塩分の摂り過ぎと高血圧は密接に関係していると一般的には考えられています。そのため塩分を控えめにすることは高血圧治療、予防、健康の基本だと思っている人もいると思います。しかし、高血圧の人の中には、塩分の摂り過ぎで血圧が上がり、塩分を減らすと血圧が下がる人(食塩感受性高血圧)と、塩分を増やしても減らしても血圧があまり変わらない人がいます。日本人の食塩感受性高血圧は20%とか40%とか様々な推測があります。
世界全体的に言えば、以前の記事「塩分を制限することによる血圧の低下は、たった1!」で書いたように、塩分制限をしてもほとんど血圧の変動はありません。
では、塩分に感受性のある食塩感受性高血圧は、本当に塩分過剰摂取が原因なのでしょうか?
今回の研究ではインスリン抵抗性との関係を分析しています。心血管系疾患、メタボリックシンドロームでは高血圧と高血糖が同時に合併していることも珍しくありません。血圧の塩分感受性は、血圧とは無関係に心血管イベントのリスク増加と関連していますし、また、インスリン抵抗性や高インスリン血症は、肥満または糖尿病とは無関係に、虚血性心疾患および死亡率と関連しています。
塩分感受性とインスリン抵抗性の関係はどうなっているのでしょうか?高血圧の人を塩分感受性のある人とない人のグループに分けて分析しました。(図は原文より)
上の図の白いバーは塩分に感受性のない群、黒いバーが塩分に感受性のある群です。縦軸はグルコースクランプ法というインスリン抵抗性を測定する方法でのグルコースの注入率です。注入率が低い方がインスリン抵抗性が高いことになります。そうすると、塩分感受性のある群の方が有意にインスリン抵抗性が高いことがわかります。
上の図は縦軸が塩分感受性指数で、5%以上は感受性ありとみなされます。横軸はグルコースクランプ法のグルコース注入率です。そうすると、塩分感受性指数はグルコース注入率に反比例していました。つまり、塩分感受性指数が低い方がインスリン抵抗性が低いことになります。
上の図はOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)での、時間(横軸)とインスリン分泌量(縦軸)の関係を示しています。○が塩分感受性のない群で、●が塩分感受性のある群です。そうすると、明らかに塩分感受性のない群ではインスリン分泌量が少なく、しかも120分後にはベースラインに戻っています。しかし、塩分感受性のある群では感受性のない群よりも明らかにインスリン分泌量は多く、ピーク時間が遅れ、120分後でもまだベースラインに戻っていません。
上の図は低塩分食から高塩分食に切り替えたときの尿中ナトリウム排泄変化量(縦軸)とグルコース注入率(横軸)です。高塩分食により塩分感受性のある群は、塩分感受性のない群と比較して、尿中ナトリウム排泄変化量は少なくなりました。つまり、塩分感受性のある群では塩分感受性を伴う相対的なナトリウム保持を意味しています。そして、グルコース注入率が高いほど、つまりインスリン抵抗性が低いほど、尿中ナトリウム排泄変化量は大きくなっているのです。塩分感受性のない人では、塩分摂取量が増加すると尿に排泄する量がその分増えるだけであり、インスリン抵抗性が高い人では尿中に排泄する塩分も少なくなります。
上の図は縦軸がヘマトクリット値の低下率で横軸がグルコース注入率です。ヘマトクリット値が低下するということは循環血液量が増加していると考えられます。高塩分食で塩分感受性のない群の方がヘマトクリット値の減少率が大きくなりました。しかもインスリン抵抗性が大きい方がヘマトクリット値の減少も大きくなっていました。
つまり、塩分に感受性のある高血圧の人の食後の高インスリン血症が、インスリンの腎臓の塩分保持効果や交感神経亢進を通じて血圧の上昇に寄与している可能性があります。
もちろん、インスリン抵抗性が塩分感受性を引き起こしているのか、塩分感受性がインスリン抵抗性を引き起こしているのかははっきりとはわかりません。
しかし、インスリン抵抗性と塩分感受性には明らかに関連があります。しかも今回の研究でもインスリン抵抗性があると考えられるグルコース注入率6以下では、圧倒的に塩分感受性のある人が多いことを考えると、インスリン抵抗性が塩分感受性を起こしている可能性は十分にあります。インスリンはナトリウム排泄を減らすからです。糖質制限ではインスリン抵抗性が低下し、高血圧が改善することが多いと思われます。インスリン分泌が少ない分、ナトリウム再吸収は減少し、塩分が尿中に排泄する量が増加します。
高血圧での塩分制限の前に、まずはインスリン抵抗性を下げてみましょう。糖質制限をすれば塩分なんて気にしなくてもよくなると思われます。
高血圧は塩分過剰ではなく、糖質過剰症候群です。食塩感受性高血圧はインスリン抵抗性のひとつの表現型だと思われます。
「Salt sensitivity is associated with insulin resistance, sympathetic overactivity, and decreased suppression of circulating renin activity in lean patients with essential hypertension」
「塩分感受性は、本態性高血圧の痩せた患者におけるインスリン抵抗性、交感神経過活動、および循環レニン活動の抑制の低下に関連している」(原文はここ)