副作用も多くなります。
実際に研究では、標準的な治療と比べて血圧をもっと下げようとすると、思わぬ低血圧、失神、電解質異常の発生が多くなり、さらに急性腎機能障害や急性腎不全のリスクは3倍以上になります。草案で、「糖尿病、蛋白尿陽性の慢性腎臓病のある患者については130/80mmHg未満」としていますが、血圧低下はさらに腎機能悪化につながる可能性があり、私は推奨できません。
また、現在75歳以上では150/90mmHg未満を推奨していますが、実際にはもっと低下している人も多く、以前の記事「高齢者は血圧を下げすぎてはいけない! その1」「その2」「その3」で書いたように有害なことが起きています。
上の表で標準治療で11.3%の人が治療薬が0です。薬に頼らずに糖質制限をするとかなりの高血圧の人の血圧が低下します。糖質過剰摂取、特に果糖は血圧を上昇させると考えられています。
血圧を下げるために3~4種類もの血圧の薬を飲む前に、糖質制限をしてみる価値は十分にあります。血圧を下げるために必要なのは塩分制限でも薬でもなく、まずは糖質制限です。
「A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control」
「集中的な血圧コントロールと標準的な血圧コントロールのランダム化試験」(原文はここ)