LDLの中でも小さな危険なLDLであるsdLDLについてコメントをいただきました。
こんにちは
いつも先生のブログを楽しみにしております。70才女性です。
私は糖尿病発覚1年後の2015年から始めた糖質制限で、A1cは6.2程度となりました。 糖質制限前は基準値だったコレステロールは、糖質制限開始後にはLDL250〜300、HDL130〜150とどんどん上昇したままです。中性脂肪は30〜40(因みに体脂肪率16.5%)と低値安定
先生のブログを頼りに、運動をよくする糖質制限者にはあり得る事と楽観はしておりましたが、保健所も煩く問い合わせて来ますし、自分でも知りたいと思い、本当に怖いと言うsdLDLを検査して貰いました。すると無い筈と思っていた数値は88mg\ DLと要治療値でした。そこから1年間スタチンを受け入れましたが、
たいした数値の変化は無く、反対にヘモグロビンa1cが0.3上昇。スタチン服用中は胃腸の調子が悪かったきがします。
そこで、悩ましいのが変わらず高値のsd LDLです。しかし現在もとても元気、週12時間の武道やジムトレーニングに励んでいます。数値ばかり気にして薬飲むより、悪玉と言われているSDLDLさえ私にとっては必要な小型タイプなのかも知れないと開き直る事にしました。ただ、今年の検診から頚動脈プラークのエコー検査を追加オーダーしたいと考えています。
SDLDLについてのお考えを伺えれば幸いです。よろしくお願いします。
sdLDLを測定して不安になっている方は意外と多いのかもしれません。まず、勘違いされないように最初に書いておきますが、中性脂肪値が非常に低く、HDLコレステロールが非常に高くてもsdLDLは皆無、ゼロでは決してないと思います。私の場合ではsdLDLコレステロールは12mg/dL、全体の4%でした。(「私の小さな危険なLDLはどれくらいあるか?」参照)LDLの大半がふわふわした大きなLDLであるだけで、小さいsdLDLが0%というわけではありません。
もう一つ、sdLDLは小さいから血管壁を通り抜けるわけではありません。LDLとsdLDLの大きさの差はせいぜい数nmというレベルです。sdLDLはマーカーであり、恐らくそのものが危険ではなく、それが高い値または高い割合の状態を作り出す体の異常がアテロームを作り出すと考えています。普通のLDLもsdLDLも血管壁に隙間が開いていて、そこを自由に通り抜けるわけではないでしょう。そんな隙間があったら血液自体が血管外に漏れてしまいます。普通に考えれば受容体を介して血管内から入り込んでいくのだと思います。
さて現在のところsdLDLの測定法はいろいろありますが、スタンダードな測定法は決められていません。測定法が違えば、数値も異なります。まだまだちゃんとしたコンセンサスがないのが現状だと思います。そんな中今現在一番行われているのは、デンカ社のsdLDL検査だと思います。これはLDLの大きさを測定しているわけではなく、比重を測定しているはずです。小さなLDLであるsdLDLだけでなく、結構な割合のLDLを含んでしまっていると考えられます。これはsdLDLの定義が定まっていないということが一番の問題ではないかと思います。sdLDLはsmall(小さい)dense(高密度)のLDLで、小さいのをsdLDLとするのか、高密度のものをsdLDLとするのか、という違いがあると言えます。ゴールドスタンダードが決められないまま、測定だけが行われていて、それをどう扱うかも一致してはいない状態です。
現在デンカ社はsdLDL測定に力を入れているのか、多くの研究に資金を出しています。自分の企業の測定法がゴールドスタンダードになるためにエビデンス作りをしているのでしょう。そして、学会のお偉い方などがセールスマンとなり、ガイドラインにこの測定法が最も一般的な方法で、信頼できると載ってしまえば、非常に企業の利益は上がるのではないでしょうか?
