アメリカ心臓病学会は中性脂肪を減らすためのライフスタイル介入として糖質制限を提唱 その2

アメリカ心臓病学会は中性脂肪を減らすための食事として糖質制限を提唱しました。前回の記事「その1」の続きです。

High-protein diets: A higher-protein diet is defined as having 25% of energy from protein, 30% from fat, and 45% from carbohydrates. A higher-protein (31% of energy) versus a standard-protein (18% of energy) weight-loss diet causes greater weight loss (−0.79 kg; 95% CI: −1.50 to 0.08 kg) and triglyceride lowering (−20 mg/dL; 95% CI: −29 to 11 mg/dL). In a study of individuals with metabolic syndrome (n = 110; baseline triglycerides = 179 mg/dL), after 12 months on a high-protein (1.34 g/kg body weight) weight-loss diet (500-calorie deficit per day) versus a conventional weight-loss diet (0.8 g/kg body weight of protein), those on the high-protein diet had greater weight loss (9 kg) than the conventional diet (6.4 kg). In addition, those on the high-protein diet had a 35% reduction in triglycerides versus a nonsignificant 5% reduction in the conventional diet group.

高タンパク食:高タンパク食は、エネルギーの25%がタンパク質、30%が脂肪、45%が炭水化物であると定義されています。標準タンパク質(エネルギーの18%)と比較して高タンパク質(エネルギーの31%)の減量食は、より大きな減量(-0.79 kg; 95%CI:-1.50〜0.08 kg)と中性脂肪低下(-20 mg / dL; 95%CI:-29〜11 mg / dL)を示します。メタボリックシンドローム(n = 110;ベースライン中性脂肪= 179 mg / dL)の人の研究では、高タンパク(1.34 g / kg体重)の減量食(1日あたり500カロリーのカロリー制限)で12か月後従来の減量食(0.8g / kg体重のタンパク質)と比較して、高タンパク食の人は、従来の食事での6.4kgよりも大きな減量(9kg)を示しました。さらに、高タンパク食を摂取している人は、中性脂肪が35%減少したのに対し、従来の食事群では5%減少でした。

ここでは、高タンパクのカロリー制限食が中性脂肪や体重減少に有益であることが書かれています。ちょっと糖質制限とは違う食事ですね。

Intermittent fasting: Common forms of intermittent fasting are alternate-day (3 to 4 days/wk, consumption of ≤25% of energy needs during a 24-h period) and periodic fasting (fasting 1 or 2 days/wk). One type of intermittent fasting—time-restricted eating—describes a scenario in which food intake is limited to a specific window of time each day. An AHA Scientific Statement summarized the effects of intermittent fasting regimens on body weight loss and changes in triglycerides, as summarized in 10 intervention studies. After 3 to 24 weeks of intervention, participants had a 3% to 8% weight loss on average. Weight loss was greater with alternate-day fasting (0.75 kg/wk) versus periodic fasting (0.25 kg/wk). Triglycerides decreased 16% to 42%, with the greatest decreases in triglycerides associated with the greatest weight loss. With a 1-kg per week weight loss, triglycerides decreased ≈30% to 40%, and with a 0.25- to 0.5-kg per week weight loss, triglycerides decreased by ≈10% to 20%. In 3 systematic reviews and meta-analyses conducted to evaluate the effects of time-restricted eating and/or intermittent fasting (vs control) on weight loss and cardiometabolic risk factors, weight loss ranged from 1 to 4 kg and triglycerides decreased by 6 to 12 mg/dL.

インターミッテントファスティング(断続的断食):断続的断食の一般的な形態は、隔日(3〜4日/週、24時間の間に必要なエネルギーの25%以下の消費)と定期的断食(1日または2日/週の断食)です。断続的断食の一種である時間制限のある食事は、食物摂取が毎日特定の時間枠に制限されるシナリオをいいます。AHAの声明は、10の介入研究に要約されているように、断続的断食療法が体重減少と中性脂肪の変化に及ぼす影響を要約しています。3〜24週間の介入後、参加者は平均して3〜8%の体重減少が見られました。体重減少は、断続的断食(0.25kg /週)と比較して、隔日断食(0.75kg /週)の方が大きくなりました。中性脂肪は16%と42%減少し、中性脂肪の最大の減少は最大の体重減少に関連していました。週に1kgの体重減少で、中性脂肪は約30%から40%減少し、週に0.25から0.5 kgの体重減少で、中性脂肪は約10%から20%減少しました。時間制限のある食事および/または断続的断食(対コントロール)が体重減少および心血管代謝の危険因子に及ぼす影響を評価するために実施された3つの系統的レビューおよびメタアナリシスでは、体重減少は1〜4 kgの範囲であり、中性脂肪は6〜12mg/dL減少しました。

次に示されているのは断食系です。様々な方法はあるでしょうが、どれも体重減少、中性脂肪減少を示します。1日おきの隔日断食が最も効果があるようです。(私はあまりやりたくない方法ですね)中性脂肪の減少は体重減少と関連していて、週に1kg減少すると30~40%中性脂肪が減少するようです。

Clinical Summary: Higher-fat, lower-carbohydrate diets are associated with greater reduction in triglycerides as a response to weight loss compared with lower-fat, higher-carbohydrate diets. All carbohydrate-restricted diets result in significant and similar weight loss, but the reduction in triglycerides is greatest for a very-low-carbohydrate diet. Overall, evidence supports that a higher-protein diet is associated with greater weight loss and reduction in triglycerides, but there is some inconsistency in current data that may reflect the accompanying changes in carbohydrate or fat. Triglycerides are reduced with intermittent fasting in proportion to weight loss.

