なんとなく印象として新型コロナウイルスワクチン接種後の帯状疱疹の発症が増加している感じがします。きちっとした数はわかりませんし、多くは皮膚科を受診すると思うのでわかりませんが、痛みを訴えてペインクリニックを受診する帯状疱疹の患者さんが増えている感じです。ワクチン接種後に発生する一過性のリンパ球減少が原因と考えられています。しかし、ワクチン接種後しばらくたった後に発症しているケースも多々あるように思えます。これらがワクチンによるものかその他の要因なのかはわかりません。
帯状疱疹はなんといっても痛い!私も以前になったことがありますが、比較的軽く済んだのですが、本当に痛い。
スペインの研究で、ワクチン接種後に405人の皮膚の反応について分析しています。患者の平均年齢は50.7歳で、80.2%が女性でした。(図は原文より)
上の図は主な皮膚反応です。水痘帯状疱疹(10.1%)と単純ヘルペスウイルス(3.7%)の再活性化が反応の13.8%を占めました。ただ単純ヘルペス程度であれば病院受診をしない人も多いでしょうから、実際にはもっと多いと思います。帯状疱疹は多くは痛みを伴い、重症度も高く、36・6%が病気で休暇を取っていました。
帯状疱疹では通常抗ウイルス薬を投与します。発病初期に近いほど効果が期待できるので、早期に投与を開始することが推奨されています。目安として、帯状疱疹の治療においては皮疹出現後5日以内に投与を開始することが望ましいと添付文書には書かれています。しかし、この抗ウイルス薬には痛みを緩和する作用はありません。だから、私は他の方法で積極的に痛みを治療しています。帯状疱疹のときにしっかりと痛みを抑えた方がその後に問題を起こさないことが多いと考えられているからです。
皮疹が出る前に痛みが出ることが多いと思います。皮疹が出る前に胸に痛みが出ると肋間神経痛と間違うこともあるでしょう。
さて問題は、帯状疱疹の皮疹が治まって、痛みだけが残る帯状疱疹後神経痛です。これがまた痛い。帯状疱疹後神経痛は一般的には神経障害性疼痛という人間ではちゃんとは証明されていない病気の一つと位置付けられています。(「やっぱりリリカは効かない 副作用たっぷりの科学的根拠のない適応症」参照)
その帯状疱疹後神経痛の薬と言えばリリカ(プレガバリン)です。(ちなみにリリカはファイザーの薬です)最近はタリージェという薬も出ました。さて、このリリカ、どれほどの効果でしょう。(表はこの論文より改変)
用量 (mg /日) | NNT (95%CI) | |
少なくとも50%の痛みの強さの減少 | ||
リリカ(プレガバリン) | 300 | 5.3(3.9から8.1) |
600 | 4.0(3.1から5.5) | |
少なくとも30%の痛みの強さの減少 | ||
リリカ(プレガバリン) | 300 | 4.2(2.8から8.9) |
600 | 2.7(2.2から3.7) |
NNTは治療必要数(number needed to treat)です。1人に効果が現れるまでに何人に治療をする必要があるのかを表す数字です。帯状疱疹の痛みを50%以下にするには最大量のリリカを使ってもNNTは4であり、4人に1人しかこのような効果が認められないことになります。30%の痛み減少でさえ、NNT2.7で約3人に1人程度の割合でしか効果を発揮できません。しかも副作用が強すぎて600mg飲める人はあまりいないでしょう。高齢者では300mgも難しいです。リリカの効果は良いところ10~20%程度の痛み減少でしょう。
帯状疱疹後神経痛の中でつらい症状はアロディニアというものです。日本語では異痛症というものです。これは触った程度の刺激で痛みを感じてしまいます。だから下着や服がこすれても痛いのです。非常につらい痛みです。
これまで、以前は私はアロディニアは治らないと思っていました。もちろん100%でないとしてもほとんど気にならない程度まで改善することもなかなか難しいと思っていました。しかし、現在では様々な方法を組み合わせて、かなり改善できるようになっています。リリカやタリージェだけでなく、すべての痛み止めをやめることができるまで改善することも珍しくありません。そこまで改善するにはひと手間も二手間も必要ですが、鬱々とした患者さんがニッコリと笑っているのを見ると、ちょっとは役に立てたのかな、と思います。札幌(または近郊)に住んでいてなかなか帯状疱疹後神経痛が改善しない方はご相談ください。
「Cutaneous reactions after SARS-CoV-2 vaccination: a cross-sectional Spanish nationwide study of 405 cases」
「SARS-CoV-2ワクチン接種後の皮膚反応:405例のスペインの全国横断研究」(原文はここ)