男性型脱毛症(AGA)および前立腺肥大の薬フィナステリドには、ポストフィナステリド症候群という深刻な副作用が起こる可能性があります。
薬を中止した後も副作用が持続する状態を指します。この症候群の症状は、、「その1」で書いたような、うつ病や不安といった心理的な副作用や、認知機能の問題(次回以降に取り上げます)や、今回の記事で書く性機能障害などです。もちろん、この薬には服用中にもこれらの副作用はありますが、止めてもなかなか元に戻らないのが非常に重大です。
例えば、ある研究では、AGA治療のために、5α還元酵素阻害剤(5ARI)(フィナステリドおよびデュタステリド)の使用歴のある25人と対照群28人を比較しました。
国際勃起機能指数(IIEF)は、次のように評価されます。(図はイギリス泌尿器科外科医協会のサイトより)勃起機能(EF)、オルガスム機能(OF)、性欲(SD)、性交満足度(IS)、総合満足度(OS)です。性機能障害の患者のスコアは、コントロールの半分前後です。
今回の参加者の5ARI群は以下のようです。(図は原文より)
性欲は正常なのに、勃起機能や性交満足度は低くなっています。ただ、今回の研究の5ARI群は対照群よりスコアが高くなりました。(理由はわかりません)
5ARI群の25人中24人(96%)が陰茎のドップラー超音波検査を受けました。 5ARI群の17人(68%)に陰茎ドップラー超音波で何らかの血管異常が認められました。 24人中8人(32%)に動脈不全があり、25人中5人(20%)がEDの可能性がある「グレーゾーン」に分類され、24人中4人(16%)の患者に静脈漏出が認められました。陰茎血管系の変化が持続する可能性があるようです。
25人中9人(36%)が精巣下降の増加を報告し、同数の人が陰茎長の減少を報告しました。25人中15人(60%)がフィナステリド投与開始後に性器の痛みや痺れを何らかの形で経験したと報告しました。合計で、25人中18人(72%)が少なくとも1つの性器に関する症状を報告しました。
また、5ARI群では、残尿感、頻尿、尿勢低下、全般的な生活の質で有意に低いスコアを示しました。
この研究では、参加者の2人(8%)が研究中または研究後に自殺しました。
他の研究を見てみましょう。(ここ参照、図もここより)AGA治療でフィナステリド投与に伴う持続的な性機能障害を有する人54人が対象です。
上の図のように、黒いバーで示すようにフィナステリド投与前には、ASEX(アリゾナ性経験尺度)スコアというスコア(詳細は省略)では平均7.2でした。 フィナステリド中止後は22.2に増加し、9~16か月(平均14か月)後の再評価でも20.8と高いスコアでした。再評価時点では、被験者の96%に持続的な性機能障害が継続していました。フィナステリドの服用を中止したにもかかわらず、持続的な性機能障害(3か月以上)を発現した男性のほとんどにおいて、性機能障害は数か月から数年にわたって続きました。
もう一つの研究を見てみましょう。(ここ参照、表はここより改変)男性型脱毛症に対してフィナステリドを服用していた、一般的に健康な、ポストフィナステリド症候群を呈している男性131人 (平均年齢24歳) が対象です。少なくとも薬を中止してから3か月後の症状を示します。
性欲 | 人数(%) |
性欲減退 | 121 (93) |
性欲の完全な喪失 | 82 (63) |
間欠性勃起不全 | 108 (83) |
完全なインポテンス | 52 (40) |
朝勃ちや自然勃起の喪失 | 116 (89) |
ほとんどの場合、オーガズムに達しない | 52 (40) |
性的無快感症、快いオーガズムの喪失 | 91 (70) |
陰茎と精巣の障害 | |
精液量と精力の低下 | 107 (82) |
陰茎の萎縮、感覚の変化 | 103 (79) |
陰嚢の萎縮としびれ | 64 (51) |
ペロニー病 | 26 (20) |
ペロニー病なんていう聞きなれない病気が出てきました。ペロニー病は陰茎硬化症とも言われ、線維組織が厚くなった状態で、それにより陰茎が収縮して変形し、勃起時の形状が歪み、性機能障害を引き起こすこともあります。(ここ参照)
いずれにしても、様々な性機能の症状を起こしています。
さらに、問題なのは、回答者の多くは、自殺願望があり、希望を失ったと感じたと回答しました。症状が現れた後に受診した医療については、参加者は最初に泌尿器科医 ( 38%) またはかかりつけ医もしくは内科医 ( 62%) を受診したと述べていますが、多くの回答者が、医師がフィナステリドと症状の関連性を認識していなかったと回答しました。回答者によると、医師は一般的に身体症状を心理的な性質のものとみなし、精神科医の診察を受けるよう勧めていたとのことです( 69%)。ありがちですね。困ったら、すぐに精神科を勧める医師多いですよね。
もう一つ行きましょう。(ここ参照)AGA治療にフィナステリドを使用し、投薬中止後6か月以上持続する副作用を呈した男性79人(22~50歳、平均年齢33.4歳)が対象です。患者は薬の使用中止後180~5057日(44.1か月、約4年)に登録されました。
性機能の症状は以下のようです。
性症状 | 人数(%) |
陰茎の感度低下 | 69 (87.3) |
射精力の低下 | 65 (82.3) |
陰茎温度の低下 | 62 (78.5) |
射精量の減少 | 58 (73.4) |
陰茎の弛緩/しわ | 54 (68.4) |
陰嚢の膨満感の喪失 | 54 (68.4) |
陰茎の大きさの縮小 | 52 (65.8) |
陰嚢の感覚の喪失 | 49 (62.0) |
会陰部の緊張 | 36 (45.6) |
早漏 | 25 (31.6) |
かなり深刻ですよね。ASEXスコアでは、各項目のスコア5と6は、薬を投与する前にはどの人からも言及されていなかったのですが。薬を使用した後、性欲に関して、スコア5(非常に弱い)+6(なし)が参加者の69.6%によって示されました。性的興奮スコア5(非常に困難)+6(全くない)は3.9%、勃起の獲得と維持スコア5(非常に困難)+6(全くない)は44.3%、オーガズム到達の容易さスコア5(非常に困難)+6(全くない)は19.0%、オーガズム満足度スコア5(極めて不満足)+6(全くオーガズムに達しない)は20.3%でした。
非性的な症状で最も頻繁に報告されたのは、人生の喜びや感情の減退(無快感症)(75.9%)、精神集中力の欠如(72.2%)、筋緊張/筋量の減少(51.9%)でした。悲惨ですね。
AGAの治療は比較的若年の成人が中心でしょう。そのような年齢層は、性的に活発か活発とまではいかないまでも、十分に現役世代です。もしかしたら、外見的にも髪の毛を増やして、これから女性との交際や結婚を考えて治療している人もいるかもしれません。そうだとしたら、性機能障害は非常に深刻な問題でしょう。この薬を使って失うものがあまりにも大きいと思います。
そして、中止後にすぐに改善されれば、まだいいのですが、中止して数年でも戻らない可能性すらあるのです。どうしたらいいのでしょう?一番は最初から使わないことです。
それにしても、こんな薬が安易に処方されても良いのでしょうか?
「Penile vascular abnormalities in young men with persistent side effects after finasteride use for the treatment of androgenic alopecia」
「男性型脱毛症の治療にフィナステリドを使用した後に持続的な副作用を呈した若年男性の陰茎血管異常」(原文はここ)