臨床的概要:高脂肪低炭水化物食は、低脂肪高炭水化物食と比較して、体重減少への反応として中性脂肪の大幅な減少と関連しています。すべての炭水化物制限食は、有意で同様の体重減少をもたらしますが、中性脂肪の減少は、非常に低炭水化物の食事で最大です。全体として、高タンパク食は中性脂肪の大幅な体重減少と減少に関連していることを示す証拠がありますが、炭水化物または脂肪の変化を反映している可能性のある現在のデータにはいくつかの矛盾があります。中性脂肪は、体重減少に比例して断続的断食で減少します。

その1で書かれたことと今回の内容のまとめですが、糖質制限食は体重減少、中性脂肪減少をもたらし、非常に低炭水化物食にするとその減少は最大になると言っています。そして、高タンパク質による中性脂肪減少については炭水化物(脂質)の摂取量の変化によって起きたものかもしれないと言っています。私もそう思います。高タンパク食が中性脂肪を低下させるというよりもそれに伴う炭水化物の減少の方が大きな効果をもたらしていると思います。

A recent review of very-low-carbohydrate and ketogenic diets and cardiometabolic risk reported that triglyceride levels are inversely associated with carbohydrate intake (importantly, it was also noted that very-low-carbohydrate and ketogenic diets increase LDL-C, markedly in some patients). The 2013 AHA/ACC guideline on lifestyle management to reduce cardiovascular risk summarized the effects of substituting various macronutrients on triglycerides.

超低炭水化物食とケトン食療法および心血管代謝リスクに関する最近のレビューでは、中性脂肪値の低下が炭水化物摂取量と逆相関していることが報告されています(重要なことに、超低炭水化物食とケトン食はLDL-コレステロールを増加させることも指摘されています )。心血管リスクを低減するためのライフスタイル管理に関する2013年のAHA / ACCガイドラインは、中性脂肪に対するさまざまな主要栄養素の代替の影響を要約しています。

ここでも、糖質制限食やケトン食において炭水化物摂取量が中性脂肪と逆相関、つまり炭水化物摂取量を減らせば中性脂肪値が減少すると述べています。しかし、糖質制限やケトン食がLDLコレステロールを増加させることがあることを指摘することを忘れていませんね。しかし、重要とは言いながらカッコの中の記述であり、控えめに書かれているのは、LDLコレステロールの重要性が高くないことを認めたようにも感じてしまいます。

Carbohydrate, Protein, and Fat
For every 1% of energy from saturated fatty acids that is replaced by 1% of energy from either carbohydrates (not refined nor added sugars, but fiber-rich, complex carbohydrates) or monounsaturated fatty acids, triglycerides increased ≈1.9 and 0.2 mg/dL, respectively. In contrast, when PUFAs are the replacement nutrient, triglycerides are lowered by about 0.4 mg/dL.

When 1% of energy from carbohydrates is replaced by 1% of energy from monosaturated fatty acids (MUFAs), triglycerides are lowered by 1.7 mg/dL; when PUFAs are the replacement nutrient, triglycerides are lowered by 2.3 mg/dL. Modification to the Dietary Approaches to Stop Hypertension dietary pattern by replacing 10% of calories from carbohydrates with 10% of calories from unsaturated fat (8% MUFAs and 2% PUFAs) lowered triglycerides by 10 mg/dL; replacing 10% of calories from carbohydrates with 10% of calories from protein lowered triglycerides by 16 mg/dL. A dose-response effect of dietary carbohydrate on triglyceride levels has been reported: triglycerides decreased by −23.9 mg/dL (95% CI: −38.1 to −8.9 mg/dL) on a very-low-carbohydrate diet (3% to 30% of energy), by −15.9 mg/dL (95% CI: −23.0 to −9.7 mg/dL) on low-carbohydrate diets (30% to 40% of energy), and by −8.9 mg/dL (95% CI: −12.4 to -5.3 mg/dL) on the moderately-low-carbohydrate diets (40% to 45% of energy).

