アメリカ心臓病学会は中性脂肪を減らすためのライフスタイル介入として糖質制限を提唱 その3

以前の記事「その1」「その2」の続きです。糖質の種類による違いについて少し書かれています。

Type of Carbohydrate
Simple sugars (including monosaccharides and disaccharides) increase triglycerides more than oligo- and polysaccharides (complex carbohydrates), and dietary fiber attenuates the triglyceride-raising effect of dietary carbohydrate. The 2020 Dietary Guidelines Advisory Committee recommended that a healthy dietary pattern provide <6% of calories from added sugars for a 2,000 calorie diet and up to 7% to 8% of calories for higher-calorie diets (3,000 to 3,200 calories). These recommendations align with those of the AHA for added sugar (100 calories/d for women and 150 calories/d for men. The 2020-2025 Dietary Guidelines for Americans recommended <10% of calories per day from added sugars. In a systematic review and meta-analysis of 37 trials that reported lipid outcomes, higher versus lower dietary sugar intake increased triglycerides by 9.7 mg/dL, which was independent of the effects of sugars on body weight. In this analysis, the higher sugar intervention (which varied in the amount and type of sugar: sucrose, fructose, high-fructose corn syrup, or glucose) was compared to a lower-sugar diet that also varied significantly in the amount and type of carbohydrates. Free sugars stimulate hepatic triglyceride synthesis (fructose more so than glucose) via a stimulatory effect on de novo lipogenesis and VLDL secretion. Fructose may also impair postprandial triglyceride clearance due to decreased insulin levels (via decreased secretion) and decreased lipoprotein lipase activity.

炭水化物の種類

単糖(単糖と二糖を含む)は、オリゴ糖と多糖(複合糖質)よりも中性脂肪を増加させ、食物繊維は、食事による炭水化物の中性脂肪上昇効果を弱めます。2020年の食事ガイドライン諮問委員会は、追加の砂糖から、健康的な食事パターンでは2,000カロリーの食事あたり6%未満のカロリー、高カロリーの食事(3,000〜3,200カロリー)では最大7%〜8%のカロリーを提供することを推奨しました。これらの勧告は、AHAの砂糖の勧告(女性では100カロリー/日および男性では150カロリー/日)と一致しています。アメリカ人のための2020年から2025年食生活ガイドラインでは追加糖からの一日あたりのカロリーの<10%を推奨しています。脂質の結果を報告した37件の試験の系統的レビューとメタアナリシスでは、食事からの砂糖摂取量が多い場合では少ない場合と比べて中性脂肪が9.7 mg/dL増加しました。これは、体重に対する砂糖の影響とは無関係でした。この分析では、糖質の多い介入(糖の量と種類は様々:ショ糖、果糖、高果糖コーンシロップ、またはブドウ糖)を、炭水化物の量や種類が様々な糖質の少ない食事と比較しました。遊離糖は、(ブドウ糖よりも果糖の方が)denovo脂質生成およびVLDL分泌に対する刺激効果を介して、肝臓の中性脂肪合成を刺激します。果糖はまた、インスリンレベルの低下(分泌の低下による)およびリポタンパク質リパーゼ活性の低下により、食後の中性脂肪クリアランスを損なう可能性があります。

ここでも砂糖(糖質)の摂取量が多いと中性脂肪が増加することが書かれています。そして、ブドウ糖よりも果糖の方がより中性脂肪を増加させることも書かれています。

Although fruit is a dietary source of fructose, a recent meta-analysis of 5 cross-sectional studies reported a 21% decrease in triglycerides (OR: 0.79; 95% CI: 0.72-0.87) for the highest versus the lowest fruit intake category, suggesting that increasing fruit consumption is associated with a lower risk of hypertriglyceridemia. Added sugars, however, should be limited to <10% of calories for patients with triglycerides <500 mg/dL and to <5% of calories for patients with triglycerides ≥500 mg/dL. Artificial sweeteners may be used as a substitute for added sugars. It is important to note, however, that a recent Science Advisory from the AHA advises caution on the consumption of non-nutritive sweeteners. Further research is needed on the effects of the non-nutritive sweeteners on energy balance, cardiometabolic risk factors, and risk of CVD and other chronic diseases.

