ブログの読者の方からコメントをいただきました。
清水先生、こんばんは。
糖質を制限することで、インスリンの分泌の必要がないため、すい臓の負担が少ないことはわかります。
一方で、脂肪の摂取量が多くなると、すい臓や胆のうへの負担が大きくなるように思います。しかし、その負担は医学的には問題にはなっていないように思います。
糖質と脂肪とで、このような違いが生じるのはなぜなのでしょうか?
以前の記事「空腹時高血糖はすい臓がんの発生率を増加させる」に対するコメントです。糖質制限では脂質摂取量が増加します。そのことによりすい臓や胆嚢の負担は増加しないのか?という質問です。
質問の意図を正確に捉えていないかもしれませんが、私なりの解釈で考えていきます。まず今回はすい臓です。
すい臓から分泌される膵液の主な消化酵素は、タンパク質分解酵素であるトリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、糖質分解酵素である膵アミラーゼ、脂肪分解酵素である膵リパーゼなどです。つまり、すい臓は何を食べても消化酵素を分泌しています。脂質が増加したことで、すい臓の負担が増加するかどうかはわかりません。脂肪分解酵素の通常の分泌能力が良くわからないからです。その能力を超えているのであれば、負担になるのでしょう。
一方糖質過剰摂取は、すい臓のβ細胞のオーバーワークをもたらし、すい臓の負担が増加していると考えます。
一部の方は急性膵炎は高脂質食が原因ではないかと考えるかもしれません。しかし、急性膵炎の原因の多くはアルコール(約30%)と胆石(約40%)だと考えられています。下の表は急性膵炎の原因についてまとめたものです。(ここを参照)
原因 | 例 |
薬物 | ACE阻害薬,アスパラギナーゼ,アザチオプリン,2’,3′-ジデオキシイノシン,フロセミド,6-メルカプトプリン,ペンタミジン,サルファ剤,バルプロ酸 |
感染性 | コクサッキーB群ウイルス,サイトメガロウイルス,流行性耳下腺炎 |
遺伝性 | 嚢胞性線維症患者のごく一部など,多数の既知の遺伝子変異 |
機械的/器質的 | 胆石,ERCP,外傷,膵癌または膨大部領域癌,総胆管嚢腫,Oddi括約筋狭窄,分割膵 |
代謝性 | 高トリグリセリド血症,高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症を含む),脂質濃度高値と関連する エストロゲン使用 |
毒素 | アルコール,メタノール |
その他 | 喫煙,妊娠,腎移植後,低血圧またはアテローム塞栓症に起因する虚血,熱帯性膵炎 |
ただ、アルコールがどうして急性膵炎を起こすか、メカニズムははっきりとしていません。アルコールの分解産物がすい臓に悪さをしているのではないかと思います。
原因の中での高中性脂肪(トリグリセライド)血症は高脂肪食で起こるのではなく、糖質過剰摂取で起こります。
慢性膵炎の原因の約50%もアルコールだと考えられています。
ネズミさんの研究では高脂肪食が急性膵炎に関連しているという論文はいくつもあります。(例えばここ)
ご存知のように、人間とネズミでは食べるものが大きく違います。(「糖質制限の情報は何を信じたら良いの?」など参照)ネズミは高脂肪食で太りますが、人間は高糖質食で太ります。
人間で高脂肪食により急性膵炎が増加するという研究があれば教えてください。
よって、私は高脂肪食がすい臓の負担を増加させるとは思いません。糖質制限を行っている状態で、高脂肪食が医学的に問題になることもないでしょう。
では膵炎はアルコールの量でどの程度リスクが高くなるのでしょうか?(図は原文より)
上の図は横軸が1日のアルコール量です。1日96g以上となると、膵炎リスクは4倍以上です。
上の図は1日に何杯飲むかによるリスクです。4杯以上だと2.5倍以上と大きく膵炎リスクが上がるようです。
アルコールの飲み過ぎは気を付けましょう。
「Alcohol as a risk factor for pancreatitis. A systematic review and meta-analysis」
「膵炎の危険因子としてのアルコール。系統的レビューとメタ分析」(原文はここ)
清水先生、ありがとうございます。
負荷の過多により発生すると思われる急性膵炎の原因は、脂肪よりも中性脂肪増加に影響する糖質過剰だということがわかりました。
もし脂質摂取量が多く、脂肪分解酵素の通常の分泌能力を超えたとすれば、それはすい臓への負担が増えるというより、その場合は消化不良により下痢になってしまうように思いました。
一方、糖質過剰摂取は、糖尿病につながることが明らかで、これはすい臓のβ細胞の負担が増加しているためですね。
すい臓といっても、消化液の分泌とホルモンの分泌の機能があり、臓器の負担は異なるのですね。すい臓という臓器は奥が深いと思いました。