以前の記事「人工甘味料はブドウ糖に対する血糖値およびホルモン反応に影響を与えるかもしれない その1」では、肥満の人において、人工甘味料は生理的に活性を示し、ブドウ糖による反応を修飾し、血糖値を上げ、インスリン増加を招くことを書きました。
今回の研究では糖尿病や有意なインスリン抵抗性を有している人は除外され、正常体重の人と肥満の人(平均BMI37.7)で、75gの経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の前に水または人工甘味料のスクラロース60ml(48mg)を飲むか、5秒間スクラロースを口に含んで吐き出すかのどれかを行いました。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は左側が正常体重、右が肥満です。上から順にグルコース、インスリン、C-ペプチド、総グルコース出現率です。非常に見難いですが、○が水摂取、●がスクラロース摂取、緑がスクラロース吐き出しです。
スクラロースの摂取では両方の体重群でグルコースの増加分の曲線下面積が30%増加しました。グルコースのピークは、肥満群の方が正常体重群よりも低くなる傾向がありました。一方インスリンおよびCペプチドのピーク値、ならびに増加分の曲線下面積は、肥満の方が正常体重の人より有意に高くなりました。
水と比較して、スクラロース吐き出しでは、両方の体重群でOGTTの最初の1時間以内のインスリンを低下させました。
正常体重ではスクラロース摂取は、グルコース負荷後最初の40分間にインスリンを低下させましたが、肥満でのスクラロース摂取は、グルコース負荷後のスクラロース吐き出し(10分、30〜60分)および水の100〜140分と比較して、インスリンが有意に高くなりました。
正常体重 | 肥満 | |||||
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水 | スクラロース | 吐き出し | 水 | スクラロース | 吐き出し | |
ピークにおける増加分 | ||||||
グルコース(mmol/L) | 5.7±0.4 | 5.4±0.5 | 5.5±0.4 | 4.4±0.4 | 4.7±0.4 | 4.5±0.4 |
インスリン(pmol/L) | 683±130 | 548±91 | 590±115 | 1062±124 | 1193±171 | 1041±184 |
C-ペプチド(nmol/L) | 2.8±0.3 | 2.6±0.3 | 2.8±0.3 | 3.7±0.4 | 3.9±0.4 | 3.6±0.3 |
GIP(pmol/L) | 49.5±6.8 | 45.0±5.9 | 48.5±5.5 | 61.9±4.0 | 59.6±5.2 | 56.0±4.4 |
増加分曲線下面積 | ||||||
グルコース(mmol/L)・300分 | 470±56 | 560±66 | 491±60 | 380±55 | 455±48 | 455±59 |
インスリン(10 2 pmol / L)・300分 | 654±131 | 607±102 | 597±106 | 1195±177 | 1400±241 | 1282±257 |
C-ペプチド(nmol / L)・300分 | 375±40 | 394±43 | 375±45 | 502±54 | 565±47 | 541±43 |
GIP(10 2 pmol / L)・300分 | 67±11 | 62±10 | 64±7 | 79±6 | 74±5 | 72±7 |
グルコース動態 | ||||||
ピーク | ||||||
総グルコース出現率 (µmol / min) | 2274±147 | 2313±242 | 2071±253 | 2576±206 | 2672±198 | 2552±229 |
経口グルコース出現率(µmol / min) | 2565±109 | 2436±154 | 2482±203 | 3159±217 | 3169±225 | 3094±244 |
AUC | ||||||
総グルコース出現率 (10 2 mol / min)・300分 | 3947±269 | 3920±296 | 4348±315 | 3664±85 | 3580±91 | 3436±95 |
経口グルコース出現率(10 2 mol / min)・300分 | 2884±143 | 2967±69 | 3405±185 | 2910±90 | 2928±98 | 2780±87 |
