メタボの人は運動しても痩せにくい

一般的には痩せるために運動を始める人が結構いると思いますが、なかなか痩せないのが実状でしょう。それはなぜか?今回の研究に一つの答えがあります。

今回の研究では、国際レベルのプロの持久力のあるアスリート、中程度に活動的(3回/週、最低150分/週の運動)な健康な人、およびメタボリックシンドロームのある人にそれぞれ運動をしてもらい、乳酸の蓄積、脂肪の燃焼、炭水化物(ブドウ糖やグリコーゲン)の燃焼を比較しています。

まずは参加者は、100ワット未満の強度で15分間自由にウォームアップするように言われました。100ワット未満の運動は、強度としてはかなり速足で歩く程度でしょう。100ワット未満なので、ゆっくりとした歩行でも構わないのでしょう。

その後、自転車の運動を開始しました。運動強度は10分ごとに約35ワット増加しました。そうしたときの違いはどうなったでしょう。(図は原文より)

上の図は運動パワー出力と平均血中乳酸濃度と脂肪燃焼速度の関係です。横軸は運動の強度、縦軸は左側が乳酸、右側が脂肪燃焼速度です。図の上からAはアスリート、Bは中等度活動の人、Cがメタボの人です。そうすると、乳酸値はアスリートでは最初非常に低く、300ワットを超えたあたりで2以上に上昇していますがメタボの人ではウォームアップ後の段階ですでに2に近い値を示しています。メタボではウォームアップだけでヘロヘロなのでしょう。

脂肪燃焼速度については、アスリートでは250ワット付近でピークになり、その後低下していますが、メタボでは最初から脂肪燃焼はかなり低く、運動強度を少し上げただけですぐに低下してしまって、200ワット未満ですでにゼロになっています。メタボだとせっかく運動しても脂肪がエネルギーとして使うことができません。

 

上の図は、運動パワー出力と平均血中乳酸濃度と炭水化物(血糖や筋肉のグリコーゲン)燃焼速度の関係です。どのグループも運動強度の増加に伴い炭水化物燃焼は増加しますが、アスリートでは比較的ゆっくりと増加するのに対して、メタボではすぐに炭水化物燃焼が増加し、乳酸も増加しています。

上の図は運動パワー出力と脂肪燃焼速度と炭水化物燃焼速度の関係です。アスリートではかなり運動強度が上がるまで炭水化物燃焼よりも脂肪燃焼の方が多くなっています。しかし、メタボでは運動強度を上げなくても、すぐに炭水化物燃焼の方が多くなるのです。

つまり、メタボの状態では運動しても、ブドウ糖や筋肉のグリコーゲンを使うだけで、脂肪をエネルギーにすることが非常に少ないことになります。恐らくミトコンドリアでのエネルギー産生も非常に低いレベルなので乳酸がすぐに溜まってしまうのでしょう。

メタボリックシンドロームの多くはインスリン抵抗性です。インスリンが高いままでは、脂肪を分解することは非常に難しいのです。以前の記事「インスリン分泌が少し増加するだけで脂肪分解は抑制される」で書いたように、ちょっとインスリンが高くなるだけで、脂肪分解は大きく低下します。

痩せるために運動するのではなく、痩せた後に運動すべきです。食事を変更し、できる限りインスリン抵抗性を低下させてから運動をすれば、その分脂肪燃焼が得られます。

インスリン抵抗性が高いまま、痩せるために頑張って運動しても、ほとんど脂肪はエネルギーとして使えず、非常に少ない糖をエネルギーとして使わなければならず、しかもミトコンドリアの機能や数も低下してしまっている状態なので、すぐに息が上がり、運動を長時間することができないでしょう。そうすると、日々の運動は長続きせずに挫折してしまうのです。

まずは、糖質制限でインスリン抵抗性を低下させて、それから運動を始めましょう。

糖質過剰症候群

「Assessment of Metabolic Flexibility by Means of Measuring Blood Lactate, Fat, and Carbohydrate Oxidation Responses to Exercise in Professional Endurance Athletes and Less-Fit Individuals」

「プロの持久力のある運動選手と体力の少ない人の運動に対する血中の乳酸、脂肪、および炭水化物の酸化反応を測定することによる代謝の柔軟性の評価」(原文はここ

2 thoughts on “メタボの人は運動しても痩せにくい

  1. 個人差はあるでしょうが、メタボ(インスリン抵抗性大)の人が“脂肪燃焼系人”になるには
    どの程度の糖質制限で、どの位時間がかかるでしょう。

    メタボ人がいきなり朝食抜きでジョギング30分とかしたら脂肪は燃焼しますかね。
    (30分続かず倒れそうではありますが)

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      正直なところご質問の答えは持っていません。情報があればまたお知らせいたします。
      ただ、朝食前のインスリン値は最も低いかもしれません。
      メタボの人では唯一の脂肪燃焼のチャンスかもしれません。
      今回の記事の研究によると、15分間のウォームアップでさえ、ヘロヘロなので、
      ジョギングではなく15分程度の息の上がらない程度のウォーキングから始めた方が良いと思います。

鈴木 武彦 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です