果物は果糖の食事源ですが、5つの横断研究の最近のメタアナリシスでは、果物の摂取量が最も多いカテゴリーと最も少ないカテゴリーで、中性脂肪が21%減少した(OR:0.79; 95%CI:0.72-0.87)と報告されています。果物の消費量の増加は、高中性脂肪血症のリスクの低下と関連していることを示唆しています。ただし、添加糖は、中性脂肪が500 mg/dL未満の患者のカロリーの10%未満、および中性脂肪が500 mg/dL以上の患者のカロリーの5%未満に制限する必要があります。人工甘味料は、添加糖の代わりに使用することができます。ただし、AHAの最近の科学勧告では、栄養価のない甘味料の摂取に注意するようにアドバイスしていることに注意することが重要です。非栄養甘味料がエネルギーバランス、心血管代謝の危険因子、心血管疾患やその他の慢性疾患のリスクに及ぼす影響については、さらなる研究が必要です。

食事、食材、栄養素のガイドラインを作る場合のエビデンスとして、最も難しいところは、その元の研究の質の問題です。今回の果物のメタアナリシスの研究についても、その元となるデータは食事アンケートです。例えば、メタアナリシスの果物摂取量と中性脂肪の関連を評価する研究で最大の研究では、次の図のように参加者の特徴や食事アンケート結果から得られる摂取量は果物に限らず大きく異なります。(図はこの論文より)

果物摂取量が少ないグループは最も摂取量の多いグループと比較して、BMIが高いし、肥満率は高いし、活動性は低いし、野菜摂取量は低いし、肉や魚の摂取量は高いし、全粒穀物の摂取量は低いし、精製穀物も摂取量は高いのです。統計的に分析するときこのような要因は調整されますが、それが正しく調整されている証拠はありません。これらの様々な要素は複合して影響しているので、果物だけ(しかも質の低いデータ)で中性脂肪値がどうのこうのいうことは難しいでしょう。

つまり、果物が中性脂肪にどのように影響するかは、同じ条件の人たちを集めて、果物摂取量だけを変更して比較しなければなりません。もちろん、果物には食物繊維なども多く含まれているので、異性化糖などの果糖を摂取するよりは断然良いでしょう。しかし、現在の果物は甘すぎます。たとえ中性脂肪値は上げなかったとしても、果糖の悪影響はそれだけではありません。

 

Clinical Summary: Patients with hypertriglyceridemia should limit intake of added sugars, sugar sweetened beverages, and desserts. The clinician should advise patients to consume whole fruit and avoid fruit juices when possible. Emphasize fresh fruits without added sugar or salt.

臨床的概要:高中性脂肪血症の患者は、追加の砂糖、砂糖で甘くした飲料、およびデザートの摂取を制限する必要があります。臨床医は、果物全体を消費し、可能な場合はフルーツジュースを避けるように患者にアドバイスする必要があります。砂糖や塩を加えずに新鮮な果物を強調します。

摂るのであれば果物そのものでしょう。市販のフルーツジュースは100%であっても健康的ではありません。しかもフルーツジュースはそこに含まれる果糖は大量です。

そのあとの記述にはオメガ3や身体活動についても書かれています。そしてもう1つ、アルコールについても書かれています。

Alcohol
Alcohol consumption of 1 ounce per day is estimated to correspond to a 5% to 10% higher concentration of triglycerides in drinkers versus nondrinkers. A standard drink is 12 ounces of regular beer, 5 ounces of wine, or 1.5 ounces of distilled spirits. The alcohol and sugar content in mixed drinks varies. Persons who do not consume alcohol should be advised not to start.