炭水化物、タンパク質、脂肪
飽和脂肪酸からのエネルギーの1%ごとに、炭水化物(精製糖や添加糖ではなく、繊維が豊富な複合炭水化物)または一価不飽和脂肪酸からのエネルギーの1%に置き換えられると、中性脂肪はそれぞれ約1.9および0.2 mg / dL増加しました。対照的に、多価不飽和脂肪酸に代替した場合、中性脂肪は約0.4 mg / dL低下します。

炭水化物からのエネルギーの1%が一価飽和脂肪酸からのエネルギーの1%に置き換えられると、中性脂肪は1.7 mg / dL低下します。多価不飽和脂肪酸に代替した場合、中性脂肪は2.3 mg / dL低下します。炭水化物からのカロリーの10%を不飽和脂肪からのカロリーの10%(8%一価不飽和脂肪酸および2%多価不飽和脂肪酸)に置き換えることによる、DASH食療法は、中性脂肪を10 mg / dL低下させました。炭水化物のカロリーの10%をタンパク質のカロリーの10%に置き換えると、中性脂肪が16 mg / dL低下しました。中性脂肪に対する食事性炭水化物の用量反応効果が報告されており、中性脂肪は、超低炭水化物食(摂取エネルギーの3~30)で-23.9mg / dL(95%CI:-38.1から-8.9mg / dL)減少し、低炭水化物食(エネルギーの30%~40%)で-15.9mg / dL(95%CI:-23.0から-9.7mg / dL)減少、および中程度の低炭水化物食(エネルギーの40%~45%)-8.9mg / dL(95%CI:で-12.4から-5.3mg / dL)減少しました。

つまり、簡単に言えば炭水化物を脂質に置き換える割合が多いほど中性脂肪は低下するということです。糖質を減らし、脂質を増やせば中性脂肪は低下するのです。中性脂肪は中程度の糖質制限でも多少しますが、やはりしっかりと糖質制限をした方が低下量は大きくなります。

Clinical Summary: Meaningful reductions in triglycerides can be achieved by decreasing the carbohydrate content of the diet. When lowering total cholesterol in the diet to reduce triglyceride levels in patients with hypertriglyceridemia, the total fat content should be adjusted according to baseline triglyceride levels. It is important to keep in mind that when dietary carbohydrates are reduced, there is usually a decrease in dietary fiber intake. Clinicians should address strategies to maintain a healthy intake of fiber by replacing refined grains (white bread, white rice, pasta) with fiber-rich, whole grain cereals and bread, and brown rice.

臨床的概要:中性脂肪の有意な減少は、食事の炭水化物含有量を減らすことによって達成することができます。高中性脂肪血症患者の中性脂肪値を下げるために食事中の総コレステロールを下げる場合、総脂質含有量はベースラインの中性脂肪に従って調整する必要があります。食事の炭水化物が減少すると、通常、食物繊維の摂取量が減少することを覚えておくことが重要です。臨床医は、精製穀物(白パン、白米、パスタ)を繊維が豊富な全粒穀物とパン、玄米に置き換えることにより、繊維の健康的な摂取を維持するための戦略に取り組む必要があります。

まとめでももう一度炭水化物を減らせば中性脂肪が減少すると言っています。その次のパラグラフは私の英語力ではちょっとわかりませんが、食事の脂質含有量は中性脂肪値の方がコレステロールよりも重要だと言っているのでしょうか?

その次に書かれていることは非常に誤解です。炭水化物が減ると食物繊維が減ると言っています。当然炭水化物=糖質+食物繊維ですから、単純に考えれば食物繊維は減少しますが、いわゆる穀物などの炭水化物ではなくても、野菜や海藻などには多くの食物繊維が含まれるので、全く問題はありません。食物繊維を摂取するためにわざわざ糖質をたっぷりと含む全粒穀物、玄米などを食べる必要は全くありません。

まだまだ我々の認識とはずれていることもありますが、かなりの分量の記述でしつこく、中性脂肪の減少は炭水化物摂取量の減少により起こることが書かれています。かなりの進歩です。

 

「2021 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Management of ASCVD Risk Reduction in Patients With Persistent Hypertriglyceridemia: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee」

「持続性高トリグリセリド血症患者におけるASCVDリスク低減の管理に関する2021年ACC専門家コンセンサス決定経路:アメリカ心臓病学会ソリューションセット監視委員会の報告」(原文はここ

2 thoughts on “アメリカ心臓病学会は中性脂肪を減らすためのライフスタイル介入として糖質制限を提唱 その2

  1. アメリカ心臓病学会、何物にも囚われる事無くガチに疾病予防・改善に向き合ってますね。

    先生のおっしゃる通り
    「食物繊維を摂取するためにわざわざ糖質をたっぷりと含む全粒穀物、玄米などを食べる必要は全くありません。」
    は気になりますが。

    でも健康志向の人は無条件に全粒穀物、玄米を肯定しがちですよね。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      全粒穀物、玄米などを食べるという発想はどうしても糖質を一定割合で食べなければならない、という前提があるからでしょう。
      このようなことを推奨する人は「糖質を食べない」という考えには至りません。

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