日本人の食事摂取基準(2020版)(案)を読んでがっかり その4 脂質とコレステロール

「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書(案)では脂質に関してどのようになっているでしょうか?

「目標量の上限は、日本人の脂質及び飽和脂肪酸摂取量の特徴に基づき、飽和脂肪酸の目標量の上限(7%エネルギー。後述する)を超えないと期待される脂質摂取量の上限として 30%エネルギーした。」

2015年版では、糖質制限に関する記述があり、少し期待を持たせながら結局は脂質の上限は30%でした。今回は、前回よりも後退し、糖質制限の記述は全く無くなり、改悪とも思えます。飽和脂肪酸の記述は、

「高 LDL コレステロール血症の主なリスク要因の一つであり、心筋梗塞をはじめとする循環器疾患のリスク要因でもある。また、重要なエネルギー源の一つであるために肥満のリスク要因としても忘れてはならない。」

と書かれています。「その1」でも書いたように、高LDLコレステロール血症は本当に循環器疾患のリスク因子でしょうか?飽和脂肪酸は本当に悪者でしょうか?以前の記事「簡単に言えば、脂肪は「善」、糖質(炭水化物)は「悪」」で書いたように、PURE研究の結論では、「全脂肪および脂肪の各タイプの摂取は、総死亡率のリスクが低いことと関連していました。最高5 分位では最低5分位に比べてリスクは、全脂肪 0.77 、飽和脂肪0.86、一価不飽和脂肪 0.81、多価不飽和脂肪0.80でした。また、飽和脂肪摂取量が高いほど脳卒中のリスクが0.79と低いことが示されました。総脂肪および飽和および不飽和脂肪は、心筋梗塞または心臓血管疾患死亡のリスクと有意に関連していませんでした。」となっています。

今回の報告書案でも、様々な論文が採用されていますが、飽和脂肪酸と心血管疾患の関連性がない、という研究についてもいくつか触れています。しかし、恐らくは「結論ありき」でしょう。どのような論文を重要視するかにより結論を変えることは簡単です。だからせめて、「わからない」とか、タンパク質のように「上限を設定することはできない」として欲しかったですね。

文章中には次のようにも書かれています。

「以上より、循環器疾患の発症及び死亡に直結する影響は十分ではないものの、その重要な危険因子の一つである血中総コレステロール及び LDL コレステロールへの影響は成人、小児ともに明らかであり、目標量を設定すべきであると考えられる。
しかしながら、両者の間に明確な閾値の存在を示した研究は乏しく、飽和脂肪酸摂取量をどの程度に留めるのが好ましいかを決める科学的根拠は十分ではない。」

どっちやねん?コレステロールの影響は明らかでしょうか?飽和脂肪酸の摂取量について科学的根拠は十分ではない、と認めるなら、設定しないことが最善です。「脂肪悪玉説」「コレステロール悪玉説」から抜け出ることは今回もできないようです。

そして目標量の設定の仕方は次のようです。

「成人・高齢者(目標量)
上記で述べたように、既存の研究成果を基に目標量(上限)を算定することは困難である。そこで、日本人が現在摂取している飽和脂肪酸量を測定し、その中央値をもって目標量(上限)とすることにした。最近の調査で得られた摂取量(中央値)を基に、活用の利便性を考慮し、目標量(上限)を 7%エネルギーとした。」

つまり、現在の国民のみなさんの摂取量の中央値を参考にしただけです。根拠はありません!またもや根拠がないのに上限を設定されてしまうようです。現在の摂取量は前回のエビデンスの全くない目標値により、推奨されたものです。そのような根拠のない摂取量を現在の日本人が摂取させられているのは、このような摂取基準を医療や教育などの現場で採用してしまっているからです。全くあきれる決め方です。

一方トランス脂肪酸に関しては、

「トランス脂肪酸が冠動脈疾患の明らかな危険因子の一つであるものの、その摂取量及びその期待健康影響が飽和脂肪酸に比べてかなり小さいと考えられること、日本人における摂取量の実態がいまだ十分には進んでいないことなどを勘案して、目標量は策定しないこととした。ただし、これはトランス脂肪酸の摂取量を現状のままに留めてよいという意味ではない。日本人の大多数は、トランス脂肪酸に関する WHO の目標を下回っており、通常の食生活ではトランス脂肪酸の
摂取による健康への影響は小さいと考えられているものの、様々な努力によって(飽和脂肪酸に置き換えるのではなく)平均摂取量を更に少なくし、また、多量摂取者の割合を更に少なくするための具体的な対策が望まれる。」

トランス脂肪酸よりも飽和脂肪酸の方が悪い!と言っています。トランス脂肪酸にちょっと甘すぎるような気がします。目標はゼロでしょう。

コレステロールに関しては、その1でも書いたように

「コレステロール摂取量が増えれば血中コレステロールは増加する。」

という、時代遅れの表現がされています。そして、卵との関連についてはよくわからない記述が認められます。

「個人や集団ごとに異なるものの、コレステロール摂取源の主なものは卵であり、そのために、疫学研究ではコレステロール摂取量の代わりに卵摂取量や卵摂取頻度を用いた研究も多い。このような方法を用いたコホート研究の結果をまとめたメタ・アナリシスは卵摂取源と心筋梗塞発症率との間に有意な関連は認められなかったと報告している 。我が国で行われたコホート研究でも、ほぼ同様に、虚血性心疾患や脳卒中死亡率、心筋梗塞発症率との間に有意な関連は認められていない 。しかしながら、少なくとも我が国ではコレステロール摂取又は卵摂取が健康に好ましくないという情報が広く流布していたため、因果の逆転が生じた可能性を否定できないと考えられる。また、上記のメタ・アナリシスでは、習慣的な卵摂取頻度が 1.5 個/日を超えていた集団はわずか 1 つであり、そのために、この摂取頻度以上の範囲についての結果の信頼度は低いものと考えられる。」

メタアナリシスでは卵と心筋梗塞の関連は認められない、わが国でも同様の結果である。しかし、これは卵が健康に好ましくないという情報により因果の逆転が生じた可能性がある?おかしくないでしょうか?どのような逆転ですか?

現在得られている研究結果では関連が認められないのです。そのままで良いはずなのに、とにかく否定ありきです。

ただ、コレステロールの摂取量上限は、

「少なくとも循環器疾患予防(発症予防)の観点からは目標量(上限)を設けるのは難しいと考え、設定しないこととした。しかしながら、これは許容されるコレステロール摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである。」

と渋々、上限量を設定しないこととしています。しかし、その一方で、

「脂質異常症を有する者及びそのハイリスク者においては、そのリスクをできるだけ軽減する必要がある。上述のように、コレステロール摂取量の変化と血中コレステロールの変化は有意な相関を示すことから、望ましい摂取量の上限を決める必要があると考えられる。日本動脈硬化学会による「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版」では、冠動脈疾患のリスクに応じて LDL コレステロールの管理目標値が定められており、高 LDL コレステロール血症患者ではコレステロ
ールの摂取を200 mg/日未満とすることによりLDLコレステロール低下効果が期待できるとしている 。」

と書かれており、やはり、コレステロールの摂取量は減らすべきだという立場です。

やれやれ。この基準を検討している方たちは、全く基準を変えようという意思が感じられません。こんなに肥満や糖尿病、がんなど様々な病気が増加しているにもかかわらずです。

元号は平成から「令和」に変わります。しかし、非常に重要である日本人の食事摂取基準は全くと言って良いほど変化していません。日本人の健康に関しては「令和」は暗いは時代になるかもしれません。