GLP-1受容体作動薬によるサルコペニアと骨粗鬆症

GLP-1受容体作動薬を使用すると確かに体重は減るでしょう。もちろん使っている間だけで、止めればまた体重は増加します。(「効果を維持するためにはやっぱりやめることができないGIP/GLP-1受容体作動薬」参照)

さらに「糖尿病においてGLP-1受容体作動薬やSGLT-2阻害薬で起こる筋肉量の減少」で書いたように、1年間でGLP-1受容体作動薬のセマグルチドで体重減少が5.7kgあったうちの総脂肪量減少は3.41kgで、内臓脂肪量はほとんど減少しておらず、筋肉量が2.26kg、体重減少の約40%も筋肉減少で起きていたのです。

GLP-1薬は確かに体重を減少させるかもしれませんが、同時に重要な筋肉も大きく減少させて、インスリン感受性を低下させて、薬の投与をやめたときに体重のリバウンドや糖尿病の悪化を起こしやすくさせる設計なのかもしれません。

製薬会社スポンサーのゴリゴリの利益相反研究のSTEP1試験を見てみましょう。(ここ参照、図もここより)過体重または肥満の成人にセマグルチド週1回投与を行いました。

論文には次のように書かれています。

「セマグルチド投与により、総脂肪量および局所内臓脂肪量がベースラインから減少しました。除脂肪体重は絶対値(kg)では減少しましたが、除脂肪体重が総体重に占める割合はセマグルチド投与により増加しました。」

都合の悪い話は、詳しく書かれず、補足の中に隠されます。

実際に数値を見てみると、セマグルチド投与により、総脂肪量は8.36kg減少しましたが、局所内臓脂肪量はたった0.36kgしか減少していません。0.36kgなんて誤差範囲です。不健康な脂肪である内臓脂肪がほとんど減らないというのは問題でしょう。

そして、除脂肪体重、つまり筋肉(および骨)の減少量は5.26㎏にもなりました。ひどい減り方です。体重減少の約40%が筋肉(および骨)の減少なのです。

筋肉だけでなく、骨に対する影響を見てみましょう。

骨折リスクが上昇した男女64人を対象とした臨床試験です。(ここ参照、図もここより)平均年齢63歳、BMI 27.5の閉経後女性55人(86%)と男性9人です。

週1回皮下投与のセマグルチド1.0 mgまたはプラセボを投与されました。

上の図は、ベースラインから52週までの P-PINP (A および B)、P-CTX (C および D)、および体重 (BとD) の変化を示しています。PINP(プロコラーゲン I 型 N 末端プロペプチド)は骨形成のマーカー、CTX(コラーゲンI型架橋C末端テロペプチド)は骨吸収のマーカーで、CTX血中濃度が高い場合、骨吸収が亢進していることを示唆します。これは、骨粗鬆症の進行や、骨折のリスクが高いことを意味すると考えられます。図のCとDを見てみると、セマグルチド群のほうがプラセボ群よりも骨吸収マーカーであるP-CTXの血漿レベルが高くなっています。

しかも、セマグルチド群のCTXの上昇は右肩上がりです。もしかしたら、長期間使用すると骨量減少の速度が加速する可能性もあるかもしれません。

P-PINP は差がありませんでした。

さらに、プラセボ群と比較して、セマグルチド群ではベースラインから52週目までに腰椎および股関節全体の骨密度が減少しました。大腿骨頸部の骨密度の変化については群間差はありませんでした。

つまり、GLP-1薬を使うと、筋肉だけでなく骨粗しょう症も促進してしまう可能性が高いのです。

では、GLP-1薬を中止したらどうなるのか?筋肉量や骨量は戻るのでしょうか?残念ながら、この疑問の答えはわかりません。最初に示した研究のSTEP1試験の追跡調査は、以前の記事「効果を維持するためにはやめることができないGLP-1受容体作動薬」で書きました。追跡調査ではGLP-1薬を中止した後12か月追跡しました。そこで体重のみが報告され、体組成は報告されませんでした。体重は平均して減量した体重のおよそ3分の2を取り戻してしまいました。GLP-1薬による最初の体重減少のおよそ60%が脂肪であったことを考えると、戻った体重は主に脂肪で構成されていたと考えていいでしょう。逆に筋肉や骨量が戻っていれば、製薬会社は大きな声で宣伝しそうです。「GLP-1薬で失った筋肉や骨は、薬をやめればすぐに戻ります」なんて。でも、筋肉や骨の減少は、内緒なので、戻っても言わないか?いずれにしても、薬をやめても失った筋肉や骨は戻らない可能性が十分にあります。

GLP-1薬による年間の筋肉量減少は、加齢に伴う筋肉量減少(年間1%程度)から予想される減少率の数倍から数十倍に相当します。高齢になる前で、通常10年間で1~2㎏減少ですからね。

今後、サルコペニア(加齢に伴い筋肉量が減少し、筋力と身体機能が低下する状態)や骨粗しょう症の患者がどっと増加するかもしれません。

もちろん、専門家の皆さんは、患者に処方する前にサルコペニアや骨粗しょう症のリスク増加については十分に説明されているはずです。

人間の本来のメカニズムを勝手にいじくる薬は様々なリスクを伴います。動物実験などの研究では、GLP-1薬はさらに恐ろしいことが起きている可能性が指摘されています。それについては次回以降で。

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