難病と糖質制限、ケトン体

いわゆる難病は、昔は「不治の病」と考えられていましたが、医療の進歩により克服された疾患もあります。ただ、根本的な治療は困難であり、慢性的な経過をたどる疾患が「難病」であるとされています。

その難病の中で「封入体筋炎」というものがあります。主に50歳以上で発症する慢性の経過を取る筋疾患の一つで、日本には1,000-1,500人の患者がいると推定されています。(ここ参照)進行性で5~10年で車椅子生活となるそうです。残念ながら有効な薬物療法は確立されていません。

しかし、この封入体筋炎に対してケトン食を使って食事療法を行った症例報告があります。

封入体筋炎が悪化してきた52歳の女性に対して、1年間ケトン食を行いました。ケトン食は脂質60%、タンパク質30%、食物繊維5%、糖質5%で、緑の野菜、肉、卵、ナッツ、種子、クリーム、天然油で構成されていました。(図は原文より)

ベースラインで筋肉の細胞の損傷を表すクレアチンキナーゼ(CK)値は1,000~1,500 U/L(正常範囲は30~180 U/L)で、体重は66kgでした。ケトン食導入前は常に歩行に杖が必要な状態でした。また、週に1〜2回の転倒があり、嚥下困難、筋骨格痛、うつ病を認めていました。またケトン食導入までの1年間でMRI上筋肉の炎症の悪化があり、大腿部の筋肉量の14%減少もありました。これは、大腿部の総体積に対する大腿部の筋肉の比率の4%の減少にあたります。

ケトン食を開始してわずか2週間で、筋骨格系の痛みが消え、トラマドールとパラセタモール(アセトアミノフェン)をすべて中止しました。4週目の終わりまでに、彼女の不安と抑うつ症状は解決していました。1年間のケトン食の終わりまでに、自立した歩行を取り戻し、もはや杖を必要としなくなっていました。転倒の頻度は2~3ヶ月に1回の割合にまで減少していた。嚥下障害や窒息のエピソードはもはや認めませんでした。筋力は概ね維持されており、3つの機能検査ではベースラインから1年後には、起き上がり動作が15.6秒から11.1秒に減少(ベースラインから29%の改善)、6分間歩行は327.5mから373.0mに増加(14%の改善)、階段昇降は36.4秒から28.6秒に減少(22%の改善)、と全ての検査において改善が認められました。

生活の質は、慢性疾患治療の機能的評価-倦怠感(FACIT-F)サブスケールを使用して測定されました。(スコアは0から52の範囲で、数値が大きいほど生活の質が高いことを示します)FACIT-Fは、倦怠感に関連する症状と日常の機能への影響を評価するためためのものです。

このFACIT-Fサブスケールは1年後には40点から48点に上昇し、ベースラインから20%の改善していました。また、CKは1,370mmol/Lから791mmol/Lに低下し、42%改善していました。

ベースラインと比較して1年後の両側の大腿部のMRIでは、筋肉の炎症は安定し、大腿部の筋肉量の2.9%の減少、大腿部の総体積に対する大腿部の筋肉の比率の持続的な1%の増加がありました。ケトン食の前の1年間では大腿部の筋肉量の14%減少、大腿部の総体積に対する大腿部の筋肉の比率の4%の減だったので、大幅な改善とも言えます。

ケトン食開始して1年後、患者の体重は59kgで、平均血糖値は5.10mmol/L(91.8mg/dL)、ケトン体のβヒドロキシ酪酸は2280μmol/Lでした。彼女が経験した唯一の副作用は疲労感と軽い頭痛でしたが、ケトン食を開始して3週間後に解消されました。

この患者は現在、2年以上ケトン食を続けており、完全で独立した生活を楽しんでおり、薬を必要としていないそうです。この論文によると、封入体筋炎は通常、進行性の非対称性の消耗と衰弱を経験し、しばしば嚥下障害を認めるようです。筋肉の強度は年間約5%低下し、下肢の筋肉が最も深刻な影響を受けます。大腿四頭筋の強度は、年間27.9%も低下する可能性があるそうです。機能的能力は年間13.8%低下し、発病から7年後で63%の患者が自立歩行ができなくなるようです。

凄いです。ケトン食。

もちろん1例の報告で全ての同じ疾患の人に当てはまるとは言えませんが、試す価値は十分にあると思います。

このような効果がケトン体によるものなのか、糖質制限によるものなのか、それとも両方なのかはわかりません。糖質制限とそれによるケトン体は、炎症を抑制し、細胞のエネルギーを高め、ミトコンドリアの異常を軽減し、活性酸素を減らし、オートファジーを刺激すると考えられ、それがこのような難病にも利益をもたらした可能性があります。

難病の多くは原因が不明です。封入体筋炎のように治療法が全くないものもあります。しかし、多くはミトコンドリアの機能障害や何らかの炎症が大きく関連しているように思います。

糖質過剰摂取によるブドウ糖からのエネルギーに大きく偏った状態が、関係しているのではないかと思います。ケトン体をメインエネルギーにすれば、様々な細胞が非常に機能的に働けるのではないかと思います。

まずは糖質制限、できればガッツリとケトン食を行ってみることは、原因不明や治療法が確立していないどんな疾患においても重要なのかもしれません。

もしかしたら難病の多くは糖質過剰症候群なのかもしれません。

 

「Impact of a Ketogenic Diet on Sporadic Inclusion Body Myositis: A Case Study」

「散発性封入体筋炎に対するケトン食療法の影響:事例研究」(原文はここ

2 thoughts on “難病と糖質制限、ケトン体

  1. 凄いですね。ケトン食。
    個人的感想にすぎませんが24~48時間断食すると、身体の痛みが取れて軽くなるようです。

    ケトン食の効果もさることながら、不必要な食品を摂らないことも大いに寄与するのでは?
    と思いつきました。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      ケトン体も大事だと思いますが、やはり血糖値を上げないことの方が重要ではないかと思います。

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