もちろん、このような考えは私の推測にすぎませんが、そんなに間違ってはいないと思います。そんな企業や医療側の思惑を知らないまま、一般の人は検査を受けてしまいます。しかし、それでも全く意味のない検査ではないので、ちょっといくつかのな論文を見てみましょう。
まずは、sdLDLとそれ以外の測定値との関連を見てみましょう。下の図の横軸はsdLDLコレステロール値、縦軸は(a)から順に、総コレステロール、直接測定LDLコレステロール、計算法のLDLコレステロール、大きな比重の軽いLDLコレステロール、LDLの中性脂肪、VLDLコレステロール、非HDLコレステロール、HDLコレステロール、HDL3コレステロール、HDL2コレステロール、中性脂肪、アディポネクチン、Lp(a)、CRPです。
一般的に測定しないものは置いといて、パッと見てsdLDLはLDLや中性脂肪、VLDLなどとは比例関係、HDLとは反比例の関係があると思います。実は大きな比重の軽いLDLコレステロール(質の良いLDL)さえsdLDLと比例関係にあります。しかし、LDL以外どれもかなりのばらつきです。では、コメントをいただいた女性のLDLを300、HDLを150、中性脂肪を30と考えて、sdLDL88との交点を見てください。完全に外れ値です。外れ値とは他の値から大きく外れた値で、一般的な人から考えたらまずはあり得ない数値なのです。さて、ここで一般的な人というのは当然糖質過剰摂取をしている人です。そうすると、糖質過剰摂取をしている人のデータに糖質制限の人のデータを当てはめても何もわからないということになります。
私もいくつもの記事で糖質過剰摂取者の研究を取り上げて、それを糖質制限に当てはめることはやってしまっています。しかし、それは糖質過剰摂取の中でも私が考える中で、恐らく健康的、有益だと思うデータに対して、糖質制限をすれば簡単にその数値を達成することができるという意味で当てはめています。
また、別の研究では、中性脂肪が豊富なリポタンパク質と、sdLDLがほとんどイコールのリスクになることを示しています。(図はこの論文より)
上の図は対照群のサブコホートと個々の心血管転帰における被験者の中性脂肪の豊富なリポタンパク質のコレステロール(いわゆるレムナントコレステロール)(左)およびsdLDLコレステロール (右)のベースライン濃度です。。IS:虚血性脳卒中、MI:心筋梗塞、PAD:末梢動脈疾患です。中性脂肪の豊富なリポタンパク質コレステロールおよびsdLDLコレステロールはサブコホートと比較して各症例群で有意に高くなっています。心筋梗塞のsdLDLは対照群より10以上高いですが、虚血性脳卒中や末梢動脈疾患では10未満の違いしかありません。これが本当に意味のある違いなのかは疑問です。
上の図は中性脂肪の豊富なリポタンパク質コレステロールおよびsdLDLコレステロールを4つのグループに分けてその一番大きなグループと一番小さなグループのリスク比を示しています。一番上から心血管疾患全体、冠動脈疾患および脳血管疾患、心筋梗塞、末梢動脈疾患、虚血性脳卒中です。中性脂肪の豊富なリポタンパク質コレステロールおよびsdLDLコレステロールでは同じような図となっています。
高中性脂肪血症は主にVLDL増加によるものです。そして、肝臓では大型で中性脂肪に富むVLDL1と小型のVDLD2が産生、分泌されますが、インスリン抵抗性ではVLDL1の分泌のみが促進します。さらにApoCⅢはインスリン抵抗性や高血糖で増加し、VLDLの異化障害を増加させます。VLDL1からsdLDLが作られます。だから、中性脂肪が豊富なリポタンパク質と、sdLDLがリスクとしてほとんどイコールになると考えられます。
逆に考えると中性脂肪値が十分に低い場合sdLDLは低くなければおかしいのです。そうすると、このデンカ社の検査の精度が本当に臨床的に評価するのに値するのか疑問を持ってしまうわけです。
sdLDLの本当の意味での評価は難しいでしょう。もちろん、sdLDLは恐らく酸化、糖化しやすく、それが多い状態では炎症が起きやすかったり、血栓ができやすかったりアテロームの要素になったりしやすいでしょう。
sdLDLを測定するのはまだまだ一般的ではありません。だからこそデンカ社が狙っているのでしょう。通常の測定値でおおよその予測をするのであれば、以前の記事「小さな危険なLDLの割合を推測するには?」が参考になるかもしれません。
中性脂肪が70以下であれば90.9%が「主に」大きな粒子のLDLを持っていると考えられます。一方、中性脂肪が200を超えるようだと、84.8%が「主に」sdLDLを持っていることになります。でも何パーセントがsdLDLかわかりません。LDLの粒子は大きいか小さいかの2択ではなく、グラデーションになっていて、様々なサイズが共存しています。
いずれにしても、様々な研究から得られたエビデンスは糖質制限についての研究以外はすべて糖質過剰摂取状態でのデータです。また様々な検査値の基準値、正常値はすべて糖質過剰摂取者の基準値、正常値です。糖質制限の基準値はまだわかっていませんが、非常に多くの人が低中性脂肪、高HDLコレステロールです。(「驚きの結果!糖質制限におけるHDLコレステロールと中性脂肪 みなさんの血液データから その2」「みなさんの血液検査データ2020 集計 その4 HDLコレステロール」「その5 中性脂肪」「その6 中性脂肪/HDLコレステロール比」参照)LDLは気になるかもしれませんし、その中でもsdLDLはもっと気になるかもしれません。
医療の世界はいまだに糖質過剰摂取が標準であり、糖質制限をすると何がどう変わるか、自分で糖質制限をしている人以外はほとんどの医師は知りません。
測定してもその評価も難しく、どうすればいいのかわからない検査は、ただ不安になるだけで何も有益なことはないのではないでしょうか?
