食後中性脂肪(TG)スパイクに注意

食後に高血糖になる血糖値スパイクは少しずつ認識されてきています。それを抑えるために食べる順番であるとか、食べる炭水化物の種類など様々な提案がなされていますが、そもそも糖質を摂らなければ血糖値スパイクは起きません。

私はそれと共に、食後の高中性脂肪になるTGスパイクという勝手な言葉を作り、それにも注意すべきであると思っています。

以前の記事「糖質を減らして脂質と交換するとHDLコレステロールは上昇し中性脂肪は低下する」で書いたように、炭水化物を脂質に置き換えると中性脂肪は低下します。

中性脂肪の変化量(mg/dL)
=ー2.22x(炭水化物→飽和脂肪)ー1.99x(炭水化物→一価不飽和脂肪)ー2.47x(炭水化物→多価不飽和脂肪)

中性脂肪値を下げるためには脂質摂取量を減らすべきだという、いわゆる専門家がいますが、現実は逆だということがわかっています。糖質制限をすると脂質摂取量が増えているのに、多くの人がどんどん中性脂肪値が低下します。

中性脂肪値は食後に大幅に増加する可能性があるために空腹時での採血が推奨されています。空腹時中性脂肪は表面上、食事に関連する変動を回避し、リスク評価のより安定した推定ができると思われているからです。しかし、食後の中性脂肪に富むレムナント(残存)リポタンパク質は心血管疾患に重要な役割を果たす可能性があると考えられています。

今回の研究では、空腹時ではない中性脂肪値と心血管イベントのリスクについて分析しています。血液検査のタイミングが最後の食事から8時間以上のものを空腹時、8時間以下のものを非空腹時として、その中性脂肪値により3つまたは5つのグループに分けてリスクを評価しています。3つのグループに分けた場合、空腹時は90以下、91~147、148mg/dL以上で、非空腹時は104以下、105~170、171mg/dL以上でした。5つのグループに分けた場合、空腹時は73以下、74~98、99~132、133~184、185以上で、非空腹時は85以下、86~113、114~154、155~214、215以上でした。(図は原文より)

上の表は3つのグループに分けたときのものです。非空腹時の中性脂肪値の最大のグループ、つまり中性脂肪値が171以上だと104以下のグループと比較して様々な調整をした後、約2倍の心血管イベント(致命的でない心筋梗塞、致命的でない虚血性脳卒中、冠状動脈血行再建術、または心血管死)のリスク増加がありました。

 

上の図は5つのグループに分けたものです。3つのグループ分けと同様に、非空腹時の中性脂肪値の最大のグループ、つまり中性脂肪値が215以上だと85以下のグループと比較して様々な調整をした後、約2倍の心血管イベントのリスク増加がありました。

上の図は採血までの食後の時間で分析したものです。食後2〜4時間の中止脂肪値と心血管イベントとの間に最も強い関連がありました。食後2~4時間の中性脂肪値を3つに分けた場合の最低のグループと比較して最大のグループでは4.48倍もリスク増加がありました。

 

上の図は3つのグループの最低と比較した最大のグループの心血管イベントのそれぞれのリスク比です。非空腹時グループの全ての心血管イベントと虚血性脳卒中で有意差がありました。

 

上の図はHDLコレステロールと中性脂肪値で分けたときのリスク比です。HDLコレステロールが50以上の場合、空腹時ではリスク増加はなく、非空腹時では中性脂肪値150以上だとリスクが増加していました。しかし、HDLコレステロールが50未満だと、中性脂肪が150未満でもリスク増加があり、150以上だとさらに大きくリスクが増加していました。そして、そのことは非空腹時の方が顕著でした。

 

食後だとしても、食後の中性脂肪値の大きな増加であるTGスパイクも起きて当然のものではなく、やはりスパイクはリスクがあると考えられます。(「絶食時ではない中性脂肪値上昇も危険性がある」「食後の中性脂肪スパイクとsdLDLの関連」参照)

以前の記事「大量のコレステロールを摂るとどうなるか? その1」で書いたように、n=1ではありますが、私の人体実験では、脂質を60g一気に摂取したにもかかわらず、中性脂肪値は33から105と72しか変化していません。通常食後の中性脂肪値のピークは4時間前後といわれていますが、この実験では1時間後が最も高く、その後はやや低下するものの横ばい、そして4時間後では明らかに低下してきています。また、脂質は吸収が遅いとよく言われますが、1時間後にすでに中性脂肪が最も高くなっていることを考えると、それほど吸収が遅いとも言えません。血液を肉眼で見てもそのときは「乳び」という白く濁った状態は認めませんでした。しかし、出た結果では1時間後だけが「乳び(1+)」でした。

恐らく、糖質制限をしていると脂質を大量に摂取しても、組織にどんどん脂質が運ばれ、それほど中性脂肪値が上昇しないと思われます。

非空腹時でも中性脂肪値は150を超えないようにした方が良いでしょう。

 

「Fasting compared with nonfasting triglycerides and risk of cardiovascular events in women」

「女性における空腹時と非空腹時トリグリセリドの比較および心血管イベントのリスク」(原文はここ

5 thoughts on “食後中性脂肪(TG)スパイクに注意

  1. 「中性脂肪値を下げるためには脂質摂取量を減らすべきだという、いわゆる専門家がいますが、現実は逆だということがわかっています。糖質制限をすると脂質摂取量が増えているのに、多くの人がどんどん中性脂肪値が低下します。」
    トレーナーや栄養士など、生活指導を生業とされている方々も、知識アップデートされていない場合が多いです。

    ところで猛暑の中ランナーを見かけることも度々。私は早朝(夜間?)3時頃走ってます。
    昨日TVで久しぶりに医師会会長の御尊顔を拝見いたしました。
    相変わらず「医療大変アピール」されていました。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      まずは自分の体で確かめれば良いと思います。栄養士などは特に自分が勧めた食事で血糖値や中性脂肪値などがどう変化するかを
      確かめるべきでしょう。病院の栄養士の中で糖尿病の人に糖尿病食を出した食後の血糖値、中性脂肪値を知っている人はまずはいないでしょう。

      私は猛暑の中、午前中に走ることが多いですが、すでに30度近い気温です。バテバテになることを楽しんでいます。
      今年の北海道は異常なほど暑い。
      オリンピックの一部を札幌に持ってきたのに合わせたようです。

  2. 清水先生

    いつも勉強させていただいています。

    高血糖は高TGを招きますが、摂取したばかりの糖質がTGスパイクの要因になるのでしょうか?

    TCに関しては、カイロミクロン中のコレステロールが多少存在しますが、食後に上昇しないという認識でよいのでしょうか?脂質を極端にとりすぎれば、上昇するのでしょうか?

    高血糖が高TGを招くことが詳しく書いてある書籍はありますか?

    1. T.Mさん、コメントありがとうございます。

      明日以降に記事にしたいと思いますので、ちょっとお時間をください。

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