手術後「隠れ」脳梗塞

手術と麻酔の技術の進歩により、高齢の患者を手術できるようになりました。手術の利点にもかかわらず、やはりリスクを理解する必要もあります。

手術以外では、「隠れ」脳梗塞は顕性(症状のある)脳卒中よりも一般的であり、認知機能低下と関連しています。手術の場面では、顕性脳卒中は非心臓手術後の成人の1%未満で発生すると言われています。手術中や手術後の隠れ脳梗塞についてはほとんどわかっていません。

今回の研究では手術後の隠れ脳梗塞(脳梗塞の臨床症状がない患者の非心臓手術後にMRIで検出された急性脳梗塞)と手術後1年の認知低下との関係を調べています。

65歳以上の患者1,114人が参加しました。すべての患者は、手術後9日以内にMRIを受けました。さらに手術後1年間、患者を追跡して認知能力を評価しました。(図は原文より)

上の図は手術後の隠れ脳梗塞のMRI画像の一例です。矢印が脳梗塞を示しています。

7%に手術後の隠れ脳梗塞が見つかりました。非心臓手術を受けた65歳以上の14人に1人が隠れ脳梗塞を起こしていると考えられます。手術の種類はほとんど関係しませんでした。手術後1年で認知機能低下が生じたのは、隠れ脳梗塞を認めた人の42%で、隠れ脳梗塞を認めなかった人でも29%でした。ということは、当然手術による隠れ脳梗塞だけが認知機能低下の要因ではないことになります。しかし、手術後の隠れ脳梗塞は手術後1年後での認知機能低下を約2倍(オッズ比1.98)起こしやすくします。

手術後の隠れ脳梗塞は、手術後最初の3日間のせん妄のリスク増加(ハザード比(HR ):2.24)、1年のフォローアップ時の一過性脳虚血発作または顕性脳卒中の増加(HR:4.13)と関連していました。もちろん全体的なリスクは低いですが。絶対リスクは増加は10%前後です。

上の図は横軸が手術後の日数、縦軸が脳卒中や一過性脳虚血発作のリスクを示しています。青いグラフは隠れ脳梗塞のある人、赤いグラフは隠れ脳梗塞を認めない人です。大きく隠れ脳梗塞の人のリスクが上回っているのがわかります。

症状を起こさない隠れ脳梗塞は、非心臓手術を受けた65歳以上の14人に1人に起きているというのはかなりの高い割合でしょう。もちろんこれは年齢だけの問題ではないでしょう。その人の背景にある体の状態が最も関係していると考えます。つまり、血栓ができやすい、またはできた血栓が溶けにくい状態です。

手術により、体は凝固能が亢進します。血栓ができやすくなるのです。顕性の脳卒中や心筋梗塞は侵襲の大きな手術では非常にリスクが高くなります。(それについては次回以降に)

血栓ができやすくなるかどうかの素因は血管のグリコカリックスの状態、血糖値、炎症、自由な鉄の量などが関連していると思われます。(「赤血球の形状の変化と病気 その3」など参照)ほとんどが糖質過剰摂取状態で起きやすいとも考えられます。また、輸血も関連するでしょう。

もちろん手術を受けたくて受ける人はいません。いざという時のために、体の中の血栓ができやすい素因を作らないことが重要でしょう。

「Perioperative covert stroke in patients undergoing non-cardiac surgery (NeuroVISION): a prospective cohort study」

「非心臓手術(NeuroVISION)を受けている患者における周術期の隠れた脳卒中:前向きコホート研究」(原文はここ

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