「LDLコレステロール=悪玉コレステロール」という考えがあまりにも一般的になり過ぎて、医師ですら疑問に思わない人もいます。LDLコレステロールの評価はいまだにほとんどがその「数値」のみです。「質」は全く考慮されていません。
糖質制限をすると、以前の記事「みなさんの血液検査データ2020 集計 その3 LDLコレステロール」で書いたように、LDLコレステロールは半分以上の人が140以上になります。
(上の図はここより)
「一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%,二次予防においてはLDL-C 低下率50%以上も目標値となり得る」と書かれているように、リスクが高いほどLDLコレステロール値を大きく下げることが必要になるように思われています。
しかし、中程度のリスクの人を対象とした、LDLコレステロールを低下させる薬物治療のRCT研究の結果では、1995年~2016年までに15の研究があり、そのうち死亡率が統計的に有意に低下したのはたった一つの少人数の研究であり、その研究だけ飛び抜けてリスクが低い結果でした。
高リスクの人を対象とした研究は、1994~2018年の20の研究で、死亡率低下を有意に認めたのはたった4つでした。死亡率低下を示す結果を見ると、1994年の研究では1人の死亡する人を減らすのに30人を5.4年治療が必要です。このころの研究は利益相反に関して非常に緩い時代のものです。2006年ごろから利益相反の監視がきつくなりました。最も最近の2018年の研究では250人を2.8年治療してやっと1人の命が救える計算です。
心血管疾患のリスク低下に関しては、死亡率低下よりは多くの研究が利益を示しています。2006年以降では中程度のリスクの人を対象にした研究で、7つのうち5つでリスク低下を示しています。しかし、どれもNNT(治療必要数)(NNTに関しては「糖質制限にスタチンの併用は危険ではないか?」など参照)は非常に高いものばかりで、NNTは50~250です。
高リスクの人を対象にした研究でも心血管疾患のリスク低下は、2006年以降で13の研究のうち4つだけです。NNTは53~100です。(図は原文より)
上の図は横軸が治療によるLDLコレステロールの低下の割合、縦軸がリスク低下の割合を示しています。LDLコレステロールの低下が10%程度でも60%程度でもリスク低下の割合とは関係していません。これはLDLコレステロール値を低下させることがリスクの低下と結びつかないことを意味していると思います。
ある研究では1999年から2013年にスタチンの処方は倍増したにも関わらず、再発性の心血管イベントの発生はスタチンを処方されていない人で減少しており、スタチンを処方されている人では変化はありませんでした。(ここ参照)
LDLコレステロールの低下に関しては過大評価されており、心血管疾患との関連は認めるかもしれませんが、もちろん因果関係は証明されていません。
家族性高コレステロール血症の人を対象にした3つの研究でも、どれも死亡率や心血管疾患のリスク低下は認められていません。
全ての研究は糖質過剰摂取状態の人を対象にしています。恐らくLDLコレステロールの研究のほとんどは製薬会社が関わっているでしょう。それにも関わらず、いくつもの矛盾する結果しか出ていません。そのような根拠が非常に乏しい状態で治療方針は決められています。
LDLコレステロールは「数値」ではなく、「質」を考えるべきでしょう。また、LDLは何らかの結果で増減するのであり、心血管疾患の原因とはならないと考えます。
糖質制限では大きな善玉のLDLが増加します。小さな危険なLDLは糖質過剰摂取で起こります。心血管疾患は糖質過剰症候群です。
糖質制限をしない状態でのスタチンの処方によって、多くの人は不必要な治療を受けているのでしょう。
「Hit or miss: the new cholesterol targets」「ヒットまたはミス:新しいコレステロールターゲット」(原文はここ)
世の中には数多の職業がありますが多くの業務ではルーチン優先で、必ずしも顧客利益最優先になっていないかもしれません。
同様に医療の仕事も(推測で失礼ですが)ツツガ無く業務を回すことや経済の事情が、
患者利益より優先されてしまうことがあるのかも知れません。
ただ、医療は他の仕事と違って国民の期待が桁違いと思うので、より厳しい評価にさらされ続けているのかと思います。
単純に考えて、コロナウィルス感染症の脅威で医療の需要が高まっている状況なのに、医療機関は経営危機、というのは矛盾した話ですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
患者さんにとって優しい治療は医療報酬が安く、経営が成り立たないのでしょう。
新型コロナに関してもその対応をすればするほど経営が成り立たなくなります。
国の考えていることですから…