人間にとってナトリウムは必須のものです。血中のナトリウムが低下すると意識障害を起こしたり、死ぬこともあります。そんな重要なものであるのに、摂取してもなぜか尿中にほとんどを捨てています。また汗と一緒に簡単に外に出してしまいます。人類の進化の過程で塩分が非常に貴重なものであれば、恐らくできる限り捨てないようにして、もっとどこかに蓄積しているのではないかと思います。(実際には蓄積していると思いますが)昔から豊富に存在したからこそ、摂取してもどんどん捨てるというメカニズムができたのではないかと思います。
塩分の制限が健康的だという方がいますが、そのエビデンスは不明です。以前の記事「糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」で書いたように、塩分(ナトリウム)の排泄量(摂取量)と心血管疾患や死亡率の間の関連はU字のカーブを描いています。
今回の研究では、高血圧のある人とない人とに分類して、心血管疾患のリスクと尿中ナトリウム排泄量との関連を分析しています。(図は原文より)
上の図は横軸が尿中のナトリウム排泄量、縦軸が死亡や主な心血管イベントの発生リスクです。上から全体、高血圧のある人、高血圧のない人です。全体や高血圧のある人では、尿中ナトリウム排泄量が5,000mg付近が最もリスクが低くなっています。ナトリウム5,000mgというのは食塩では12.7gです。高血圧があると、それ以上でも、それ以下でもリスクが上がっています。しかし、高血圧がない人ではそれ以上ナトリウム排泄量が増加しても、リスクは変化しませんが、それ以下になるとリスクが上がります。
上の図は横軸が尿中ナトリウム排泄量、縦軸が血圧です。上が収縮期血圧、下が拡張期血圧です。赤いグラフが高血圧のある人、青いグラフな高血圧のない人です。確かに、どちらも尿中ナトリウム排泄量の増加とともに血圧は増加しています。高血圧のある人ではナトリウム1g(食塩2.54g)当たり、収縮期血圧は2mmHg程度増加しますし、高血圧のない人では1.22mmHg増加します。ということは、食塩を5g増やしても、高血圧のある人で血圧は4、高血圧のない人では血圧が2~3上がるのみです。ほぼ誤差範囲でしょう。
上の図は横軸は尿中ナトリウム排泄量、縦軸は心血管疾患のない人の心血管イベントのリスク比です。青いグラフはナトリウム摂取が心血管疾患イベントに及ぼす影響は収縮期血圧を介してのみ関連すると想定したシミュレーションモデルです。赤いグラフは観察されたものです。シミュレーションモデルは新型コロナウイルスでも全く役に立ちませんでした。実態とかけ離れているのでしょう。高血圧のある人(図の上)ではナトリウム排泄量3~7g(食塩7.62~17.78g)未満ではほぼリスクは変化しませんが、それ以上およびそれ以下でリスクが高くなります。高血圧がない人ではナトリウム排泄量が多いほどリスクは低下します。
つまり、塩分を制限することが健康に良いのは、高血圧のある人だけであり、しかも制限のし過ぎは逆に有害になる可能性があります。そして、摂取しても良い量はかなりの幅がありそうです。
高血圧のない人にとっては塩分は十分に摂っても問題ないばかりか、塩分制限が有害である可能性が高いのです。
ただ、塩分摂取と高血圧や心血管疾患、死亡率などに関する研究には問題があります。多くの研究では他の食事に関する研究と同じように、食事のアンケートももとに分析していたり、非常に短期間の塩分の量を変化させて血圧などを調べたり、この研究のように実際の食塩の摂取量の代わりに尿中ナトリウム排泄量によって分析していることです。
尿中ナトリウム排泄量によって分析する一番の問題は、ナトリウムの摂取量が増加しているのに排泄量が低下している状態があることです。それこそが食塩感受性高血圧の本態かもしれません。腎臓のナトリウム再吸収、排泄能が通常であれば、塩分が過剰になれば尿中に捨てるだけです。しかし、それができない人では問題が起きるのでしょう。そのメカニズムを妨げる何かが存在しているはずです。
そこにはやはり糖質過剰摂取が関連しているかもしれません。以前の記事「塩分に感受性のある高血圧はインスリン抵抗性によるものであるかもしれない」でも書いたように、インスリン抵抗性が高い人では尿中に排泄する塩分も少なくなります。
食塩感受性高血圧のメカニズムはかなり複雑でしょう。(それについては次回以降で)
塩分摂取過剰=高血圧、という単純なものではないと思います。恐らく塩分過剰摂取は一部の人には有害ですが、塩分制限が健康的であるというエビデンスは明確ではありません。ナトリウム排泄量だけで考えれば、塩分制限は有害です。
「Associations of urinary sodium excretion with cardiovascular events in individuals with and without hypertension: a pooled analysis of data from four studies」
「高血圧の有無にかかわらず個人の尿中ナトリウム排泄と心血管イベントとの関連:4つの研究からのデータの統合分析」(原文はここ)
WHOは一日の塩分摂取量5グラム以下と規定していますね。この5グラム以下と言うのは、明らかに塩分制限と言っても過言ではないと思います。
なぜWHOは、こんな数字を出してきたんでしょうか?私には理解できません。つまり5グラムであるべき根拠が発表されていません。(そのデータを探し当てることができません)
清水先生は、WHOの5グラム根拠をどんなふうにお考えでしょうか?
もしご存知ならば教えてください。
ジェームズ中野さん、コメントありがとうございます。
今日の記事にさせていただきます。