循環中に現れる総経口グルコースの%(75 gのうち) | 69.6±3.5 | 71.3±1.7 | 78.9±4.7 | 69.7±2.5 | 71.2±2.8 | 71.3±3.1 |
(日本の単位にするにはグルコースは×18、インスリンは÷1000にしてください。)
上の図は上が経口グルコース出現率です。したが、内因性グルコース産生率です。紫が正常体重、青が肥満です。
肥満の人では、OGTTの最初の40分間で、正常体重よりも高い経口グルコース出現率を示しました。しかし、総グルコース出現率と経口グルコース出現率の増加分の曲線下面積は、両方の体重群で違いはありませんでした。ブドウ糖の摂取は、両方のグループで内因性グルコース産生を急速に抑制しましたが、肥満の人の方がより内因性グルコース産生が低下しました。スクラロースの摂取および吐き出しは、両方の体重群で総グルコース出現率または経口グルコース出現率に影響しませんでした。両方の体重群のすべてにおいて、5時間にわたって全身循環する経口摂取されたグルコースの量は、摂取したブドウ糖75gの70%前後でした。
正常体重 | 肥満 | |||||
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水 | スクラロース | 吐き出し | 水 | スクラロース | 吐き出し | |
インスリン感受性 | ||||||
S I [10 -5 dl・kg -1・min -1 /(pmol / L)] | 16.3±3.0 | 25.5±6.1 | 19.7±2.9 | 5.6±0.8 | 4.8±0.7 | 5.6±0.5 |
インスリンクリアランス | ||||||
クリアランス率(L・min -1) | 1.7±0.2 | 1.9±0.2 | 1.9±0.2 | 1.5±0.1 | 1.5±0.1 | 1.5±0.1 |
上の表はインスリンの感受性とクリアランスです。
肥満の参加者は、通常の体重の参加者よりもインスリン感受性が低く、インスリンクリアランス率が遅い傾向がありました。水と比較して、スクラロース摂取は正常体重の人でインスリン感受性を52%増加させました。スクラロース吐き出しでも、正常体重の人でインスリン感受性を27%増加させましたが、水との差は統計的に有意ではありませんでした。肥満ではインスリン感受性に有意な影響を与えませんでした。
ちょっとわかりにくい内容かもしれませんが、スクラロースの摂取では両方の体重群でグルコースの増加分の曲線下面積が30%増加しました。また、正常体重では、スクラロース摂取または吐き出しは、ブドウ糖負荷後の最初の1時間以内にインスリン濃度をわずかに低下させましたが、肥満では、スクラロース摂取は、吐き出しよりも有意に高いインスリン濃度を認めました。
つまり、人工甘味料に対する生体の反応は正常体重の人と肥満の人とでは違いがあるのです。しかも摂取しなくても口に含んだだけでも影響を与える可能性もあるのです。
人工甘味料のエネルギーはゼロと考えられても、やはり生理的に活性はあるようです。糖質過剰摂取よりは何倍も良いのかもしれませんが、できる限り避けた方が良いかもしれません。
糖質制限
「Effects of Sucralose Ingestion versus Sucralose Taste on Metabolic Responses to an Oral Glucose Tolerance Test in Participants with Normal Weight and Obesity: A Randomized Crossover Trial」
「正常な体重と肥満の参加者における経口耐糖能試験の代謝反応に対するスクラロース摂取とスクラロース味わいの影響:無作為化クロスオーバー試験」(原文はここ)
人工甘味料にそこまでこだわる必要ありますか?
糖質制限加工食品の多くは、人工甘味料使用です。エリスリトールなど天然系を使わないのは「安い」からです。
私個人は、糖質制限加工食品の人工甘味料はほとんど気にせず食べています。特に不調は感じません。量が少ないからかも知れません。
らこさん、コメントありがとうございます。
気にするかどうかはご本人の判断です。お酒やたばこでも体に有害だと思って摂取しているのはそれはそれで良いのです。
今回の記事は人工甘味料は全く何も体に作用しないものではなく、その人の条件によって違いがある可能性についての記事です。
痩せるために砂糖の一部を人工甘味料に置き換えることは有害である可能性があると考えられます。