The effects of alcohol on triglycerides are synergistically exaggerated when coupled with a meal high in saturated fat. An oral fat load produces transient lipemia. Simultaneous ingestion of alcohol impairs chylomicron hydrolysis and also increases triglyceride production and secretion of triglyceride-rich VLDL. Excess alcohol consumption, particularly in individuals with pre-existing hypertriglyceridemia, is associated with marked triglyceride elevation, often ≥250 mg/dL, and can precipitate hypertriglyceridemic pancreatitis. High-risk individuals should abstain completely from alcohol to reduce the risk of developing pancreatitis.

アルコール
一日あたり1オンスのアルコール消費は、非飲酒者と比較して、飲酒者では中性脂肪が5%〜10%高い濃度に相当すると推定されています。標準的な飲み物は、12オンスの通常のビール、5オンスのワイン、または1.5オンスの蒸留酒です。ミックスドリンクのアルコールと砂糖の含有量はさまざまです。アルコールを消費しない人は飲酒を始めないように忠告されるべきです。

飽和脂肪の高い食事と組み合わせると中性脂肪に対するアルコールの効果が相乗的に大きくなります。経口脂肪負荷は一過性の脂肪血症を引き起こします。アルコールの同時摂取は、カイロミクロンの加水分解を損ない、また中性脂肪の産生および中性脂肪に富むVLDLの分泌増加ももたらします。過剰のアルコール摂取は、特に既存の高中性脂肪血症を有する人で中性脂肪の上昇と関連している。しばしば250mg/dL以上では高中性脂肪血症性膵炎を引き起こす可能性があります。高リスクの人は、膵炎を発症するリスクを減らすために、アルコールを完全に控えるべきです。

アルコールは果糖と同様に中性脂肪を増加させます。糖質制限をしても中性脂肪が減少しない場合にはアルコール摂取を見直すことが必要かもしれません。

最後のまとめのようなところでも次のようなことが書かれています。

個々のニーズに応じて栄養療法を調整するために、高中性脂肪血症の主な原因を評価する必要があります。一部の患者は総脂肪の大幅な削減から恩恵を受けるかもしれませんが、他の患者は食事の炭水化物を減らすことからより多くの恩恵を受けるかもしれません。

アメリカ心臓病学会はまだ総脂肪を減らすことを手放してはいませんが、炭水化物を減らすことが大きく中性脂肪を減らすことを認めました。大きな前進です。多くの人が糖質制限をして中性脂肪値をしっかり下げてしまうと、彼らの仕事が激減する可能性があるにも関わらず、もはや逃げることが難しくなったのでしょう。

日本の心臓病学会はどうするでしょうか?

「2021 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Management of ASCVD Risk Reduction in Patients With Persistent Hypertriglyceridemia: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee」

「持続性高中性脂肪血症患者におけるASCVDリスク低減の管理に関する2021年ACC専門家コンセンサス決定経路:アメリカ心臓病学会ソリューションセット監視委員会の報告」(原文はここ

2 thoughts on “アメリカ心臓病学会は中性脂肪を減らすためのライフスタイル介入として糖質制限を提唱 その3

  1. 「中性脂肪」やはり悪。
    「コレステロール」はどうい扱いなのでしょうかね。

    朝のNHKパラリンピック関連ニュースで、アメリカ人水泳コーチが(多分昔は選手だったのでしょうが)
    ものすごい太鼓腹でした。食生活気になりました。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      ライフスタイル介入では、コレステロールについてはちょろっと書かれていますが、
      先日の記事にあったように糖質制限ではLDLコレステロールが上昇することがある、と言いながらコレステロール削減については
      ほとんど書かれていません。今までであれば糖質制限はLDLコレステロール上昇するリスクがあるから推奨されない、
      という立場をとってもおかしくありませんでした。
      実際のところ彼らもLDLがあまり関係していないことを知っているので、コレステロールについてはあまり触れないのでしょう。
      今回は高中性脂肪の改善の内容でもありますし。
      しかし、スタチンを手放すわけではないので、治療の内容ではスタチンについてはいろいろ書いてあります。

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