私はスタチンは全く不要だと考えます。というより糖質制限にスタチンは危険だと思います。(「糖質制限にスタチンの併用は危険ではないか?」参照)そして、現在のデンカ社のsdLDL検査も糖質制限をしている状態ではあまり意味がないと思います。
答えになりましたでしょうか?
「Small Dense Low-Density Lipoprotein Cholesterol and Carotid Intimal Medial Thickness Progression」
「小型高密度LDLコレステロールおよび頸動脈内膜中膜複合体厚の進行」(原文はここ)
丁寧なお応えやデータをお示し下さいまして舞い上がる程嬉しく、勇気をいただきました。私が受けた検査は、2回共株ビーエムエルという所のものでした。
今後とも先生のブログや書籍を頼りに糖質制限者として生きていきます。
ありがとうございました。
医療機関での検査は客観的で正確と、
一般人は判断してしまいますが。
検査方法が確立されていない
中では数値よりも、他の検査数値
からの推測値の方が実態を表す場合
がある、という事なのでしょうか。
ビーガンに興味があり、調べてますが、
糖質制限とは相容れない感があり、
悩んでおります。
かさん、コメントありがとうございます。
今日の記事にさせていただきました。
シミズ先生、こんばんは
今回のsdLDLの記事…
まさに毎年2月に受けている健康診断のオプションで、sdLDLの測定を付けて結果、ショックを受けました。
この検査の方法も仕組みも知らずにただ興味本位でした。
大幅に基準値を超えてしまい、糖質制限をしておりますので理解のありそうな?医師を訪ねましたがスタチンを出されそうでしたのでゼチーアで納得してもらいました。
効かないよ、と言われましたが、仕方ないので貰ってきました。
数値に一喜一憂、糖質制限を始めてからLDLが爆上がりしたまま、でもHDLは70くらいまで上がり、TGは30台まで下がり…
だったら糖質制限やめれば?
なんて色んな人に言われそうですが、開始から5年ほど…
こんな快適な体調はこれまでありませんでした。
酷かった花粉症も治ってしまったようだし、風邪もずっとひいていない、口内炎は全く出来なくなるし、長い時間眠らなくても良くなったし。午後の仕事は捗るし。
ただ、私の様な一般人は、何かで病院に行けば必ずコレステロールは指摘されます。
薬を拒否すれば医師を敵に回すことになりますのでそれが怖くて言いなりになるしかない状況が生まれてしまうのが現実でしょうね。
もう、行ける病院がなくなりそうです(笑)
そういえば、先生のブログ、上の画面の方にいつも広告がでますが、悪玉コレステロールを下げるには…って。
サプリか何かの広告ですかね。
開いておりませんが。
みみさん、コメントありがとうございます。
sdLDLがオプションになって、気になる人はこの検査を受けている人も多いでしょう。
LDLもsdLDLも企業との癒着が強すぎる気がします。
ゼチーア効きますよね。糖質制限をしている人でLDLが大きく増加した場合のゼチーアは著効することが多いです。
ただ、LDLを下げる意味があるのかどうかは疑問です。
LDL高い方が長生きですし、感染にも強いので、下げなくても良いと思います。
先生、ご返信ありがとうございます。
確かに、糖質制限を始めてから(LDL-Cが上がってから?)なんだか感染症にめっぽう強くなった気がしていますね。
職場でもほとんどがあの感染症に感染しましたが、私は1人元気で過ごしました。
たまたまかもしれませんが。