現在の治療薬のほとんどは対症療法であり、根本的に治しているものではありません。したがって慢性疾患の場合、その薬をやめればもとに戻ってしまうことも多いでしょう。糖尿病の薬もその中の代表的なものです。以前の記事「子供の肥満にも薬と手術を推奨する異常なガイドライン」でも取り上げた、セマグルチドというGLP-1受容体作動薬は日本では適応外ですが、体重減少のためにも使われています。
今回の研究ではそのセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)をBMI30以上または27以上で体重関連の併存症が 1 つ以上ある、糖尿病のない1961人の成人を対象に、セマグルチド2.4mg 週1回皮下投与またはプラセボ投与を68週間行いました。また同時にライフスタイルへの介入が行われ、内容は食事に関する4週間ごとのカウンセリング(1日エネルギー摂取量を500kcal低下させること)と身体活動 (週150分)で構成されていました。そして治療は中止され、その後を追いました。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は体重変化です。Aに示すようにセマグルチド群では大きく体重減少し、68週で18㎏の減量に成功しています。一方プラセボは2㎏程度の減量です。しかし、セマグルチドを止めた途端にどんどん体重が戻り、1年後には元の体重よりも6.6㎏少ないところまでリバウンドしました。Bに示すようにセマグルチドで体重減少が大きかった方が、1年後にベースラインからの体重低下が大きくなっていました。ライフスタイルの介入の効果が結果に大きな影響があるように思われます。
ベースライン (週 0) | 68週目 | 120週目 | ||||
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セマグルチド | プラセボ群 | セマグルチド | プラセボ群 | セマグルチド | プラセボ群 | |
平均 | 平均 | 平均 | 平均 | 平均 | 平均 | |
体重 (kg)、平均 ± SD | 105.6±21.8 | 105.4±25.6 | 87.5±21.4 | 103.2±25.6 | 99.0±22.5 | 105.5±26.2 |
BMI、平均値 ± SD | 37.6±7.0 | 37.7±8.0 | 31.2±7.2 | 36.9±8.0 | 35.0±7.1 | 37.6±8.2 |
収縮期血圧 (mmHg)、平均 ± SD | 129±14 | 130±15 | 121±14 | 128±13 | 131±15 | 132±15 |
拡張期血圧 (mmHg)、平均 ± SD | 81±10 | 80±10 | 78±11 | 79±9 | 82±10 | 81±11 |
HbA1c (%)、平均 ± SD | 5.7±0.3 | 5.7±0.3 | 5.2±0.3 | 5.5±0.4 | 5.6±0.3 | 5.7±0.5 |
脂質レベル (mg/dl) | ||||||
総コレステロール | 193.4 (18.4) | 194.8 (19.4) | 184.6 (20.9) | 194.9 (19.7) | 191.4 (19.7) | 193.4 (20.2) |
HDLコレステロール | 49.3 (23.9) | 48.9 (26.8) | 52.8 (23.8) | 50.1 (26.2) | 53.1 (26.2) | 49.4 (25.2) |
LDLコレステロール | 113.4 (29.4) | 113.7 (27.2) | 108.2 (32.0) | 115.0 (32.8) | 108.5 (30.4) | 108.8 (33.4) |
VLDLコレステロール | 25.5 (44.7) | 25.9 (54.1) | 18.6 (49.1) | 23.4 (52.4) | 23.5 (52.7) | 27.4 (56.4) |
中性脂肪 | 131.1 (46.5) | 132.7 (53.7) | 95.7 (50.1) | 119.4 (51.9) | 122.4 (57.3) | 140.8 (57.7) |
CRP (mg/L) | 2.95 (170.1) | 3.08 (112.8) | 1.28 (211.6) | 2.69 (142.9) | 1.83 (183.9) | 2.65 (152.2) |
上の表は様々なパラメータの変化です。下の図もあるので、図にない項目について、中性脂肪はセマグルチド使用中には大きく低下しましたが、やはり薬中止後には戻ってしまいました。
上の図は血圧とCRPとHbA1cです。例えばHbA1cは5.7が5.2まで下がったのに、薬を止めると5.6まで戻っています。血圧も同様です。
上の図は血糖カテゴリの変化を示しています。緑が正常範囲、黄色が前糖尿病、赤が糖尿病です。セマグルチド群で、もともとベースラインで正常だった人の1.2%が前糖尿病となり、その後1年で10.7%が前糖尿病に進行しました。ベースラインで前糖尿病だった人ではセマグルチドで93.6%が正常範囲になったにも関わらず、中止1年後には正常が43.3%まで低下し、55%は前糖尿病、1.7%は糖尿病まで進行しました。
結局は薬を止めればほとんどの人は体重や他のパラメータも戻ってしまいます。大きく体重減少が得られた人では、恐らくはしっかりと自分で食事改善をしていたのでしょう。製薬会社が勧める治療は、このようにずっと使い続けなければ、その効果は継続しないものばかりです。高血圧の薬を飲んで(食事改善をせずに)高血圧が治って、薬を止められた人はいますか?血圧の薬をやめれば血圧は上がりますし、血糖値の薬も同様です。LDLコレステロールのスタチンも同様です。薬は見た目の数値を改善し、何となく良くなっている気にさせてくれます。しかし、根本的には何も変わっておらず、根本的な原因が放置されるので、どんどん進行していくことが多いでしょう。
本来治療は病気や病態を改善させて、薬を止められるようにすべきだと思います。
しかし本当に患者が薬で簡単に治ってしまっては、医療業界は儲かりません。ずっと患者でいてくれることが重要です。慢性化し、ずっと薬を使い続けてくれれば、ずっと定期的にお金が入ってきます。もちろん悪化して死んでしまってはリピートしてくれる人がいなくなってしまうので、できる限り死なない程度の効果を維持して、決して治さない治療が行われています。そして新たな糖質過剰症候群の症状が出てきます。慢性疾患を慢性に経過させているのは医療側です。
食事の間違いが最も大きな原因です。その最大の原因が糖質過剰摂取です。あなたの体なあなたが食べたものでできています。薬に頼ってしまうと、根本原因が見過ごされてしまいます。
肥満は糖質過剰症候群です。まずは糖質制限ですね。
「Weight regain and cardiometabolic effects after withdrawal of semaglutide: The STEP 1 trial extension」
「セマグルチド中止後の体重回復と心血管代謝効果:STEP 1試験の延長」(原文はここ)
医療業界も経済的に立ち行かなければ継続不可です。
数値合わせの「治療」をしなくても経済的に潤う仕組み
があればいいですが、理想論ですかね。
医療を受ける側の情報リテラシーや努力が何より必要でしょうが、
「自助努力」を政治に強制されるのも違う気がします。