インフルエンザワクチンの有効性

以前の記事「今年のインフルエンザワクチンは必要か?」で書いたように、インフルエンザワクチンが必要かどうかは疑問です。日本も厚労省が今年は65歳以上の人に優先的にワクチン接種を行おうとしています。(ここ参照)

では、インフルエンザワクチンの有効性はどの程度なのでしょうか?

厚労省のホームページの「インフルエンザQ&A」には次のように書かれています。

Q.21: ワクチンの効果、有効性について教えてください。
 インフルエンザにかかる時は、インフルエンザウイルスが口や鼻あるいは眼の粘膜から体の中に入ってくることから始まります。体の中に入ったウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません。
 ウイルスが増えると、数日の潜伏期間を経て、発熱やのどの痛み等のインフルエンザの症状が出現します。この状態を「発病」といいます。インフルエンザワクチンには、この「発病」を抑える効果が一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません。発病後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。これをインフルエンザの「重症化」といいます。特に基礎疾患のある方や高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、「重症化」を予防することです。
 国内の研究によれば、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています※1。

 「インフルエンザワクチンの有効性」は、ヒトを対象とした研究において、「ワクチンを接種しなかった人が病気にかかるリスクを基準とした場合、接種した人が病気にかかるリスクが、『相対的に』どれだけ減少したか」という指標で示されます。6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は60%と報告されています※2。「インフルエンザ発病防止に対するワクチン有効率が60%」とは、下記の状況が相当します。

・ワクチンを接種しなかった方100人のうち30人がインフルエンザを発病(発病率30%)
・ワクチンを接種した方200人のうち24人がインフルエンザを発病(発病率12%)
→ ワクチン有効率={(30-12)/30}×100=(1-0.4)×100=60%

 ワクチンを接種しなかった人の発病率(リスク)を基準とした場合、接種した人の発病率(リスク)が、「相対的に」60%減少しています。すなわち、ワクチンを接種せず発病した方のうち60%(上記の例では30人のうち18人)は、ワクチンを接種していれば発病を防ぐことができた、ということになります。
現行のインフルエンザワクチンは、接種すればインフルエンザに絶対にかからない、というものではありません。しかし、インフルエンザの発病を予防することや、発病後の重症化や死亡を予防することに関しては、一定の効果があるとされています。

※1平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷齊(国立療養所三重病院))」
※2平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究(研究代表者:廣田良夫(保健医療経営大学))」

さて、このQ&Aにも書かれているように、有効性は「相対的」な減少率を示しています。60%減少というとすごく効果があるように聞こえます。しかし、絶対的な有効性、減少率は全く違います。

相対的なリスクの減少率は、ほんのわずかな効果を誇張して実際よりも大きく見せるために、医療の世界、製薬会社などでは好んで用いられます。

コクランのシステマティックレビューによると、65歳以上の高齢者のインフルエンザの発症を低下させる可能性があると報告しました。プラセボと比較してインフルエンザワクチンにより6%から2.4%に低下しました。3.6%低下したので3.6%/6%=60%の減少率です。しかし、絶対的な減少率は3.6%です。1人の65歳以上のインフルエンザになるのを防ぐのに30人にワクチンを接種する必要があります(a number needed to vaccinate (NNV)=30)。1人のインフルエンザ様症状を防ぐには、42人にワクチンが必要です(NNV=42)。

インフルエンザの死亡率に関しては数が少なすぎて、評価できていません。また、高齢者の研究では研究期間中に亡くなったり、他の疾患で入院したりすることも珍しくありません。以前行われた厚労省の研究では、研究中に10%以上もの高齢者が何らかの要因で亡くなったり、入院したりしました。

65歳以上の人々に対するインフルエンザワクチンの安全性、有効性の十分な証拠はないとしています。NNVが30~40であったとしても、インフルエンザが重篤化したり、死亡したりするのはもっと割合が少なく、NNVに換算するとかなり大きな数になるでしょう。

高齢者ではありませんが、小児が1回の入院を防ぐためのインフルエンザワクチンの接種人数NNVは1,852だったという報告もあります。(ここ参照)つまり、1,852人にワクチン接種してやっと1人の入院が回避できる程度です。しかもこの研究の2つのワクチンでは熱性けいれんが多発しました。ワクチン接種後の熱性けいれんの推定リスクは0.39%でした。1人の入院を回避できる代わりに、7人が熱性けいれんを発症し、その中で2~3人が入院を必要とする計算です。

健康な成人がインフルエンザを発症するのを1人防ぐには71人にワクチン接種が必要とされています。(ここ参照)ワクチンによる発症率は2.3%から0.9%に低下するだけです。つまり1.4%しか低下しません。

インフルエンザワクチンの有効性なんてそんな程度です。この有効性が高いと思うか、低いと思うかはそれぞれです。

それで、今シーズンはさらに南半球の状況、世界からの旅行者がいないこと、多くの人が何らかの感染対策をしていることなどから、インフルエンザは激減する可能性が高いと思われます。それでもインフルエンザワクチンは必要でしょうか?

「Vaccines for preventing influenza in the elderly」

「高齢者のインフルエンザ予防のためのワクチン」(原文はここ

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